バルザック的な面白さ
評伝とか自伝とか、いずれにせよ、この手の本は読まないことに決めていたのだけれど、近所の図書館にあったので、ちょっと前に、石井妙子『女帝 小池百合子』を興味本位で借りてしまった。
しばらくそのまま放ってあったのだけれど、ドロシーから「せっかく借りたのに読まないの?」と素朴な疑問をぶつけられ、なんとなく読み始め、さきほど読了。
正直、よいわるいではなく、強烈に面白い。なんというか、バルザック的な面白さだ。
かなり以前、むかしや今松師匠が「大坂屋花鳥」という噺を通しで語る会に参加した。あのときに感じたの同じような、善悪を越えた強烈な個性の魅力を本書からも感じる。
私はホラーが嫌いだが、ホラーの面白さ、《悪》の魅力、彼女を否定する人々、肯定したり利用したりする人々に興味を惹かれた。
なぜ、彼女が政界渡り鳥というような言われ方をしたのかも当時は関心がなかったのでよくわかっていなかった。細川内閣成立前夜からの人の動きにとても興味深く感じた。平成から現在までの状況の中で、彼女はひとつの特異点として時代と社会を象徴しているのとすら思う。
有権者も他の政治家も馬鹿ではないのだから、《渡り鳥》と揶揄されようと彼女が生き抜いてきたことは事実なのだ。私には彼女の立場の豹変、ときどきの主張の反転が、改めて記述されていた点も面白かった。そこに描かれていることは、少なくとも私にとっては曖昧なものではなく、実際にテレビなどで目撃した発言や態度だったからだ。
「人とはそういうものなのだ」と、あたかも小説世界を眺めているようにも感じたし、平成という時代のひとつの徴表としても読めた。そこに、この評伝のドキュメンタリーとしての深さがある。
都知事選、誰が勝っても、私には興味深い。