対応に困った時のおはなし。
長男を出産してしばらくしたころ、私は自宅から10分ほどの場所にある整体院に通うことにした。
産後の体をメンテナンスするためだ。
月1〜2回、1年ほど通ったが行かなくなった。
私には合わなかったのだ。
どういうところが合わなかったのか。
言語化するのは難しい。
私と相手の「信じるもの」が相反するとでも言おうか。
その整体院は、40過ぎの男性が1人で切り盛りをしていた。
彼はとても物静かな人だった。
積極的に会話をせず、申し訳程度に「今日は天気が良いですね」などの当たり障りのない世間話がなされていた。
そんな彼がある日、私の肝臓部分を圧しながら、意味深に、それでいて静かに刺すように言った。
彼:「結構、肝臓が硬いですね。」
私:「ええっ?!肝臓が!?どうしたんでしょう⁈」
なぜ肝臓が硬いのだろう。もしかして私は肝臓ガン?肝硬変?私には長男がいるのにまだ死ねない!
超心配性な私の頭の中に、不安な気持ちが炎のごとく燃えさかった。
だが、次のセリフですぐに消し止められたのだった。
彼:「お酒とか…控えた方が良いかもしれませんね。」
私:「今、授乳中でお酒飲んでないんですが、他に肝臓が悪くなる要素って何かありますか?!」
彼:「お酒…。
飲むとしたらどういうの飲まれるんですか?」
私:「フルーツワインとか好きですね。」
彼:「いいですねぇ、そういうの!僕は赤ワイン好きなんですよ。肉によく合いますからね。」
私:「肉に赤ワインは最高ですね!(肝臓の話は…?)」
不安の火はすぐに消し止められたが、あとの煙は治らずモヤモヤした。
3ヶ月後。そのモヤモヤは再び燃え上がり、盛大に噴火した。もう鎮火することはできそうになかった。
私:「最近、台風やら大雨やら、結構ひどいことになってるから怖いですねぇ。」
彼:「(物知りげに)台風ってー
実は、とある団体、人の手によって人工的に引き起こされているって説があるんですよー
」
私:「えっー」
沈黙が続く。
彼は意味深にうつむきつつ、施術の手を止めない。
20秒ほど経っただろうか。
やっとの思いで、口を開いた。
私:「誰がそんなことを?」
彼:「 ー分かりません。」
私:「ええー?
結構迷惑ですよね、それって。」
彼:「そういう説があるんですよー」
彼を見る。うつむいたままだ。
私の反応を確かめたいのだろうか。信じるかどうか。
論破ッ!論破したいッ!
そんなこと、ありえるわけない…ッ!
しかしここは、小さなアパートの一室。相手は男性。逆上されるとよくない。
それにもし、サンタを信じる子どものようにこの整体師が台風人工的説を本気で信じているのなら、
夢を台無しにするのも悪いかな?
と思った。
私:「はぁー!そうですか!それはまた悪趣味な人たちがいるもんですねェ〜」
彼が次に口を開いたのは、会計時。「3,800円です」というセリフだった。
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