「LIFE ON MARS?①~前奏~」『深読み LIFE OF PI(ライフ・オブ・パイ)& 読みたいことを、書けばいい。』
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2019年9月19日深夜
キッチン 南海のクイーン
チリンチリン♫
(ドアの開く音)
お母さーん!おはよー!
おはよ、良ちゃん。今夜は早いじゃないの。
ちょっとね…
ほらっ!そんなとこにボーっと突っ立てないで!
アンタも挨拶しなさいよ!
お、おはようございます…
はい、おはよ。
あれれ? もしかして良ちゃんの新しい彼氏?
そ、そんなんじゃないってば!
あの大飯食らいの男、やっぱりダメだったか。
もうっ!余計なこと言わないで!
ほ、ほらアンタ!早く自己紹介しなさい!
今日から深代ママさんのところで働くことになったジョーです…
カンボジアから来ました。よろしくお願いします…
カンボジア? プノンペン?
はい、プノンペンです。
だけど両親はペンシルベニア州ピッツバーグの生まれです。
へえ。そうなの。
まだ日本に来たばっかりで、右も左もわからないのよ。
この街は危険がいっぱい。底なしの欲望が渦を巻き、食うか食われるか、血みどろの弱肉強食の世界…
この子を見てると、なんだか危なっかしくて…
気をつけなさいよ、ジョー。
こういうこと言ってる人が一番危ないの。羊の皮をかぶった獣(笑)
へ?
もうっ! 人を獣呼ばわりしないでくれる!?
アタシはバンビちゃんなの! か弱いバンビちゃん!
そんな海坊主みたいな顔して、よく言うわ。
さあさあ、席に座って。
あっ、アタシたち、挨拶に来ただけで…
早く店に戻らないと…
何言ってんの。せっかく来たんだから、何か食べていきなさいよ。
う、うん…
じゃあ、いつものレバニラ定食で…
アンタもそれでいい?
レバーは、ちょっと…
私ベジタリアンなので…
マジで?
じゃあ彼にはレバー抜きでレバニラお願い。
あいよ。
あのママさん、口は悪いけど、いい方ですね。
だけどなぜ「お母さん」と?
ほら、アタシってさ、若くして母親を亡くしちゃったじゃない?
そうなんですか?
大好きだった母を亡くし、ひとりぼっちになったアタシは、淋しさを抱えて、この街にやって来たわけ。
アンタみたいに右も左もわからない状態でね。
そんなアタシを、ママはいっつも心配してくれた。
お金もなくて、捨て猫同然だったアタシに、毎日お腹いっぱい食べさせてくれて、いろんな悩みも聴いてくれたの。
ただ優しくしてくれるだけじゃなくて、ダメなものはダメってはっきり言ってくれたのよ。
そのお陰でアタシは、この街でやって来れた。この年まで。
だからママはアタシの「お母さん」ってわけ。
そうでしたか…
そしてそれはアタシだけじゃない…
ママはこの街の「お母さん」みたいな存在…
故郷を捨て、過去の自分も捨て、この街で生きていくしかないアタシたちフリークスにとっての、大切な「お母さん」なの…
何がフリークスよ。珍獣みたいな顔して。
はい、レバニラ。そしてこっちはレバ抜きのレバニラ。
うわあ、おいしそー!
いただきまーす!
いただきます…
じゃんじゃん食べて、大きくなれよ。
ねえ、お母さん…
なあに?
ジョーに「あれ」聴かせてあげてよ…
まだ時間早いけど、お願い。
?
あたし、まだシラフよ。
はいはい。ビールどうぞ。
しゃーないわね。良ちゃんの頼みならNOとは言えないし…
アンタってホント運がいいわね、ジョー。
初日なのに新宿タイガーさんにも会えるし、お母さんの十八番まで聴けるなんて…
じゅうはちばん?
それじゃ歌わしてもらうわ…
・・・・・
お母さんの十八番『LIFE ON MARS』、いいでしょ?
アタシ、この歌に何度、励まされたことか…
本当に素晴らしい歌詞だと思います…
じゃあ、さっさと食べちゃおっか…
電球のこと、すっかり忘れてたわ。早く深代ちゃんのとこ戻らないと…
スナックふかよみ
MY WAY?
あの有名な、フランク・シナトラの『マイ・ウェイ』のこと?
そう。
デヴィッド・ボウイの『LIFE ON MARS?』の元ネタは『MY WAY』なんだ。
今ググってみたのですが、確かにそのようですね…
ぽえーん。
ホントだ… 知らなかった…
あれより先にデヴィッド・ボウイが翻訳して歌っていたなんて…
あなた知ってた?
う、うん…
小耳にはさんだことはあったような気がするけど…
『LIFE ON MARS?』が誕生するまでを、時系列で整理すると、こうなる。
1967年、フランスでクロード・フランソワが『Comme d'habitude(いつものように)』を発表
1968年、イギリスでデヴィッド・ボウイが『Comme d'habitude』を英訳し『Even a Fool Learns to Love』を作詞
同年、カナダ人のポール・アンカがフランス旅行中にクロード・フランソワと会い、『Comme d'habitude』の独占英訳権を獲得
英訳した『MY WAY』をフランク・シナトラに提供し、1969年に世界的大ヒットを記録する
つまり、デヴィッド・ボウイ版は…
『MY WAY』のために「お蔵入り」してしまったわけですね。
そういうこと。
そして1971年、デヴィッド・ボウイは『LIFE ON MARS?』を発表する。
『MY WAY』への対抗心を剥き出しにして…
確かに『LIFE ON MARS?』のイントロや最後のストリングスは『MY WAY』に似てるけど、歌詞の内容は全然違うじゃん。
そこまで対抗意識はなかったんじゃない?
本当にそう思う?
え?
『MY WAY』と『LIFE ON MARS?』の歌詞は…
まったく同じ内容なんだ。
は? どこが?
さすがにちょっと無理があるのでは…
うふふ。やっぱりそう思うわよね。
だって誰が聞いたって違うでしょ?『MY WAY』と『LIFE ON MARS?』は。
ねえ、深読み名探偵さん…
『LIFE ON MARS?』という歌を本当に理解してもらうためには…
そこに至るまでの3曲『Comme d'habitude』『Even a Fool Learns to Love』『MY WAY』を正しく知る必要があるんじゃない?
確かにそうかもしれません。
『MY WAY』なんて、あれだけ有名な歌にもかかわらず、歌詞の本当の面白さについて気付いてる人はほとんどいない。
オモシロさ?
『MY WAY』は、最初から最後まで全部ダジャレで出来ている。
美しいまでに完璧なオヤジギャグ・ソングなんだ。
マジで?
僕が嘘を言ったことあるかい?
ううん…
深読みに関しては、ないかも…
え?
もうっ!何の話してるのよ!早く教えて!
ではまずクロード・フランソワの『Comme d'habitude(いつものように)』から解説しよう…
『MY WAY』と『LIFE ON MARS?』という、一世を風靡した2つの名曲を生むことになった重要な作品だ…
つづく
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