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第21回:来てよ その火を飛び越えて…砂に書かれたアイ・ミス・ユー…『THREE BILLBOARDS OUTSIDE EBBING, MISSOURI(スリー・ビルボード

さて今回は、映画『スリー・ビルボード』の最大の山場ともいうべき「警察署への放火シーン」を解説しよう。

プレリュード(前奏曲)はこちら!

長かったな、ここまで辿り着くのに。

僕としては「駆け足モード」でやってきたんだけどね。

許されるのならセリフや描写のすべてを解説したかった。

我々も忙しいんだ。一気に片付けちまおうぜ。

来週は打ち合わせが詰まってるんだ。新作の件でトム・ウェイツとも…

トム・ウェイツ!?

い、いや…知人が同姓同名でね…

よ、よくある名前だからな…

さて、ディクソンは深夜の警察署に手紙を取りに行き、その場で読み始めた。

そしてBGMに再びアイルランド民謡『Tis The Last Rose of Summer』が流れる。

殴り込みの時の曲『HIS MASTER'S VOICE』みたいだったよね。

バックグラウンド・ミュージックの域を超えていた。

そうだね。

この歌の「Rose」とは「Lord's」の駄洒落だから、『HIS MASTER'S VOICE』と似たような使われ方をされている。

歌詞自体も「絶望的な孤独の中で死んだ主イエス・キリストに付き従います」という内容だから。

あれ?

でも『HIS MASTER'S VOICE』の場合は「主に従います」だったよね。

イエスではなくて「天の父の声に従う」っていう内容だった。

だからディクソンは父のように慕うウィロビーに言われた通り、レッドを病院送りにしたんだ。

この微妙な違いは、なんか関係あるんか?

もちろん。

この警察署の火事シーンは、ディクソンが「回心」するきっかけとなる重要なシーンだ。

ミルドレッドが投げた4本目の火炎瓶の爆発でディクソンは吹っ飛んで倒れ込み、その瞬間を境に彼の中で何かが変わる。

新約聖書『使徒行伝』の有名な場面「眩い光に包まれて倒れる迫害者サウロ」が投影されているんだよ。

神ヤハウェに従うユダヤ教徒だったサウロが、主イエスの教えを伝導するキリスト教徒パウロに生まれ変わることになった出来事だね。

『Paul's Conversion(サウロの回心)』

だからこの火事をきっかけに、ディクソンはアンジェラ事件に誰よりも真剣に向き合うようになるんだ。

サウロ改めパウロが新約聖書の全27書のうち半分を書いたように…


そして琥珀色の火炎瓶と銀のジッポライターを持つミルドレッドは、金銀の鍵を持つ使徒ペテロだったな(笑)

それではウィロビーからディクソンへの手紙を見ていこう。

ミルドレッドへの手紙が「反撃開始の宣戦布告」だったように、ディクソンへの手紙は「ミルドレッド逮捕命令」になっている。

表向きは普通の「別れの手紙」なんだけど、よく読むと全然違うんだよね。

アンジェラ殺害の証拠を全く残さなかったウィロビーだけあって、手紙の文章も完璧なんだ。

あれなら後々も決して怪しまれない…

手紙はまずディクソンのプライドをくすぐるところから始まる。

「生前は言えなかったが、俺はお前のことをずっと優秀な警察官だと思っていた…」

みたいな内容だね。

普通なら半年から1年で卒業する警察学校に5年も通い、警察官になってからも出戻りをくらって合計6年間も警察学校におった男に、よう言うわ…

完璧にアウトな人材やろ…

署のデスクで真昼間に堂々とマンガ読んでたし(笑)

仕方ないよ。ディクソンは精神年齢8歳児レベルだから。

本来なら警察官になってはいけない人間なんだ。

さて、ひとしきり褒めたあとに手紙はこう続く…

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