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ノーランと宮崎駿を結ぶ7つの歌【第12話】Love is Everything前篇(ルパン三世TV第2シリーズより)

前回までのあらすじ

1989年から現代へタイムスリップしてきたクリストファーは、自分が未来において映画監督となり世界的巨匠とまで呼ばれることを知る。しかもその原動力となったのは、少年時代からの憧れ「宮崎駿」そして「ゲド戦記」への想いだったのだ。クリストファーは未来に自身の映画を使って「俺のジブリ美術館」計画と「俺のゲド戦記」計画を実行することを知らされる。すべての謎は「7つの歌」の中に隠されていた。「ルージュの伝言」から『インセプション』の物語を、「やさしさに包まれたなら」から『インターステラー』の物語を構築した未来のクリストファーは、「テルーの唄」の”謎かけ”から『インターステラー』の登場人物の名前を考え出す。さらに、『コクリコ坂から』の挿入歌「紺色のうねりが」に衝撃を受け、『インターステラー』の中に「賢治愛」を組み込むという「俺の宮沢賢治」計画までも実行に移す…。そして「何も言えなくて...夏」を聴いたクリストファーは、ロボット「TARS」が持つ真の意味を聞かぬまま、恋人エマの待つ1989年へ帰ってしまう。はたしてTARSの本当の存在理由とは…?

詳しくはこちらで。

あれ?

「5つの歌」「7つの歌」になってる…

ホンマや。2つも増えとるで。

ははは、ごめんごめん。

書き進めてるうちに「7つ」になっちゃった。

ほら僕って毎回アドリブで書いてるでしょ?

シリーズ全体の構成とかストーリー展開とか何も考えずに、ぶっつけ本番で、その時思ったことを書いているからね。

前々回の『何も言えなくて...夏』とか、今回の『Love is Everything』とかって、他のことを書きながら発見したことなんだよ。やっぱりアウトプットって大事だね。予想もしてなかった副産物が生まれる。

てか、このノーラン映画解説シリーズ自体がそうやって膨らんでいったものなんだ。

最初の頃は、まさかこんなところまで来るとは思ってもみなかった。

せやな。ビートルズで綺麗に終わるかと思っとった。

栗麻呂ノ暗号:ダンケルク編

まさか3ヵ月目に突入するなんてね…

もう何話やったんだろう?

20?いや、30くらいかな?

これは映画解説史に残るシリーズになるだろう。

我々は伝説誕生の瞬間に立ち会っているのだ。

その一言一句を聞き逃すな。

大袈裟やな。肩の力ぬけや。

ま、その四角い体じゃ、できひんやろうけど。

っつーか、どこまでが体でどこからが顔?

そんなんで話をま~るく収められまっか?

クックック…

私は仁鶴か!

鶴のお前と一緒にするな!

もうやめてよ二人とも…

いい大人なんだからさ…

てか年いくつなんだよ、あんたら!

君たち、息が合ってきたね。トリオとしてイケるんじゃない?

トリオ名は何がいいかな…

そうだ!「〇■△」ってのはどう?

〇がナンボク、■がTARS、そして△がええじゃろうだ。

ワイの〇とTARSの■は形そのまんまやさかいわかるけど、ええじゃろはんの△は何やねん?

そんなの決まってるじゃんか!

ええじゃろさん、かっけ~!だよ。

さすが今どきの子供。それはネットスラングだね。

でも僕はこっちの意味で付けたんだけど…

ほい!

へっ!?

死人かっ!

しかも今時こんな古典的幽霊いないし!

さて、冗談はこのくらいにして、そろそろ本題に入るよ。

お前が始めたんやろ!

今回はいつもにも増してシリアスでセンシティブな内容だから、ちょっと緊張してるんだ…

だからついつい「おふざけ」に逃げてしまった。

ここから気合を入れ直してガツンと行くよ!

お、おう!

と、その前に…忘れちゃいけないことがある。

そうそう!

本作品における発言・描写は、おかえもん個人の推測や妄想に基づくものであり、実際の人物・団体の真実を表すものでは決してありません。また、本シリーズは「究極のネタバレ」を謳っておりますので、読み進める際は、ひとつその覚悟を胸にお願いいたします。画像や歌詞の引用なども、どうかご理解とご容赦のほどを。

さて、『インターステラー』の「TARS」が『さらば愛しきルパン』の「ラムダ」だった…ってとこからだよね。

そうだ。ラムダっちゃ。

ラムダ

ユーモア度ゼロにしとけ。

1980年10月6日、つまり37年前のちょうど今日、TVアニメ『ルパン三世』第2シリーズの最終回「さらば愛しきルパン」が放送された。

ルパン三世PART2最終回「さらば愛しきルパン」@Amazonビデオ

めっちゃ懐かしいな。アマゾンやと108円で観れるんか!

日本のテレビアニメ史上に残る傑作だし、クリストファー・ノーランを理解する上でも重要な作品だ。この機会にぜひ、じっくりと観て欲しいな。

BOSSは本当に「さらば愛しきルパン」から大きな影響を受けている。

『インセプション』や『インターステラー』には、「さらルパ」のシーンが随所に使われているのだ。

その通り。

たとえば新宿の街なかを戦車が暴走し、通行中の自動車が破壊されていくシーン。

それをノーランは、戦車を列車に置き換えて、そのまま『インセプション』で使った。


おお!

そして、捕まった銭形(ルパン)と小山田真希のやりとりのシーン…

「危険なロボット」の是非をめぐる問答だったね。

このシーンは『インターステラー』で使われた。

主人公クーパーがNASAの秘密基地への不法侵入で捕らえられ、TARSとアメリアに尋問されるシーンとしてね。

ま、前髪が~~~ぁ!

だからクーパーは「あれは海兵隊向けに作られた危険なロボットだ!」って、わざとらしく説明したのか!

その通り。

『インターステラー』の物語では「海兵隊」という言葉はあのセリフでしか出て来ない。映画の中では何の意味もないセリフなんだ。

でも『さらば愛しきルパン』へのオマージュのためには必要だったんだね。

ラムダも軍事用に量産される運命になったから。

だから前回の終わりに、ええじゃろうが指摘したことは、正しかったのだ。

我が友KIPPの哀れな姿は、『さらルパ』のあのシーンへのオマージュだったのだから…

やっぱり!

背景もよく見ると、いちいち似てるもんな!

「さらルパ」のほうで背景に描かれている四角いパネルみたいなものが、「インステ」でも再現されているんだよ!

よく気付いたな。

せやけど、なんでノーランは「さらルパ」にここまでこだわったんや?

そこなんだよ。

僕はここまで、ノーランが自分の映画の中で宮崎アニメを再現している「俺のジブリ美術館」計画の存在を訴え続けてきた。

でも、その動機がイマイチよくわからなかったんだ。

なぜノーランはここまで執着しているんだろう?ってね…

確かにジブリの『美術館』や『ゲド戦記』は、ノーランにとってショックだったろう。

でも、それだけでは説明しきれない「何か」があるように、ずっと思えてたんだ…

そして『さらば愛しきルパン』の存在に気付いたことで、それが完全に腑に落ちたんだよ。

ど、どうして…?

実はね…

この『さらば愛しきルパン』という作品は

宮崎駿にとっての…

「俺のルパン計画」だったんだよ。

宮崎駿の…

俺のルパン計画ゥ?

そうだ。

宮崎駿はわざわざ偽名まで使って、こう訴えた。

「ルパン三世PART2はニセモノである!これが本物のルパンだ!かっこいいとは、こういうことさ!」

偽名!?ニセモノ?

最後のは言っとらんやろ。

まだ「ヘンタイよいこ新聞」の時代やで。

お前のユーモア度、マジでゼロにしたるわ。

やかましいボケ。

宮崎駿は「照樹 務」という偽名を使って、この話の脚本・演出を行ったんだ。当時参加していた制作会社テレコムの名前をもじってね。

それは「ルパン三世PART2」への強い抗議の意味があったんだ。

抗議?なにそれ?

宮崎駿はTV版ルパン三世の第1シリーズ(1971~1972年)の後半から、ルパンに関わるようになった。そして番組も、前半のフランス貴族的で退廃的なムードから、宮崎駿の好むイタリアの貧乏泥棒のような笑いと涙のストーリーに変わる。

しかし当時は「大人のアニメ」という概念が無かったので、第1シリーズは低視聴率に喘ぎ打ち切りとなったんだ。ところが再放送を繰り返してるうちに徐々に人気が高まり、第2シリーズ(1977~1980年)が作られることになった。

でもそれは、第1シリーズ後半で宮崎駿が作り上げた世界観とは全く違った「新ルパン」だったんだ。

企画を見た宮崎駿は、新ルパンへの参加を見送る。「これは自分の求めるルパンではない」ってね。

すごいプライドの高さだ…

作家っちゅうのは命賭けて作品を生み出しとるんや。

譲れんとこはあって当然やろ。

第2シリーズが放送されている間に、宮崎駿は劇場版『カリオストロの城』で高い評価を得る。そして凱旋として第2シリーズの終盤、第145話と最終回である第155話を手掛けることになったんだ。

だけど宮崎駿が『カリ城』で完成させたルパン像と、第2シリーズのルパン像は激しく乖離していた。ここで「ひと騒動」が起きる。その結果、宮崎駿は「照樹 務」という偽名でこの2つの回を発表することになったんだ。激しい怒りを込めてね。

それが、後に伝説となった『死の翼アルバトロス』『さらば愛しきルパン』ってわけ。

後の宮崎作品『風の谷のナウシカ』『天空の城ラピュタ』『紅の豚』などの原型が、既にこの二作品の中にあるのだ。

ラムダもしかり。

そして『さらば愛しきルパン』のラストは『カリオストロの城』へ繋がるような描写になっている。

まさに「宮崎駿ワールド」誕生の瞬間だ。

『俺のルパン』&『未来のジブリ』を展開したんだよね。

しかも、自分が認めなかった「新ルパン」の場を借りて(笑)

わざわざ偽ルパン一味を登場させて、化けの皮を剥がし、こう宣言したんだ。

「今まで諸君が見てきたルパンはニセモノだ。本物はこっち!」

ってね。

約三年間も新ルパンを見続けてきた人にとっては、ビックリだよ!

しかもね、これを周りに公言しちゃっていたんだよ。

関係者から大ひんしゅくを買ったらしい。

そりゃそうでしょ…

三年間も続いた人気番組なのに、それをいきなり全否定したんだから…

しかも全視聴者の前で(笑)

さすがの宮崎駿も、後に後悔したらしい。

こんなことを語っている。

「ルパン達だけでやれたと思うんです。偽ルパンを出さなくても、できたんです。でも…なんか…今までやってきて、こう…『クソーッ』って思ってた部分がね…。それでつい、ああいう馬鹿な事やってしまったんです。よくなかったと思ってる」(LUPIN THE THIRD VOL2より)

この事件の経緯は、こちらの記事でどうぞ。

この『ルパン三世 PART2』は、欧米でも放送され大人気となった。

BOSSもテレビで観て、一発でルパンの虜になってしまったんだ。

そして最終回を観て、さらに驚いた…

なんだこれ!

こんなのアリか!?

ボクが今まで見てきたルパンが偽物だったなんて!

ってね。

く、クリストファー!?

BOSS…

やあ、みんな。

また来ちゃったw

ど、どうして…?

エマが…また行ってこいって言うんです…

どうせまた1989年の同じ時間に戻ってくればいいんだから、最後まで話を聞いてこいって…

さすがやな…

すでに剛腕プロデューサーの片鱗を見せとる…

また帰ってくると思ってたよ。

しかもちょうどいいところに来た。

『さらルパ』に驚いた君は、その後どう思ったの?

はい…

ボクだったら、もっとうまくやれるな…

って思いました…

しかも決して誰にも言うことなく、種明かしも絶対にせずに…

それや!

それがすべての始まりやったんや!

あんさんの『俺の〇〇』シリーズは、そん時の感情が土台になって生まれたものなんや!

ああ…そうか…

宮崎駿が『さらルパ』でやったことを、君はもっとクールにやってのけたんだよ…

宮崎駿は「新ルパン」を『さらルパ』の中で否定した。そして「俺ワールド」を『さらルパ』の中で展開した。しかもあくまで「新ルパン」というフォーマットの中で…

そして君は「ジブリ美術館」を『インセプション』の中で否定した。雪山の要塞に見立てて爆破してね。そして次作の『インターステラー』も使って「俺のジブリ美術館」を展開したんだ。あくまで表向きは「ノーラン映画」として…

それだけじゃないよ。

「ジブリ美術館」の否定は『インターステラー』でも行われたんだ。

『インセプション』では宮崎父子に伝わらなかったからね…

しかも『コクリコ坂から』という父子分離の逆を行く作品を目の当たりにして、さらにショックを覚えていたわけだから…

そこで『インターステラー』では、もっとストレートに父子問題を扱うことにした。『インセプション』ではサイドストーリーだったので、今度はメインに持って来たわけだ。

そしてラスト近くの「クーパーステーション」の場面で、それを実行に移した。ジブリ美術館と父子関係を否定するために…

そのために私がいたのだ。

順を追って解説していこう…

異次元から脱出したクーパーは、土星軌道上に浮かぶスペースコロニー「クーパーステーション」に辿り着いた。

人類史上初めて重力の謎を解いたマーフィー(マーフ)・クーパーの名を冠したコロニーだ。

クーパーはNASAの職員に基地内を案内してもらう。その職員は「マーフマニア」で、もちろん父クーパーのことにも詳しく、憧れの人物に会えて嬉しくなった彼は、クーパーに基地の外も案内し始める。

二人はまず記念碑に辿り着く。


この案内係がマーフに「ぜひ記念館を作りたい!」って手紙を送ったんやったな。熱狂的なマニアやったさかい。

そうだったね。

そして彼の話の感じだと、マーフは心からは喜んでいなかったっぽい。そういう風に祀り上げられるのは好きじゃなかったんだろう。だから彼はわざわざ「喜んでもらったこと」を聞かれてもいないのにアピールした。

マーフはこれも「方便」だと割り切ったのではないでしょうか?

法華経の中の重要な教えである「受け取る側の力量が備わるまでは、わかりやすい形で示す」を実行したのでは?


きっとそうだろうね。

人類はまだ「真理」の本当の可能性が見えていない。だから記念碑や記念館を作って英雄を讃えて、その神髄には触れようとせず個人崇拝みたいなことで満足してしまう。

ちなみにさっきの記念碑はジブリ美術館の「要石」で、そこに描かれた宇宙ステーションの模様は「飛行石」を表しているね。


おお!

そしてわざわざ二人は草深いトウモロコシ畑の中を歩んで行く。

これもジブリ美術館みたいだね。

そしてクーパー記念館が見えて来る。

テレビモニターからは、クーパー家の人々のインタビュー映像が流れている。

その中でマーフが「父は畑仕事が好きでした」って言うところがあるんだけど、クーパーはマーフと再会した時に「俺が畑仕事好きだって?」って笑うんだ。

これは宮崎吾朗氏のインタビューが元ネタになっている。インタビュアーに「父・駿さんは植物を育てるのが好きなんですよね」って言われて吾朗氏は「そんなバカな」と笑った。そしてこんな話をした。

「父はそんなことしたことありませんよ。作品では自然や植物を愛するようなことを言ってますが、植木鉢ひとつ世話できた試しがありません」

そうなのか!

でも確かに創作や仕事に夢中になったら、他のこと全て忘れてしまいそうだ(笑)

だよね。

さて、記念館は家の中もそっくりそのまま当時の様子が再現されていた。

案内係の人、まさに有頂天(笑)

クーパーに褒めてもらいたいのが、ひしひしと伝わってくるよね…

でもクーパーは「これじゃない」感でいっぱいだった。

そしてクーパーは部屋の片隅に「あるモノ」を見つける…

私だ。

そして、記念館にある壊れたロボットといえば…

ラムダ!

三鷹の森ジブリ美術館HPより

よく考えればオカシナ話なのだ。

なぜ壊れた私がわざわざクーパー記念館に置かれているのだ?

普通なら修理するために基地内に置いておくだろう。

そもそも私はあの家に何の関係もない。一度も足を踏み入れたことなどないのだ。

場違いも甚だしい。

すべては「ジブリ美術館」を再現するため…

そして、昔みたいにポーチでビールを飲んでいたクーパーに、TARSが話しかける。

クーパーは複雑な感情を、たったひとつの言葉で答える。

そして、月のように見えるコロニーの天窓を眺めながら、こう呟く。

「こういうノスタルジー」っちゅうのは、つまりああいうことやろな…

そして、一本だけ立っている電柱が、月明りをバックにした電灯みたいに見える。

なんかトトロっぽい!

そして父子の今生の別れのシーンへと続くわけだ。


マーフ「親が子の死を見届けるなんて、あってはならないこと。あなたはここに居てはいけない。あなたには行くべきところがある…」

クーパー「どこに?」

マーフ「ブランド…」

クーパー「・・・・・」

マーフ「彼女は遠いどこかでキャンプの準備をしている…たったひとりで…」

クーパー「・・・・・」

マーフ「そしてこれから長い眠りに就こうとしている…

クーパー「・・・・・」

マーフ「私たちの新しい希望の光の中で…新しいHOMEの中で…」


これって、もしかして…

「ブランド」とは「自分の作品」のことだろう。

つまり、記念館を作って過去に浸ったり、息子を会社の後継者にしようと張り切るよりも、表現者として貪欲に新しい作品に取り組んでほしい…というノーランの願いなんだろうね。

宮崎アニメを心から愛しているノーランは、自分の映画作りに夢中になっている宮崎駿にしか興味がないんだよ。北斎みたいに死ぬまで描き続けて欲しいんだ。余計なことに煩わられずに。

おそろしいほどの宮崎愛やな…

まさに、ルパン三世PART2のエンディングテーマ『Love is Everything』なのだ…

BOSSの宮崎愛は。

い~つか~ め~ぐ~り~あ~える~

やさしい~なにかも~とめ~

…ですね。

数あるルパンの歌の中でも、一番大好きな歌です。

だろうね。

『Love is Everything』も『インターステラー』で重要な役割を持っているから…

あの歌には、とんでもない秘密が隠されているんだよ…

とんでもない…秘密…?




~第13話へ続く~


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