日本語を振り返る時間:杉本苑子『秋と冬の歌』
いつ買った本だろう。奥付を見ると昭和60年12月20日第一刷発行とある。1985年、まだ学生だったときだ。
秋立つ日という章には、中村草田男の俳句がさりげなく置かれている。秋の気配を感じるのではなく、秋立つ日にふさわしい《やや寒》という季語。無髯の耶蘇が掛けられた壁を《やや寒》という一言で言い尽くす感性。
この本を買った時、自分が何を感じたか、なぜこの本を買ったのか、もう思い出せない。ずっと本棚の奥に置かれていたこの本は、捨てられもせず、だからといって繰り返し読まれたわけでもなく、ひっそりとそこにいたのだろう。
本棚に残るのはこういう本なのかもしれない。
訪問していただきありがとうございます。これからもどうかよろしくお願い申し上げます。