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E70: 567円の出会い

「会員番号32番 山本スーザン久美子」

笑ってしまった人、私と同年代である。

(いや、アンタそれ、憶えてどうするん?)
ということを、
ずっと記憶してしまっている自分がいる。

それは、どうも数字がらみのことが多く
40年以上会っていない同級生の誕生日を
子どもの頃になんとなく憶えてしまって、
いまだに憶えていたりする。

で、そういう自分にちょっと困っている。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

30年以上前、バイト先のコンビニに
毎日決まった時間に現れる女性客がいた。
背がすらっと高くて、ハイヒールで歩く姿が
カッコよかったので印象に残っている。

なぜ、その方のことを憶えているのか。
理由は「絶対に計567円※」だったからだ。
入店から退店まで、むだな動きがなく
毎日「全くおなじもの」を買い、レジへ
そんな光景を10日連続で見れば、さすがに印象に残る。

印象に残った理由は他にもある。
必要なものだけを手に取り、レジに来るまで
(先客がなければ)40秒前後
……見事だと思った。僕には無理だからだ。

僕は通勤でさえ、定期的にルートを変える。
3日間連続でカレーが出たら発狂する。

「彼女」はとうとう僕がバイトをやめるまで
「40秒・567円」を堅持した。

僕は、彼女の私生活に、興味はない。
言ってみれば、もう顔も覚えていない。


ただ、
自分が買い物をして「567円」だった時
その時だけ、彼女を思い出す。

今は、どうしていらっしゃるのだろう…。
ふと、思う。

彼女がどうの、というより
「567円」だけをいまだに憶えている自分がいる……
そんな自分が……ちょっと不思議だ。


若い頃は、記憶力抜群だったが、
最近はこの能力は、もう錆び付いた。
「会議、何時からだっけ?」
何度聞いても憶えられない……
そんな自分が……少し寂しい。


※大昔の話ですが、個人情報でもあるので
「本当の金額」は憶えていますが、
ここでは差し控えます。
「567円」はフィクションです。

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