第105話「僕とフリオと校庭で③」『深読み LIFE OF PI(ライフ・オブ・パイ)& 読みたいことを、書けばいい。』
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2019年9月19日
スナックふかよみ
まだわからないかな?
これらの謎に答えるために、ポール・サイモンは「阪神タイガースの帽子」を被っていたんだけどね…
「僕」が犯した罪の謎…
「フリオ」と「コロナの女王ロージー」の謎…
MVの構成と3人のスーパースターの謎…
すべての謎の答えは「阪神タイガースの帽子」に集約される…
んもう!じらさないでよ!
早く教えて頂戴!
わかった。
それではタネ明かしをしようか。
ポール・サイモンが『Me and Julio Down by the Schoolyard (僕とフリオと校庭で)』に仕込んだトリックのタネ明かしを…
その前に、もう一回、歌を聴いておいた方がいいと思うわ。
それにしても『僕とフリオと校庭で』の歌詞の出だしって…
ものすごくインパクトありますね…
The Mama pajama rolled outta bed
And she ran to the police station
ママがベッドから飛び起きて、パジャマ姿のまま警察署へ走っていく…
いきなりクライマックスみたいな始まり方よね。
こんな歌って、他にないんじゃない?
なに言っちゃってるのよ!
え?
日本にも、よく似た歌があるじゃない!
しかも、日本人なら誰でも知ってる有名な歌!
日本の有名な歌?
なんで眼鏡してるんですか?
そんなこと、どうでもいいでしょ!
いいわ!アタシがその歌、歌ってあげる!しかもフルコーラスで!
耳の穴かっぽじって、よく聴きなさいよ!
あ、そういうことか…
魚をくわえたドラ猫を追っかけて、裸足でかけてくサザエさん…
確かにインパクト十分の出だしよね…
しかも『僕とフリオと校庭で』と、よく似てる…
ポール・サイモンは『サザエさん』を知っていたのでしょうか?
テレビアニメ『サザエさん』の主題歌『サザエさん』が発表されたのは1969年…
ポール・サイモンが『僕とフリオと校庭で』を発表したのが1972年…
知っていた可能性はゼロじゃないけど、たぶん知らなかったと思うわ…
では、偶然ですか…
こんなことって、あるんですね。不思議だ…
別に不思議でも何でもない。
元ネタが同じだから。
え?
「お魚くわえた」で始まる『サザエさん』という歌は、ある「有名な物語」が元ネタになっている。
そうなの? 詳しく聞かせてよ!
でも今は『僕とフリオと校庭で』の解説をしなければ…
余談をしてる場合じゃないよね…
余談は「余る談」…
だから、いいんじゃないでしょうか?
・・・・・
大事な話は、何度してもいい…
そうでしょ?
は、はい… その通りです…
そういえば岡江クンってさ、前にもサザエさんを熱く語っていたわよね。
エンディング曲『サザエさん一家』は、旧約聖書の詩篇23がもとになっているって…
それから「サザエ・イソノ」はヘブライ語でどうのこうのとか…
オープニング曲もそうなんだよ。
いきなり「魚をくわえたネコ」だからね…
「魚」はイエス・キリストのシンボル…
「ネコ」はキリスト教徒を迫害したローマ皇帝ネロのことだ…
マジで!?
「追っかけて、裸足でかけてく」というふうに「かけて」が二重になってるところなんて天才的だよね…
これは、裸足で十字架にかけられたイエスの姿を描いている…
『立ち尽くす母』
ガブリエル・ヴューガー
なるほど…
2番は広場で草野球ですね。
サザエさんは、打っても、投げても、大活躍と歌われます…
これは神殿広場の「宮清め」のこと。
神聖な境内で商売をしていた人々の屋台に対し、イエスは打って投げての大暴れを繰り広げた…
どんだけ!?
それじゃあ3番も神殿の出来事ね…
財布を持たずに街まで出かけた、だから…
その通り。
『カエサルの物はカエサルに』
ピーテル・パウル・ルーベンス
そして「子犬が笑ってる」と歌われる…
笑う「コイヌ」は「コイン」のことね(笑)
だっふんだ!
「Da hund」は、ドイツ語で「そこの犬」…
ジャイアンツったら…
拾ってくれて、ありがとう。
そして4番は…
仲間と集まって、夕方を過ごす…
これは、もしや…
だね。そのまんまだ。
『最後の晩餐』
ヤコポ・バッサーノ
だから4番だけ最後が「今日も」じゃなくて「明日もいい天気」なのね…
凄すぎる、この歌…
かつてサザエさんが、本放送の「二日後」に再放送されていたことにも、深い意味がある…
あれは「イエスの復活」を再現していたんだ…
原作者の長谷川町子は、敬虔なクリスチャンだったから…
そういうことだったのね…
おそるべし、サザエさん…
ちょっと待って。
『僕とフリオと校庭で』の歌詞が『サザエさん』と似ているのは「元ネタが同じだから」って言ったわよね?
うん。
じゃあ『僕とフリオと校庭で』も、そういうことなの?
そうだよ。
だから言ったじゃないか…
「Julio(フリオ)」とは「Julius Caesar(ユリウス・カエサル)」のこと…
つまり「皇帝」のことだって…
あ、そっか…
「僕とJulioと校庭で」は「僕とJuliusと神殿広場で」ということだったのね…
それじゃあ「僕」は「イエス・キリスト」ってこと?
そうだよ。
ポール・サイモンが少年時代から恋焦がれた相手、イエス・キリスト。
だから、ポール・サイモンがモデルになったパイも、12歳の時にイエス・キリストに出会い、恋に落ちた。
パイはポール・サイモンそのものだから。
なんだか、いろいろ見えてきました…
これらを踏まえて歌詞を読めば、ポール・サイモンが何をやりたかったのかは一目瞭然だ。
最初のフレーズで「パジャマ」という言葉が登場する理由も、もうわかったでしょ?
中東地域の人たちが着る服のことね…
聖書の登場人物は、皆「パジャマ」みたいな服を着ている…
そもそも「pajama」という言葉が、ペルシア語由来のもの…
「ゆったりとした服」という意味よ。
文芸作品でも「パジャマ」は「中東地域の伝統的服装」の比喩としてよく使われる。
ポール・サイモンも大好きなJ・D・サリンジャーの代表作『THE CATCHER IN THE RYE(ライ麦畑でつかまえて/キャッチャー・イン・ザ・ライ)』でも、主人公の妹フィービーは「パジャマ姿」だった。
「パジャマ姿で警察署に走るママ」は…
息子イエスが逮捕され、気が動転した母マリアのことだったのね…
ということは…
「僕」の「パパ」は「天の父・神」?
その通り。
「パジャマ姿で警察署に走るママ」の次は「父の計画によるイエスの裁判」のシーンだ。
When the Papa found out, he began to shout
And he started the investigation
It's against the law, it was against the law
What the Mama saw, it was against the law
あ、そういうことか…
だから「法に反している!」という言葉が連呼されるのですね…
『この人を見よ!』
ムンカーチ・ミハーイ
そう言われて聴くと、そのまんまの歌詞じゃん…
そうなんだよ。
次に描かれるのは、一方的に断罪される「僕」の裁判を見ていられなかった「ママ」の姿。
熱狂した民衆が「イエスを死刑に!」と連呼するたびに、絶望的になる母マリアが描写されている。
The Mama looked down and spit on the ground
Every time my name gets mentioned
そして「パパ」は…
「あいつを留置所にぶち込んでやる」と言うんだけど…
The Papa said "Oy! if I get that boy
I'm gonna stick him in the house of detention"
「I'm gonna stick him」は…
「私が息子を十字架に打ち付ける」とも読めます…
パパは激怒していたんじゃなくて、計画通りの言動をしていただけなのね…
全然不思議な歌詞じゃないでしょ?
そしてサビだ。
まず「僕」が同じような言葉を繰り返す。
Well I'm on my way, I don't know where I'm going
I'm on my way, I'm taking my time, but I don't know where
僕は歩く。どこに行くのか、わからないけど。僕は歩む。ゆっくり、ゆっくり。だけど、どこかはわからない…
サカナクションの『アルクアラウンド』みたいです。
わかった!
「僕」が歩くのは、苦難の道、ヴィア・ドロローサよ!
『十字架を担うキリスト』
アルヴィーゼ・ヴィヴァリーニ
「I'm walking」じゃなくて「I'm on my way」だということもポイントです…
イエスは十字架上で、ゆっくりと死の旅路につきました…
天の父が定めた運命の道を…
このサビは「十字架を背負って歩く」にも「十字架の上で死ぬ」にも、どちらの意味にもとれるのです…
そして問題の「コロナの女王ロージーにサヨナラ」だわ…
Goodbye to Rosie, the queen of Corona
Seein' me and Julio down by the schoolyard
「ロージー」は「人間」じゃないんですよね?
そうだよ。
だけど、これまで何度も話したと思うけど…
英語の定番のダジャレ。
あっ!「Rose」は「Lord’s」!
その通り。
「Rose」の愛称「Rosie(ロージー)」は…
「Lord」の愛称「Lordy(ローディー)」の駄洒落…
つまり「主・神」という意味だ。
「コロナの女王」は「主・神」…
どういう意味なんでしょう?
「コロナ」って「王冠」のことよね?
イエスの頭に被せられた「いばらの冠」のことじゃない?
ああ、きっとそうだわ。
イエスの罪状は「ユダヤ人の王」を自称したこと。
だから「いばらの王冠」を被せられ、十字架の天辺に「ユダヤ人の王、ナザレのイエス」を意味する「IESVS NAZARENVS REX IVDAEORVM(INRI)」と書かれたプレートが貼り付けられた…
大人の背丈の2倍以上ある十字架…
環状の荊の冠…
その上にはプレート…
うふふ…
へ?
何か、気がつかないかしら?
何か?
ああっ!
どしたの?
バスケですよ!
バスケットボールのゴールです!
バスケのゴール?
ミュージックビデオに登場したバスケのゴールは…
十字架が投影されたものです!
あ、確かに似てるかも…
大人の2倍以上ある高さ…
そしてリングの上にプレート…
だからスパッド・ウェブは、背面ダンクを決めてたのね…
十字架に掛けられたイエスをイメージして…
そういうこと。
ポール・サイモンがMVにスパッド・ウェブを起用したのは、これが理由だ。
華麗なダンクシュートで「いばらの冠を被せられ十字架に掛けられたイエス」を表現するため…
なんで気付かなかったんだろう…
よく見れば、そっくりなのに…
ということは…
他の有名人の登場シーンにも、こういう仕掛けがあるってことね。
では、そのへんも見ていきながら、2番の歌詞を解説していこうか…
つづく
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