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2022年J2第12節 横浜FC-FC町田ゼルビア「メッセージ」

後半30分横浜がサウロ・ミネイロを投入したのは、四方田監督からのメッセージと受け取った。裏のスペースを狙えと。裏のスペースに蹴って、相手のラインを下げさせて、間延びさせたい意図はスタンドからも窺えた。スピードとフィジカル勝負なら逆転ゴールはある。ただ、現実はそうならなかった。

ここにいること

長谷川竜也には、昨年J1で対戦した時も裏に抜けるクイックネスとシュートの正確性を存分に見せつけられた。が、今年横浜に移籍してから求められているのはそういったワンタッチゴーラーや裏への抜け出しではなく、中盤とのつなぎ役が多かった。これは本人がこの役割をしたいと手を上げたのか、あるいはチーム内の選手の組み合わせでこの役割に落ち着いたのかによって解釈は異なると思う。後者であるなら、まだ次の手があるような気もしないでもない。

そのキャプテン長谷川に今シーズン待望の初ゴールが生まれたのが前半9分。中塩のクロスが弾かれたところに詰めていた中村拓が、裏に走り込んでいた伊藤へパスが出ると、これを中央に折り返したところに飛び込んだのは、長身の小川ではなくさらにファーで待っていた長谷川だった。小川の10ゴールや伊藤の復活ゴールに注目が集まる中で彼もゴールを欲していたし、サポーターもそれをずっと取らせて上げたいと思っていた。彼の貢献度はみな知っているが、ゴールといったわかりやすい結果があることで、長谷川はここにいていいんだと彼も見てる側も改めて実感できたゴールだったと思う。

前半、横浜はゲームを優位に進める。町田は「相手が3バックできたのは予想外ではありました。」と長谷川が語るように驚きの3バック。これまでの千葉戦、栃木戦を見て3バックの方が組みやすしと判断したのかもしれない。ただ、慣れない両サイドが落ちて3バックより5バックに近くさらにラインは高め。町田・鄭は孤立気味。岩武はタフな1トップとのバトルで消耗しつつ決定機を作らせないでいた。町田としては、鄭に当てて全体を押し上げたいが、ここに収まらないとまるで撤退戦。常に後手後手に回らされていた。2枚の高めのラインが敷かれているだけに過ぎなかった。
横浜は前節の反省もあってか、ボランチがディフェンスラインに落ちる時もあるが手塚を前においてより臨機応変にゲームの組み立てに参加。鄭のプレスがかからないので、後ろを4枚にせず高橋は機を見て前進。
町田の前半唯一のチャンスは、自陣低い位置でのボール回しを奪われてポスト直撃のシュートを放たれたプレーだけで横浜が崩されるシーンはなかった。

ポポヴィッチ監督のメッセージ

長谷川のゴールを守って1−0と折り返した後半、町田は後半頭から山口を投入。アーリアジャスールを外して攻撃的に、そして狙うのは横浜の裏のスペース。投入して直後山口が裏に抜け出してシュートを放ちポポヴィッチ監督のメッセージは町田の選手たちに伝わっていたが、それを感じ取れた横浜の選手はどの位いただろうか。
平戸がハーフスペースを使ってボールを受けて侵入する回数が増えていくと、横浜は町田を自陣低い位置で攻撃を凌ぐのがやっとになってしまった。

横浜は、山下と和田を投入する準備をしていたが、その前に町田にゴールが生まれてしまった。町田・佐野が入れた縦パスを町田・ヴィニシウス・アラウージョまで通され、岩武が振り切られてシュートを許して失点。中塩が引っ張り出されてしまい、中は数的同数でシュートを許してしまった。中塩に代えて和田を入れ、山下を入れて高木を下げてそこに亀川を当てる予定だったのは、この左サイドを使われすぎていたのと、守備ライン全体のオーガナイズが出来なくなっていったのを認識していたからだったが、交代直前にその部分を突かれて失点するのはもっていなかった。


四方田監督のメッセージ

左サイドを立て直し、さらに後半30分には今シーズンセンターバックで全ての試合で先発フル出場していた岩武を下げ、安永とサウロ・ミネイロを投入。これは前線へのカウンターを意図していた。センターバックに高橋を下げて、モビリティではなくスペースを埋めることを優先。サウロ・ミネイロを入れて裏のスペースを取りにいくはずだったのだが、展開はそうはならなかった。「つなぐだけでなくて長いボールも織り交ぜていく」と試合後四方田監督が語ったのは、その狙いが出来ていなかったからだろう。相手に押し込まれている中で、ボールを取り返しても無理につなごうとしてボールを奪われてさらに攻撃を受けるという悪循環があった。
チームのコンセプトとしてボールを握る部分はあるが、状況に応じて使い分ける必要があった。サウロ・ミネイロを相手ゴールに対して後ろ向きでボールを受けさせても本当の力は発揮できない。獰猛なゴールハンターを裏のスペースへバンバン走らせた方が圧倒的に効果はあったはず。だから、小川がいながら、栃木戦とは異なり1トップで起用した。
最後の最後で、中盤でボールをつないでいた長谷川を外してまでクレーべを入れても思うようなゲーム展開にできないまま、後半は町田にピンチを作られ続けたまま試合は終了。1-1の引き分けに終わった。


俺たちのこの声は届いてるかい

町田に昔から伝わるチャントの中で「ラブミーテンダー」と呼ばれるものがある。原曲はエルビス・プレスリーの「love me tender」で歌詞はどこにでもありそうなのだが、

町田ゼルビア フォルツァ町田
町田ゼルビア フォルツァ町田
さぁいけ!前へ進め!立ち止まるなー!
俺たちのこの声は届いてるかい

「俺たちのこの声は届いてるかい」の表現は素晴らしいと感じる。応援は、時に自己満足に陥りがちになる。応援や思いが相手に届いているのを前提にしているチャントは多いが、このチャントは相手にレスポンスを伺う。届いていないなら届くまで歌う、届いているならプレーで魅せてくれ。そんなメッセージが込められていると感じた。選手たちも丁寧に問いかけてくるチャントには、届いているなら頑張ろうと思える。

町田戦の後に出たブーイングは選手に届いたのだろうか。ここ数戦パフォーマンスが低下しつつあるチームを叱咤激励する考え自体には理解できる。確かに負けなしを続けてはいるが、引き分けを続けても昇格は出来ない。来年J1で戦うことが視野にあるなら、今の現状は危ないぞと表現しても良いと思う。
問題は手法。「ブーイングはNGで、ゴールの歓声はOKに納得できない」と自分たちの正義だけで何かを表現することは、選手に届いているのだろうか。多くの人間は、「声出しNG」といったJリーグのルールの中での声を出してのブーイングに対して批判がある。ここを上記の論理で交わそうとしているのが、はっきり言ってダサい。どんなに素晴らしいメッセージも、手段を間違うと不快にしかならない。ルールの中で最大限できる表現で叱咤激励すれば、理解も納得もされる。

一方で、現在首位で負けなしでそこまで怒ることなのかといった意見も理解できる。実際首位で2位とは勝ち点差は5。シーズン前の評判もJ1からの降格チームなこともあり高かったし、その評価以上の結果を出していることは数字を見ても明らかだ。しかし、今年は勝ち点1を積み上げたら生き残れる可能性が高まる残留争いではなく、勝ち点3を積んだものが勝ち残る昇格レース。だからこそここで下を向かずにと、大きな拍手が生まれたのもまた事実。

ブーイングと拍手が入り混じる試合後のゴール裏になったが、これも引き分けで終えたことで感情が入り混じっているからだ。首位でありながら勢いが減速し、それぞれの思いが微妙にずれ始めているメッセージでもある。結局こうしたわだかまりを吹き飛ばしていくのは、勝利への渇望と昇格への情熱だけだ。ブーイングか拍手かの応援方法の賛否なんてどうでもいいと思わせてくれる勝利という強いメッセージをチームから、そしてクラブから届けてほしい。

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