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E207:困惑の妄想信号機

スタエフで、人見知りについて話していたら
ふと、高校時代のことを思い出した。


帰る方向が同じだった「ジン」とは、
特に気が合って、いろんな話をしていた。

その日も、帰り道、私たちは
電車に乗りながら、くだらない話をしていた。

「なぁ、最初ジンに話しかけるの勇気いったわ」
「え?俺から話しかけたんやなかったっけ?」

「いや、ちゃうで、俺やでー」
「まぁでも、源太はええやないか、みんなが勝手に話しかけてくるから」

「いや、こうなるまでは大変やったんやで」
「そうかなぁ…?」

私はその流れで、常々思っていたことを、ジンに話してみた。



「なんか、最初の頃ずっと思ってたんやけど、【話しかけOK信号】て、あったらええのになぁって」

いつもニコニコと話を聞いてくれるジンが、キョトンとした顔で、首をかしげる。

「…なんや、それ?」

…………………………

教室にいるみんなの頭上に、自分にしか見えない信号機みたいなのがついていて、話しかけたとき、

【なんとなく自分と話したいな、と思ってくれている人の頭上には、青信号】

【嫌がられていたら赤信号】

【コイツ微妙やなと思っていたなら黄信号】……みたいな

…………………………


「源太、お前いつも変なこと考えてんなぁ。それ、おもろいけど…ほな、最初から眼中にないやつは、何信号?」

「え?それは……信号、消えてるだけやん」

「あ、そうか!」

じゃあ電車の中でも応用して、
近所の女子校の子たちの反応みるの、いいかもな。 
それ使って告白する? それってずるくねーか?

そもそもありもしない妄想の話で
男子高校生2人は勝手に盛り上がっていた…

話はどんどん脱線していき、今度いつ遊ぶかとか、いつのまにかそんな話をしていたかもしれない。最初はいつものように元気よく話していたのに、しばらくすると、だんだんジンの表情が曇った。

「……なぁ、源太。やっぱりやめよう。さっきの信号機」

「へ?」
急に話が元に戻ったので、こっちがびっくりした。

ジンの最寄り駅が近づいた。
彼は席を立って、ゆっくりこっちを振り返ると、目の前の吊り革にぶら下がりながら、私を見下ろして言った。

「もし、教室の中でも、電車の中でも、全員の信号が消えとったら……俺、立ち直られへん、……あ、駅着いた。ほなな、バイバイ!」

こっちは、あっけにとられて見送るしかなかった。



……実はそれ、
私自身が考えていたことでもあった。でも、それはその妄想の中でも【闇】みたいなところで、自分でも無意識に蓋をしていた。




高1の4月の終わり、ジンには、私が自分から話しかけた。はっきり断言できたのには理由があった。

人見知りの私が、彼に話しかけようと思ったタイミングまで覚えているからだ。


たとえば
休み時間、自分の席に、別の誰かが座っていたら
みなさんはどうするだろうか?

入学直後のあの日、まさにそんな状況になったジン。トイレから帰ってきた彼は、自分の席に誰かが座っているのに気づいた。

ジンはそこが自分の席であるにも関わらず、相手に何も言わないどころか、自ら目立たない場所に移動した。かといって、誰かの席に座るわけでもなく、静かに窓の外を眺めていた。相手が席を立つのを見届けてから、さも今帰ってきたかのように装って、さっと席に着いた。

騒がしい休み時間。
多分、この一部始終に気づいたのは、私だけ。

私は、この瞬間に
「コイツと友達になろう」と決めた。



あんなに仲が良かったのに
なんとなく疎遠になって30年。

あとになって、手を尽くして探したけれど
そのときにはもう、彼は誰とも連絡を取っていなかった。

お互い、なんとなく気を遣って生きていたあの頃、
お互い、なんとなく【闇】を抱えていたと思う。
それが、どんな闇だったか……
いつか偶然会うことが出来たら、ちゃんと答え合わせをしようと思う。



【連続投稿: 128日目 ライランⅡ: 39日目】

今日は39日目です




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