深読み バック・トゥ・ザ・フューチャーvol.11(『深読み LIFE OF PI&読み書け』第178話)
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2019年9月19日
スナックふかよみ
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『It happened in Brookly』
確かに突然ブルックリンに切り替わっていたわ。
最初、何が起こったのかよくわからなかった…
つまり、あの衝撃音を境に「タイムスリップ」したように見えるんだよね…
もしくは、また頭を打って、意識を失い、夢でも見始めたか…
なるほど…
確かにそう考えると、いろんなモヤモヤがスッキリするような気がします。
主人公が頭を強打したことを境に「現実」から「夢」に移行している物語って結構ありますからね。
それでは、ブルックリンでの描写について、簡単に解説するとしようか。
隠されたキーワード「ヨハネ」を中心に…
映画では12分からだ。
フランク・シナトラ演じるダニーは、ニューヨークに到着してから…
まずタクシーに乗って、ブルックリン橋へ向かったわ…
そして展望デッキに昇る…
あの構図とポーズ…
ゴルゴダの丘だわ…
『磔刑図』アンドレア・マンテーニャ
そしてダニーは「John」のポーズをする。
ジョンのポーズ?
ダニーは、John the Apostle、つまり使徒ヨハネのポーズを真似るんだよね。
遠くに見えるマンハッタンの街並みをエルサレムに重ねて…
ああ… バックのタワー…
だから急に腕組みをしたのね…
『磔刑図』の中の使徒ヨハネが、そういうふうに見えるから…
そういうこと。
そしてブルックリン橋の次は、街の散策シーン。
ダニーにとっては何もかもが珍しく、キョロキョロしながら歩いていたため、道路に飛び出してしまった…
故郷なのに変です。まるで初めてブルックリンに来た人みたいでした。
そう。1955年のヒル・バレーにタイムスリップしたマーティと同じように「初めて」だからね。
そしてダニーは車にひかれそうになり、間一髪のところで警官に助けられた。
あの警官、すっごくキャラのある警官だったわ。
マンガみたいな動きなの。
ん?
どうかした?
この警官…
知ってる役者さん?
いいえ… そうじゃありません…
似てると思いませんか?
似てる? 誰に?
ヒロノブさんに…
ホントだ…
確かに似てるかも(笑)
まさか本人では…
何言ってるの。そんなわけないでしょ(笑)
ですよね…
ところで、ヒロノブさんといえば…
いったいどこへ行ってしまったんでしょう…
そうね…
トイレで姿を消してから、いっこうに帰ってこない…
・・・・・
あいつめ…
あの日を最後に姿を見せんと思ったら…
1947年のNYに行っとったのか…
は?
なんでもない。こっちのハナシじゃ。
ふぉーっふぉっふぉ。
変なの。
・・・・・
さて、ダニーの命を助けた警官は、次に不思議な行動に出る。
たまたま通りかかった車を止め、そこにダニーを乗せるんだ。
その車を運転していたのが、この映画のヒロインであるアン…
ダニーを交通事故から救い、「ミッション」のターゲットであるアンと出会わせる…
もしや、あの警官は…
そう。彼は普通の人間ではない。
どういうこと?
彼は、あの天使だ。
ダニーを導いた金髪ナース天使の、別の姿なんだよ…
そんな…
あの天使は様々な姿をしてブルックリンでダニーを見守っている。
人間だけでなく、時にはハナ肇のように像の姿になって…
すべてはジェイミーとアンを結婚させ、公爵を受胎させるため…
つまり「受胎告知」のミッションを成功させるために…
「ウィロビー署長を愛していた」ということを伝えようとして、人間のみならず様々な生き物に憑依していた『スリー・ビルボード』のアンジェラみたいなものですね。
その通り。
さて、ダニーは交通事故未遂をきっかけにアンの車に乗せられ、彼女の職場である高校へと導かれていく。
BTTFのマーティは、ロレインの父が運転する車にぶつかり、ロレインの家に運び込まれました。
あっ!
どうしました?
マーティを轢いてロレインと出会わせるきっかけを作ったパパ…
ダニーを交通事故から救ってアンと出会わせた警官にそっくり…
ホントだ…
完全に「寄せている」よね。
さて、ダニーは仕事を紹介してもらうために退役軍人局で降りた。
そしてアンは音楽教師を務める高校へ向かう。
ここから「NEW UTRECHT HIGH SCHOOL」が物語の舞台となるわけだ。
まずは学校の掲示板がアップで映されたよね。とっても意味有り気に…
なぜユトレヒト?
元々ニューヨークがオランダ人の街だからじゃないですか?
イギリス人が来る前はニューアムステルダム植民地という名前でした。
あ、そっか。
そうじゃないんだな。これも「ヨハネ」に関係している。
え?
「ユトレヒト」という地名の由来は、何だと思う?
言うとれ、人?
ラテン語で「歩いて渡れるくらい浅い川」という意味なんだ。
浅い川? マキ?
わかりました…
これのことですね…
『ヨルダン川での洗礼』
ミケランジェロ
そういうこと。
掲示板の次は音楽教室が映し出される。
アンが生徒たちに「ある歌」を歌わせるシーンだった…
あっ!また「ヨハネ」です!
その通り。
歌に入る前、アンは生徒たちにこう言っていた。
「今日は1685年から素敵なゲストが来ています。彼の名は Johann Sebastian Bach(ヨハン・セバスティアン・バッハ)」
まるでJSBがタイムスリップでもしたかのような言い方…
そしてバッハのプロフィールを、代表曲『Invention No.1(インベンション第一番)』のメロディに乗せて歌い始める。
あの歌、超ウケた。
♫ヨハン・セバスティアン・バッハ、1685年から~♫
BTTFのマーティは「1985年から」でしたけど…
すると、その歌に導かれるかのように、ダニーが学校へ入ってくる姿が映し出される…
退役軍人局で紹介された仕事が「偶然にも」この高校のスタッフだったんだよね…
アンと生徒たちが歌う「ようこそ、1685年から来たヨハン・セバスティアン・バッハ」は、この物語で「洗礼者ヨハネ」を演じるダニーのための歌だったわけだ…
偶然のわけないでしょ。
どうせまたあの天使が退役軍人局の事務員にでも姿を変えて、ここを紹介したに決まってる…
おそらくね(笑)
そしてダニーは、掲示板の前で立ち止まり、1枚のポスターを目にする。
そこにはこう書かれていた。
「オーケストラとクワイアのリハーサル、音楽室にて」
あっ!学校のポスターといえば…
しかも天才老人ニックは、後のシーンで「演奏会の大きなポスター」を「カーブした場所」に貼ります…
その2つのシーンを合わせると…
ありえない…
世の中に「ありえない」は、ありえない…
ロバート・ゼメキス、ボブ・ゲイル、そしてスティーヴン・スピルバーグは、BTTFの中で『It happened in Brooklyn』を完璧に再現しようとしていたわけだ。
何というか、ここまで来ると、もはや感動的ですらあるよね…
うん…
そしてダニーは「ようこそ、1685年から来たヨハン・セバスティアン・バッハ」の歌につられて音楽室へ導かれていきます…
なぜなら彼は「ヨハネ」だから。
そして音楽室に入ったダニーは、「ようこそ、1685年から来たヨハン・セバスティアン・バッハ」の歌詞に嬉しくなり、大きな声で一緒に歌い始めます…
だけどアンは、自分の職場に現れたダニーを、変態とかストーカー呼ばわりして、廊下へつまみ出しました…
アンとダニーが廊下で押し問答していると、そこに用務員の男がやってくる。
ダニーは男を見てこう言った。
「俺だよ俺!覚えてる?ダニーだよ!」
男は最初、怪訝そうな顔つきをしていたが、何かを思い出したかのように答える。
「おおっ!あのダニーか!?」
こうしてダニーは、故郷ブルックリンで唯一自分のことを知る人間に巡り合うことが出来た。
この「再会シーン」も、すっごく怪しかった…
4年ぶりに帰ってきた故郷で、自分を知っている人がひとりだけ…
そんなの絶対にありえないわ…
「4年ぶりの故郷」というのは嘘だからね。
ダニーが「帰ってきた」のは、数十年前のブルックリン、公爵の両親が出会った時代のブルックリンだ。
「1685年から来たヨハン・セバスティアン・バッハ」というタイムトラベルみたいな歌も、それを暗示している。
さて、次のシーンはニックが寝泊まりしている用務員室。ニックはこの学校に住み込みで働いていた。
そういえばニックの部屋って、ドクの部屋っぽくなかった?
その通り。
陽気なイタリア人であるニックは、いつも料理をしている。
ダイニングキッチンでは、常に何かしら料理が行われていたんだ。
もちろん最初にダニーが訪れた時も…
そして、ダイニングキッチンの戸棚は、立て付けが悪く…
いつも勝手に扉が開いたり閉じたりしていました…
まるで全自動の機械みたいに…
そして、あの大きなベルがついた壁掛け電話…
その通り。
BTTFの冒頭シーンで描かれていた「ドクの全自動調理マシーン」と「大袈裟な非常ベルの電話」は、ニックのダイニングキッチンの再現だったというわけ…
さらに、ニックは「未来が読める懐中時計」を持っていました…
「〇〇分後に〇〇が来る」ということがわかる懐中時計を…
精度はかなり微妙でしたが…
ドクの「人の頭の中が読めるマシーン」だわ…
マーティ同様にダニーも「はあ?」って顔してた…
クリストファー・ノーランの『INCEPTION(インセプション)』で、パリの街の中に「カリオストロの城」を再現したアリアドネに対してディカプリオが言ったセリフを、そのままBTTF制作陣に贈りたいよね…
「すごいけど、やりすぎだ」
やりすぎぐらいが丁度いい。
ふぉーっふぉっふぉ。
そしてニックはダニーを連れて深夜の見回りに行きます…
運動室の電気をつけると、ひとりの少年が吊り輪にぶら下がっていました…
ダニーは少年になぜそんなことをしているのか尋ねます…
少年が何も答えなかったので、ニックが代わりに説明する…
彼は背が小さいことに悩んでいるので、夜な夜な吊り輪にぶら下がっては、身長を伸ばそうとしていた…
ちなみに彼の名は「Johnny」という…
「Johnny B. Goode」のジョニー…
そしてまたヨハネ…
ダニーはジョニーを励ます。
「背は必ず伸びる。そう信じていれば必ずそうなる。信じることが大切だ」と。
そしてこの語りが、そのままアクション満載の曲『I Believe』につながっていく…
歌詞と小道具、そして3人の演技が、そのままイエス・キリストの物語になっていましたね。
その通り。
そしてこのシーンを再現したのが、BTTFのスケートボードのアクション・シーンだ。
派手にジャンプしたり、クリソツじゃん…
そしてアクション・シーンのオチも…
「すべり台から滑り落ちるジョニーをキャッチする」で終わっていたから、BTTFも「トラックの荷台から滑り落ちる堆肥をキャッチする」で終わったんですね…
そういうこと。
そしてこのジョニー君は、もうひとりの天才少年レオ君の「前座」みたいな存在として描かれている。
洗礼者ヨハネが主イエス・キリストの「前駆」であったようにね…
確かにあのアクション・シーンが前座みたいな感じだったわ…
壇上で優雅にピアノを弾くレオ君を、アンは真剣な眼差しで見つめてた…
しかもそれが様々なアングルで映されるの…
このカット割り、怪しいですね…
こちらも何か隠されてそう…
その通り。
肘をついた手を胸に当て、真剣な眼差しで見上げる乙女…
そして、いかにも意味有り気に置かれた百合の花…
この絵の再現だね。
『受胎告知』
ルカ・ジョルダーノ
ああっ!また受胎告知!
そう。ここでも「受胎告知」が再現されていた。
だからBTTFでも様々な場面で「受胎告知」が描かれていたというわけ。
そしてニックとダニーのもとに、イギリスから遥々ジェイミーがやってきます。
ニックはブルックリンの女アンに一目惚れしてしまいますが、なかなか意思表示ができません。
そういえば、この二人のバックには、いつも「幼子イエスを抱くマリア」の絵が映ってたわよね…
そう。あれがゴールだから。
さて、ジェイミーもダニー同様、ニックの用務員部屋に居候することになった。
そして、その夜遅くのこと…
ダニーはベッドから起き上がり、隣のベッドでジェイミーが熟睡していることを確認してから、そっとニックの寝室へと向かう…
大事な要件を伝えるためだ…
ああっ!あの全身を覆うパジャマ!
あれが防護服になったんですね!
そういうこと。
そして翌日、ニックはダニーをレコードショップへ連れて行き、曲をピアノで実演して楽譜を売るデモンストレーターとして就職させる。
ここから学校とレコードショップを舞台にして、ダニーとニックによる「アンとジェイミーくっつけ作戦」が始まるというわけだ。
イタリアン・レストランも何度か行くわよね。
ラストシーンは、あの店だったはず。
そう。
そしてあのレストランでは、とても重要な曲が歌われた。
どんな曲だったか覚えているかな?
モーツァルトのオペラ『ドン・ジョヴァンニ』の曲…
そして「Giovanni」とは…
イタリア語で「ヨハネ」のこと…
その通り。
最後に『ドン・ジョヴァンニ』を解説して、『It happened in Brooklyn』と『BACK TO THE FUTURE』の話は終わりにしよう。
共通点を挙げていたらキリがないからね。
寄り道もほどほどにせんとな。
お主らも、すっかり忘れとるじゃろ?
今がまだポール・サイモンの『Rene And Georgette Margritte With Their Dog After The War』の深読み途中だっちゅうことを…
はい、忘れてました…
あの曲には、まだ重大な秘密が隠されている。
簡潔に『ドン・ジョヴァンニ』を解説し、ポール・サイモンに戻るとしよう…
つづく
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