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2023年ルヴァンカップグループステージ第6節ヴィッセル神戸-横浜FC「目論見」

試合開始からたった3分で神戸・尾崎が退場になったのは、両チームにとって想定外だったに違いない。神戸の吉田監督は「ゲームプランが変わってしまいました」と嘆いたように、Jリーグで優勝争いをしているチームとしたら11対11の試合で出場機会の少ない選手を試したい思いがあったに違いない。

一方で、横浜はその前週のJリーグ浦和戦からGKブローダーセンとカプリーニを変えたに過ぎなかった。この意味は、スタメン組には2週間の休養を与えるのではなくこのシステムの熟成を急いだことが読みとれる。
そして、本日の小川航基の移籍報道。基本的にスタメンを張っていた小川航基がここを外れるのは、彼が移籍した場合に備えて今後の起用を見込んだものだったのかもしれない。

前提が吹き飛んだ退場

先日の日本代表対エル・サルバドル代表の試合において開始6分でエル・サルバドル代表に退場者が出て、残り時間ずっと数的優位だった日本代表の選手の評価は難しくなったのを思い出した。色々確かめたいのに、前提が吹き飛んでしまった。それでも、その退場を誘発させた井上から山下へのラストパスは見事で、完全に急所を突いたものだった。

横浜としては5-4-1から巷で囁かれはじめた5-2-3のシステムへのトライをしようとしていた矢先で、前線から3人からスライドしながら外へ誘い込み、縦につけるならウイングバックと2枚で挟み、裏をとるならラインを下げてピッタリついていく。これを11対11での経験値を上げたかったのだが、前半3分で退場しては横浜としてもゲームプランが崩れてしまった。

よくある展開になったが

数的不利になった神戸だったが、先制点は神戸だった。前半8分にハイラインを取っていた横浜のラインの裏に飛び出した神戸・パトリッキがGK永井との1対1を制した。ハイラインはこうしたケースがあるから怖い。数的不利のチームが先制して、あとはドン引きになり逃げきられて試合終了。過去何度こうした試合を見てきたか。

追いかけることになった横浜だったが、神戸が退場者が出た後は5-3-1のシステムを敷いた事で、左右のスペースが空き、ここを横浜が使いやすくなった。サイドでボールを握って神戸の守備陣が下がっていくと、中盤も吸収されていく。前半20分、林がサイドを突破していれたクロスのこぼれ球を詰めていた山下がダイレクトでゴールに蹴りこみ横浜は同点に追いついた。

さらに攻撃の手を止めない横浜は、前線に飛び出した井上が神戸・酒井を交わしてペナルティエリアに侵入。折り返しのボールを受けた山下が再び神戸ゴールを陥れた。10分間で逆転。

逆転してからは横浜はボールを余裕をもって動かせるようになった。一人多い事で、神戸のプレスを交わし何度も左右を使って組み立てた。これを遅攻と捉えるか、食いつくのを待っていると表現するかは人によって解釈は異なりそうだ。リードしている数的優位のチームがリスクを負って攻める理由が少ないし、このゲームを勝利してもグループステージの敗退は決まっている。それならばリスクを極力避けながら、相手が少なくてもしっかりと剥がしに行く意思統一させている方が有益であると思っている。先制点を許したことも関係していて、イケイケドンドンは後ろに負担が高くなるのも頭にあってやや慎重なゲーム運びになった気もしている。

影を追う

後半横浜は2シャドーを一気に交代させる。山下と小川慶次朗、清水と高井だ。清水は横浜ユースの先輩達の系譜を継ぐがごとくボール捌きに妙を見せる。ただ、オフザボールの動きは物足りなさがある。足元にボールをくれと腕を下げるのは齋藤功佑の若い時を髣髴とさせた。ボールの展開に自信があるのだろう。実際、オフサイドになったがヒアンに通したパスは1点ものだったし、後半裏に抜ける近藤に出したパスはセンスを感じさせるものだった。これからと言えばこれから。U21枠での出場ではあるが、やはり選手は出場してナンボ。出場時間を延ばしていってほしい。

山下は、レッドカード誘発のドリブル突破に2ゴールと圧巻のパフォーマンスだった。井上との連携も良く、お互いを感じあっているのも伝わる。縦パスが入ったのは、数的優位だからなのか、それとも何か解放されたのかは今後を見ていかないといけないが、現在の横浜のこのポジションは毎試合とにかくスプリントを繰り返し消耗激しいポジション。2ゴールという形で結果が出たことで自信を深められるだろうし、彼はシャドーの1番手になっている。

そして高井と小川慶次治朗の2シャドーでいえば小川の方が相手を何度も剥がせたことは評価高いだろう。高井はこれまでのボランチの起用から本人が得意とする攻撃的なポジションでの起用となったが、中々得られるものは少なかった。ただ、それぞれが複数のポジションをこなすことが出来るので起用しやすいだろう。高井はシャドーもトップもサイドもこなせる、小川慶治朗もサイドもできるようになってきている。シャドーのポジションは選手の数も多ければ、消耗度も高いのでチャンスも多く回ってくる。長谷川が盤石のコンディションではなさそうなので、ここでポジションを掴めることはイコール横浜の浮沈のカギを握っていると言える。
山下、長谷川、高井、坂本、小川慶、伊藤、新井、カプリーニと相手次第で選べるほどの状態にはなっていないが、起用は整理されてきたのがこの2枚替えでそう認識できる。

後半28分には近藤のパスを受けたヒアンのシュートが決まり1-3と2点のリードとなりさらにテスト。三田を吉野に代えて投入。これまでユーリ・ララとの交代が多かった三田が吉野と交代。そのセンターバックの位置にはユーリ・ララを起用。
2023年のロマン枠は三田ではないか。モビリティに優れる井上と砲台のように左右に散らせる三田の共存。これまではこの二人の組み合わせだと守備強度に欠け、どうしても失点のリスクが高くなるので最近は井上とユーリ・ララで組ませることが多かったが、指揮官はその共存を狙ってなのかユーリ・ララをルヴァンカップのグループステージ第5節で見せたように再びセンターバックでの起用にトライ。
勝負の行方はほぼ決まり、次節以降の展開を見込んでの起用なのだろうか。そういうことが横浜もできるようになったことに隔世の感がある。

先を見据えて

試合は数的優位の横浜がそのまま1-3で勝利。退場者が相手に出て10-11でゲームを進めなければならなかった部分で、この試合にスタメンクラスの選手を並べたことは結果的にはマイナスの部分もあるが、先制点を挙げて逃げ切りを図ろうとする神戸を逆転したのは評価できる。なにせ今シーズン逆転勝ちは初めてである。ゲームプランが崩壊した後に相手のリズムに引き込まれずそのまま押し切ったのは良い部分だ。

水曜日の天皇杯を挟んで週末にはリーグ戦が再開。残り17試合。16位から降格圏からの大幅な脱出を目論む。ハイラインに5-2-3。2-4-4、ハマナチオとシステムで話題になってきた横浜。今シーズンは4-2-3-1と選手の編成がかみ合わず序盤から10試合勝ちなしだった。そこからどう立て直していくのか。最下位と勝ち点差はたったの1。

小川航基が移籍になれば後半戦エースストライカーを欠くことになり苦戦を強いられる可能性がある。それでも横浜サポーターの懐は深い。短いサッカー人生なら、どんと勝負するのが本望だとわかっている。小川航基は横浜のことは気にせず横浜から世界へ、そして代表へ羽ばたいてほしい。むしろオランダで活躍している斉藤光毅との対決すら見てみたいと思っている自分がいる。
最終的にはグループリーグは3位で幕を閉じた。3位なのでトーナメントには進出できなかったが、広島戦は若手の底上げ、神戸戦は戦術の深化と成果はあった。小川が代表入りを目論むのと同じく、横浜も残留を目論む。そのための準備を四方田監督は着々と進めている。


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