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2023年J1第2節湘南ベルマーレ-横浜FC「まだ波には乗れていない」

もう頭の中は、如何に早くこの場を立ち去って電車に乗るかしか考えていなかった。
この日は珍しく都内で対面で打ち合わせがあり、その後に平塚に向かわなけばならなかった。14時から1時間の会議なら大丈夫なんて思っていたら、なんと2時間超になり、時計とにらめっこの会に。2時間過ぎて「外は雨降ってましたか?」とかアイスブレイクを今からするのか。もう早く解放してくれ。
私はお互いの存在確認のためのような日本的な会議は超苦手である。会議の内容もあるのかないのか、議事録もないこの打ち合わせの意味なんなんだろう。そしてそこに時間を取られている自分は何なんだろう。こういう進め方は、日本的なビジネスとしては正解なのだろうけど、こういう方法だから革新的な方法とか出てこないのでは。ネットスラングとなった「ビッグウェーブ」は生まれにくい土壌がこういう部分にもあるのかもなんて心ここにあらずのまま、頭の中は時計の針と早く帰る方法だけがぐるぐると回っていた。

乗り遅れる

結局スタジアムに到着したのは、前半30分過ぎ。前半のハイライトはほぼ済んでおり、横浜のキャプテン・ガブリエウの負傷交代だけ記憶に残る前半になってしまった。
とは言え、移動中もDAZNで逐次状況は追っていた。小川航基のキックオフからそのまま横浜ボールのまま得たゴール、湘南・町野に許したゴール、そして和田のオウンゴールは知っていた。湘南のプレッシャーにハマって、徐々にボールを運べなくなっていた。
前半1分の小川航基のゴールは、彼が口にしていた「最初は前がかりに行こう、ロングボールを使ってもいい」を具現化した奇襲策が目論見通り的中した。が、そのままゲームが終わらないのがサッカー。

前半17分長いボールを湘南・大橋に落とされ、町野の左足のシュートでゴールを許して同点に。前半23分には、自陣でプレッシャーをかけられ、左サイドの和田がサイドチェンジしようとして蹴ったボールはそのまま横浜のゴールに吸い込まれてしまった。直接的には和田のキックミスである。逆サイドにサイドチェンジをするにあたり、カーブを掛けて蹴ろうとすると相手に触れられる可能性があったからかストレート系のボールを蹴ろうとしたところ、思ったより外側で弾いてしまった感じだろうか。湘南が2-1と逆転し、そのまま前半終了。

風向きが変わる

自分が見ていた前半だけでも「やっぱりJ2レベルだった」なんて野次に近い愚痴が聞こえるメインスタンドだったが、後半は風向きが変わる。J2サッカーのような後ろから丁寧につなぐことを半ば諦めサイドから前線にシンプルなクロスが入るようになると、前線で小川航基がボールを収め、カプリーニがプレスを剥がし前を向くと湘南は重心が後ろに。それまでは湘南はGKからも自陣深くからもつないでいく方針だったのが、DFに預けてからロングボールを蹴り始め、終盤にはゴールキックはロングキックばかりに。これは横浜の狙い通りにゲームが働いている証拠だろう。
前線からのプレスを嫌がって蹴ってくれるなら横浜の思惑通り。ガブリエウは退いたが交代で出場した岩武、ボニフェイスはロングボールを回収し横浜は攻撃を継続できた。湘南は守勢が続く。ロングボールを町野や大野が収めた時にはチャンスに結び付くが、大抵は苦し紛れで蹴ったボールで味方もいない場所で陣地を回復する程度にしかならなかった。横浜は、岩武とボニフェイスと右利きのセンターバックが揃ったこともあり、右からの攻撃に偏重していくが、それでも横浜がボールを保持していることに変わりなく、湘南のディフェンスラインをズルズルと後退させることに成功した。湘南は横浜の選手をファウルで止めるケースが増え、横浜のチャンスの時間は続いた。湘南は選手交代をして前線でタメを作ろうとしたが、問題点は後ろにあって前線の選手を替えても後ろからボールが来ないことに変わりなく、防戦が続いた。

それでも航る

それでも横浜がゴールを奪えないのが、J1だからなのか雨だからなのか。この日の天気以上にシュートの雨を降らせた横浜だったが、湘南の身体を張ったディフェンスの前にゴールラインを割れない。カプリーニのパンチ力あるシュートも、坂本の左からのミドルシュートも、三田の右足でのシュートも全て防がれる。前節の名古屋戦のように、押し込んでいるのにゴールを割れない嫌な思い出がムクムクと頭をもたげる。意図的に下げた、下げさせたの違いはあるが、前節よりも枠内シュートもあるし、クロスもよい形で入っているがそれ以上ゴールに迫れなかった。

空砲を浴びせ続けていた横浜だったが、後半38分待望の同点弾を呼び込んだ。カプリーニのコーナーキックに反応したのは、小川航基。ゴール正面で叩きつけたボールは湘南ゴールに吸い込まれていった。破れないなら破れるまでというメンタルがストライカーには必要だが、それを体現した。この日シュートは6本で、枠内シュートは5本、枠外の1本はポストを叩いたもの。それが報われた。

湘南の波はどうだ

同点に追いついた横浜だったが、その直後に許したコーナーキックのこぼれ球から湘南はシュートを横浜ゴールに浴びせ続けた。しかし、ここはGK永井を中心にはじき出したかに見えた。ところが、ペナルティエリア内でボールを受けた町野を中村が倒したとして笛が吹かれる。湘南サポーターから見てもラッキーな笛くらいの接触度合いだったはず。角度によってはファウルに当たらないような身体接触にすら見えた。

VARによるチェックが行われている。当初はファウルの可能性だったが、電光掲示板に目を移すと、オフサイドの可能性と表示されている。アウェイ側からでは奥行きがわからないのでどの部分なのか、ボールを受けた町野なのか、それ以前なのか。その整理がされないままPKの準備だけは進んでいく。ファウルはファウルとの判定なのだろう。そしてオフサイドでなければPKになる。しかし、清水主審が吹いた笛はPKの開始の合図ではなく、VARの結果オフサイドを示すものだった。

荒くなってきた波は去ったが、試合終了間際にはまたしてもピンチ。湘南が右サイドにボールを展開し、途中出場の山田がボールを受けようとする。ユーリがケアに入っていたが、足を滑らせてしまい転倒。難なく山田は右足を振りぬいた。ゴールに向かっていくシュートで逆転されるのを覚悟したが、ここでGK永井が反応した右足で弾いてゴールを許さなかった。

当初9分と表示されたアディショナルタイムも伸びて11分ほどになったが、ゲームはこのまま2-2の引き分けとなった。2ゴールを決めたがチームとしては全体的に浮かない顔をしている。もっと取れた、勝てたと思っているはず。内容もロングボール主体のサッカーは今シーズン横浜が考えているものではなく、相手の戦いを受け入れて自分たちのサッカーの方向を曲げたものだった。本当ならボールの握り合いをしたいのだろうが、完成度が違っていた。チームの半分以上が変わるのは大きく、この日のスタメンで昨年主力と呼べたのは、和田、中村、ガブリエウ、小川航基だけ。パス交換にしてもスムーズさがなく、まだ各駅停車のようなところがある。

2023シーズンも開幕して得た勝ち点は1。理想を追いかけすぎるとそれに追いつかない苦しい試合運びになり、理想をやめて簡単なロングボールやカウンターの道を選んでも限界は見えてくる。小川航基の個人能力の高さで救われたが、彼へのマークが厳しくなった時にどう点を奪うのかまだ見えないでいる。
勝って今後に弾みをつけたい神奈川ダービーではあったが、まだまだ湘南のビッグウェーブを乗りこなせていなかった。次こそは、テイクオフしたい。



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