見出し画像

仕事の契約書を作るには要望を正しく言語化する作業が重要であり、それっぽい堅苦しい単語を並べるだけでは作れないという話。

「契約」って重要なクセしてすげえめんどくさいっすよね。

僕は企業から仕事を請ける時もあるし、企業やフリーランスの方に仕事をお願いすることもある。そうした場面で不可欠なのが契約。ハンパな内容の契約を結ぶとプロジェクトが破綻するので手を抜けない。

一方で体制の整った企業の中で仕事をしていると、「契約周りは法務にお任せ」というスタンスの人も多いみたい。そうした人がいざ契約と向き合う時にその骨子の設計に関する相談されることもチラホラある。

僕自身は「契約書作成のプロ」ではないので手伝えるのはほんの一部。それでもトラブルを未然に回避できたこともあるようだ。それだけ受発注側双方に初心者が多いということかもね。

というわけで初心者さんが「はじめてのしごとのけいやく」を結ぶ時に重要と考えている視点を整理してみた。

今回はフリーランスが企業から仕事を請けるケースを想定している。とはいえ基本的な考え方は企業対企業でも、NDAやら投資契約やらその趣旨によっても大きくは変わらないはず。

なおこのエントリはあくまで契約書作成のプロではない僕がこれまでの経験上重要だと考える点を整理しているものです。プロの意見を聞きたい人or今契約でシャレにならんレベルで揉めている人はちゃんと弁護士さんに相談しましょう。

というわけで本編。

契約とは

契約とは約束事。
「この仕事をこの条件でお願いしたい」
「この条件でこの会社に出資したい」
「この条件で機密情報を共有したい」
などなど、色々な約束を「契約」にまとめていく。

契約を作るには「受発注の双方が依頼に関する要望を整理し、妥結点を見つける作業」が重要。堅苦しい契約形態や単語を暗記して決められたフォーマットに書き写せば終わる作業じゃない。

「なんかそれっぽい専門用語が並んでる書類が送られてきたのでこれにハンコ押せば多分ヨシ!」だと死ぬ。僕は一度死にかけた。

契約書によくある項目

フリーランスとして仕事を請ける「業務委託」を例に考えてみると、多くの場合契約には下記の項目が盛り込まれている。これらについて受発注側の双方は自分の要望を整理して相手と妥結点を見つけていく。

1)受注側は「何を」「いつまでに」「いくらで」行うのか
2)発注側はいつまでに報酬を支払うのか
3)納品物の権利はどちらに帰属するのか
4)納品物の全てまたは一部をプロモーションや他のプロジェクト開発など、他の用途に転用できるのか
5)納品後のアフターフォローはどの程度行うか
6)業務を通じて得られた機密の範囲と取扱いはどうするのか
7)揉めたらどうするのか

特に慣れていないと3)4)5)の観点は見落としがちなので気をつける。で、仕事の内容によってはこの他にも詰めるべき項目は増えていくので要注意。

自分の要望と妥協ラインを事前にもれなく我慢せずに言語化する

ここから大事。具体的な契約書を作る前に「自分はどのような条件で仕事をしたいのか?」という自分の要望をもれなく整理しよう。

金額は?納品物のレベル感は?稼働する場所は先方の拠点、それとも自宅?納品の際に稼働実績の書類はどこまで細かく作る?などなどなど…。まずは上の7項目で整理するのはおすすめ。

硬い表現で整理する必要はない。ただただ自分の脳から出てきた要望をありのままに書き出す。これらは契約内容に関する打ち合わせの前に整理できてると最高。

コツは「こういう条件で働きたい」の他「こういう条件で働くのは絶対に嫌」という2つの視点で要望を漏れなく洗い出すこと。一方で「ここまでなら妥協できるライン」も決めておく。上に挙げた7項目以外の要素があっても良い。とにかく要望をもれなく洗い出す。
(実際に案件が始まって自分が仕事をしている様子を想像するとより書きやすくなるかもね)

この「要望の洗い出し」で手を抜くと自分の要望を適切に先方に伝えることができず、不利な内容の契約を結ぶことになる。結果として「思っていた仕事ではなかった」ということが発生し、良い成果も出せなくて今後の仕事にも影響する。

「ソースコードは書くけど上流工程の打ち合わせには出たくない」「意思決定に有効な要点をまとめたメモは作るけど、社内向けの小綺麗なパワポ資料は作りたくない」など、様々なケースを想定して自分にとっての「これは喜んでやる、これはお断り」を言語化しましょう。

こうした細かいトピックにおける受発注間のズレは、契約前は我慢できても案件が始まったらいずれ破裂する。会社員の立場であれば、破裂のダメージを他のメンバーに分散できるかもしれない。でもフリーランスや小さいスタートアップの場合はこうしたダメージのリカバーは難しい。

契約前こそ我慢をしてはいけない。

担当者が契約作りにどのようなスタンスで臨んでいるか

ここまでの作業で結構な量の要望がリストアップされるはず。当然相手方も様々な要望を資料化してテーブルに乗せてくる。ここから相手方と契約を詰める、つまり妥結点を見つける作業が始まる。

当然最初は折り合わない。結局は中間地点もしくは立場の強い側に有利な条件に寄った内容になるわけだけど、そこまでの過程でも重要なポイントがある。

相手が受発注双方の要望をきちんと理解しているかは観察するべき。よくあるのが担当者が自分の出した要望の細部を理解していないパターン。「そんなことある?」と思うけど結構あるんよ。

担当者が社内で使い回されてきた業務依頼に関するテンプレを、内容を理解していないまま出してくることはしばしばある。これはこちらにとっても先方にとってもヤバいので、意図を汲み取れない項目は深堀りして確認するべきだし、こちらの要望と食い違う部分があればすり合わせるべき。

わからない部分があればその意図をコツコツ確認するのは大事。それをきっかけに事前に気づかなかった「自分の要望」を発見できたりもする。

こうした契約内容の詰めは発注側担当者にとっても負担が大きい。ただ担当者がこうした契約に関するコミュニケーションが不得意な場合、その後の仕事の中でも要件のすり合わせや納品など様々な場面でトラブルが発生する可能性が高い。

もしも相手が契約に関して当事者意識を持たず、全て法務に丸投げするタイプの場合は、そもそもその案件は請けないほうが良いかもしれない。後から苦労するはず。

一連のすり合わせを通じて相手がこちらからの要望の内容を理解し、社内検討を適切に進められる担当者であれば、案件が始まった後も良い仕事相手になる可能性が高いのでたとえその場では交渉決裂しても将来の縁として大切にしましょう。

契約内容を詰める過程で要望をぶつけ合い、双方納得して契約締結した後であれば、案件中での多少のトラブルは大目に見ても良いとも思う。程度にもよるけれどそうしたトラブルを予見し、契約の中で予防線を張れなかったこちらにも一定の責任はあるわけだし。

契約するまでは両目を開けて相手を厳しく評価する、案件が始まったらたまに片目を閉じて大目に見るくらいのスタンスが個人的には好き。

契約を詰める作業は案件開始前の「初めての共同作業」

契約を詰める作業は、実際の案件が始まる前に相手の会社や担当者の気質を確認し評価できる良い機会。

お互いの要望を主張しつつも、歩み寄るべき所は歩み寄ることが重要。相手も契約仕事が不慣れなことが多いわけだし、相手の立場を尊重しつつ、こちらの要望は適切に言語化し伝える。その積み重ねが相手との信頼関係を作り、案件が始まった後に良いアウトプットを生むことにつながるはず。

契約内容を詰める作業は戦いというよりも、受発注側双方が要望を適切に言語化し、妥協点を見つけていく「初めての共同作業」だと思う。

とはいえ強気になろうとしても色々不安はあるよね

もしあなたが敏腕売れっ子のエンジニアやデザイナー、コンサル、士業であればマウントを取れるので要望は出し放題。でも誰もがそういう状況でもない。フリーランス始めたてではなおさら。契約内容について細かい要望を言えるほど案件を選べないことも多いですよね。

だから普段からの営業活動が重要になる。発注側と強気の交渉をするためにも、これまでの案件を成果として出すことは重要だし、そのためには成果を外部に公開できる案件を優先して請けていくこともアリ。場合によっては金銭面などで多少の妥協も必要かもね。
(でもそこを突いてエグい要求をしてくる人もいるので妥協のしすぎはよくない)

自分自身のプロジェクトを持っているのであれば、それも名刺代わりになるだろう。自分の判断で外部公開できるし。

また普段から色々な会社や担当者と仕事以外の場(イベントとか交流会とか?)でコネクションを作ることも大事。契約の可能性があるクライアントとのコネが多いほど「ダメなら次行こう」という判断ができる。

企業側担当者もつらいんすよね

企業の中の人向けに少し書き加えると…

契約ってクッソめんどくさいですよね。事業部側で働いてると細かい契約の調整には関わりたくない。そして会社の中には法務部門という神がいる。だから丸投げしたくなる。早めに相談することは必要だけど、丸投げはやめたほうが良い。

契約に関する仕事はざっくり分けて「契約の骨子を作る」「骨子を元に契約書的な表現に変換する」の二工程がある。後者はプロにしかわからない部分もあるので法務側での作業が重くなるけど、前者は現場担当者にしかわからない部分が大半。

発注する時も受注する時も、何かしら契約が発生する案件が立ち上がったら法務への相談を早めに行うべき。でも要望を言語化する作業は現場担当者が行うべき。現場担当者が契約の当事者として臨むことで自社の法務部門や取引先とのコミュニケーションがよりスムースに運ぶはず。

******

繰り返しになるけどこのエントリはあくまで契約書作成のプロではない僕がこれまでの経験上重要だと考える点を整理しているものです。プロの意見を聞きたい人or今契約でシャレにならんレベルで揉めている人はちゃんと弁護士さんに相談しましょう。

受注側と発注側、双方が納得してモチベーション高く仕事に臨む現場がもっと増えますように。

そして「要望を洗い出すことが大事」という考えはフリーランスの業務委託契約に限った話じゃない。前半にも少し例に挙げたけどスタートアップやベンチャーにとって身近な「投資契約」も似たようなものだと思っている。

皆さんからのサポートはもれなく焼酎代とkindle積み本代に変換され、そこでの気付きが新たな記事のネタになり皆さんを楽しませることでしょう。多分。