見出し画像

ジョジョの奇妙なマネジメント〜カーズ様から学ぶ「心理的安全性」(後編)

※全文無料で読めます!(投げ銭用の有料設定です)

【前回のおさらい】→記事はこちら
▶︎組織の「心理的安全性」「責任(仕事の基準)」がいずれも高いとき、全員のパフォーマンスが最も高い「学習」状態となる
▶︎「学習」状態をつくるためにマネジャーができることは以下
① 組織の「テーマ(方針)」を明確に示す
② テーマの中で、部下にちょうどいい自由度で任せる

無題15_20200720193229

さてこちらを元に、後編ではいよいよカーズ様のマネジメントを紐解いていきます。

2-2 : テーマが明確なカーズ式マネジメント

寝起き1分でワムウを許すカーズTEAMの心理的安全性の高さは前回見た通りですが、もう一度、前回の「カーズ様について」から戦略とテーマを整理しましょう。

カーズ様の最終目標は「種として全ての生き物の頂点に立ち、究極の生命体となること」です。
そのために設定したテーマが「エイジャの赤石を手にいれる」こと。そして部下(エシディシとワムウ)には、そのテーマの中ならそれぞれのやり方で自由にやっていいよという渡し方をしていました。

▼イメージ図はこんな感じ

無題16_20200724050825

テーマを絞ることで、まるで合言葉のように士気が上がる。
さらに取り組むべき課題を決めることで、部下はその範囲で深く集中して考えるので、テーマに対する知恵・工夫が進んで出てくるようになる。
そして部下の個性やアイディアを否定せずに尊重し、任せることで、部下は仕事が楽しくなってもっと次の工夫をしようとするようになる。

そんな心理的安全性も責任も高い「学習」する組織を、カーズ様は確かに作っていたように思うのです。

マネジャーの仕事が部下を通じて成果を出すことならば、部下の状態そのものが、マネジメントの1つの成果ともいえると思います。カーズ様の部下をみてみましょう。

エシディシに至っては最期、ジョセフと戦って粉々に砕け散ったにも関わらず、脳みそ状態で生き伸びてまでエイジャの赤石を奪おうとする高いエンゲージメントが見てとれます。

エシディシ

このカーズ式マネジメントで、一番花開いたのはワムウです。

▼ワムウプロフィール

画像3

ワムウは根っからの武人であり、たまたま敵側にいるだけで性格は半分悟空みたいな感じの人です。とにかく強い相手と出会って自分が強くなりたいし、誇り高く生きたい。素質がある者には、敵であろうと最大限の敬意をもって接する。

カーズ様は目的至上主義で、ワムウは闘うことの充実感……つまりは価値至上主義。考え方は全く合いません。きっとイライラすることも多かったと思います。しかしカーズ様は「エイジャの赤石を手にいれる」という方針さえずれていなければ、ワムウの意思を尊重して仕事を任せます。

例えば、最初にワムウがジョセフと戦ったときのこと。
その時点でワムウの方が圧倒的に強い。が、ジョセフの「俺はもっと強くなるからあと1ヶ月待て!」というワムウの性格をくすぐった時間稼ぎに対して、「ならば待とう」と、ワムウとエシディシがジョセフの喉と心臓に1ヶ月後に溶解する毒を仕掛けます。

そのときの、カーズ様の反応がこちら。

画像4

目的至上主義のカーズ様は、そんな無駄な回り道はしません。
しかし自分とは違う価値観の部下に対しても、きちんと理解を示す。
理解を示した上で、改めてこの組織の目的と基準を明確に示す。素晴らしい手腕です。
(脱線するけど、3人の初登場のシーンだけで組織の方針や関係性、それぞれのキャラがめちゃくちゃ分かるという荒木先生の構成力にも感服です。)

この点において、カーズ様は本当に一貫しています。
私が一番感心したのはこちらシーン……カーズ側の吸血鬼たち100匹に対して、エイジャの赤石を持つジョセフ側の戦力はジョセフとリサリサのたった2人。カーズ陣営が圧倒的に有利な状況で、ワムウが1対1の決闘を申し出たときです。

画像5

そう、それでいいのですカーズ様。
戦略から外れない範囲だったら部下に自由に任せる。しかし、戦略から外れる部下の行動は毅然として許さない態度を取ることで、組織の基準を明確に示します。

ジョセフとリサリサという倒さなければならない現実はすぐ目の前に迫っています。マネジャーの仕事は、その場ですぐに判断・決断しなければならないことがほとんどです。意思決定の遅れは致命的なビジネスの遅れに繋がります。
その一瞬の判断でも、カーズ様はブレない。普段から、自分の意思決定基準を明確にしているからでしょう。

ちなみに、人によってはここで「優秀な部下(ワムウ)の意思の方を尊重する」と判断するマネジャーもいると思っています。それも決して間違いではなく、要は判断・決断にマネジメント基準が一貫して見えることが大事だと思っています。
「先週はAという基準だったのに、今週はBという基準で却下された」というのがNGです。こうなると部下は組織の基準が分からないので迷い、自分で判断できず上司の意見を毎回聞くことになるので、心理的安全性も下がりスピードも遅れます。

このあとカーズ様は判断を変え、結局ワムウとジョセフは1対1で決闘をすることになります。しかしそれもリサリサが「1対1にしないとエイジャの赤石を自動的に爆破するぞ」と交渉(という名の脅し)をしたから……つまりは目の前の現実状況が変わったからです。「エイジャの赤石を手に入れる」という基準自体は何も変わっていないので、これは現実に合わせた良い朝令暮改です。

その一貫性はきっと、部下にも伝わります。一貫性があれば例えその判断が自分とは合わないものであったとしても、(まあその時はちょっとムカつくかもしれませんが)最終的に納得はできますし、上司への尊敬の気持ちも変わりません。少なくとも私はそうです。

そして、ワムウはイキイキと仕事(ジョセフとの決闘)に取り組み、闘いの中で自ら目を潰してまで集中力を最大限に高めます。結果は敗れましたが、最期までカーズ様の味方でありながらもジョセフも庇い、満足気に散っていきました。

画像6

画像8


ワムウが自分を最大限に高めて成長できたのは、ジョセフというライバルと出会って対峙したことが大きいでしょう。目の前の現実にモチベーション高く、夢中に取り組むことが自分を成長させる……私たちの仕事でいえば顧客かもしれないですし、辛くてもあとから振り返ればやりがいのあったプロジェクトかもしれません。

しかしその裏で、カーズ様というマネジャーが果たした役割は大きかった。

ワムウにその環境を与えたのは他の誰でもない、カーズ様でした。

「仕事(コト)が人を育てる」とよく言われますが、それは間違いなくそうだと思います。しかし「マネジャーは部下に仕事を渡すしかできないし、仕事さえ渡せば部下は自分で勝手に育つ」は微妙に違うと思っています。それが完全に成り立つのは、それこそ全員が超絶に優秀なGoogle社とかそれくらいの世界なもんで。

「全体の戦略・テーマが見えやすかったか」「上司からどう意味づけされてその仕事を渡され、どう支援されたか」「一緒に働きたいと思える仲間がいたか」など、自分の経験から言っても「仕事(コト)」そのもの以外でも、周りの環境……とりわけ「人」から受けるモチベーションの影響は大きかった。

全員に四六時中張り付いていられる訳ではない以上、マネジャーが人材育成に影響できる部分なんて、ほんのわずかなのかもしれません。特にマネジャーにまでなるような方は、周囲からの働きかけがなくても、自分で自立して成長してきたという方も多いでしょう。

だけど私は、その「ほんのわずか」がめちゃくちゃ大事だと思っています。少なくとも私は、上司が私にどう関わってくれたかで、自分自身が前向きになるか後ろ向きになるかは大きく変わりました。

どう関わるか、どう言葉をかけるか、どうチームを作るかで、部下の成長角度は全く違うものになる。もやもやしたり不安な気持ちのままでは、やはり人は最大のパフォーマンスを生むことはできないです。

カーズ様は目的至上主義……いわば「戦略実現」が第一であり、「人材育成」はそのための手段にしか過ぎない人だと思っています。ワムウが負けたときも、すぐに気持ちを切り替えます。しかし……

画像7

一瞬拳を上げ、悔しさを滲ませました。
この一瞬だけは目的のためとかだけではなく、本気で、ワムウの死を悔しがっているように見えました。

信頼して賭けた部下が負けたときに果たして、本気で一緒に悔しがってくれるかどうか……。その姿勢もやはり、部下には伝わると思います。ワムウは最期の最期まで、カーズ様への高いエンゲージメントを示していました。「忠誠」ではなく、相互に信頼しあう「エンゲージメント」です。

切磋琢磨しあえる仲間と一緒に、それぞれがお互いの個性を最大限に生かして、1つのテーマに向かって仕事をしていく。
カーズ様は、そんな環境をちゃんと作っていたと私は思っています。

3 : これだけ完璧な男であるカーズ様に足りないものとは?

どうでしょう、カーズ様。めちゃくちゃいいですよね?こんなにいい上司ならきっと世間からも大人気、男子からは憧れの的、女子からもモテモテのはずです。
という訳で、ツイッター内で簡単に人気投票をしてみました。対抗馬は同じラスボス代表でDIO、そして同じ組織から部下のワムウです。

得票数たったの2票。圧倒的最下位ッッッッッ!!!!!!
n数は少なめですけど、予測と大体同じだったので、多分世間的にもこんなもんかと思います。逆に投票した2人にどこが好きなのかめっちゃ聞きたい。

ここまでは完璧なカーズ様。一体何が足りないのだというのでしょうか?

嫌われているというより、最後の考えるのをやめたシーン以外あんまり印象に残らないんですよね。

まずは、戦闘力。仕事に置き換えれば営業力とか「短期的な業績達成力」とでもいいましょうか。ワムウとジョセフの戦いが2部のピークで、それに比べて戦い方が、なんというか、あの、言葉を選ばずに言えばしょぼいです。
ワムウが破れたあと、カーズ様は約束通りリサリサと1対1で決闘……と見せかけて、実は戦わせていたのは影武者。本物はリサリサを後ろから斬りつけます。その後いい放ったセリフがこちらです。(※ここからバンダナ取ります。)

画像9

画像10

少年ジャンプ的には全く人気が出なさそうな思想ですが、個人的には社会人13年目の今見れば、このシーンはむしろ感心しました。いや、そりゃそうだよなと。ワムウもいない今、1対1の決闘の約束を守る必要は一切ない。カーズ様の意思決定基準からして合理的な判断です。そしてこっちがカーズ様の素であるなら、あんなに価値観の違うワムウの意思を尊重できていたことは、改めてすごいなと。

カーズ様はこのあとワムウとの戦闘で疲れ切っているジョセフに割とあっさり負けますが、落下して岩に刺さった先にたまたまエイジェの赤石が落ちてたから究極の生命体になれたというラッキーパンチ感です。
「あれ、ワムウの方が強かったのでは?」という印象を与えましたが、これもマネジャーは本来は自分自身が手を動かすことが仕事ではなく、部下を通して高い仕事をすることが役割なのでOKと思っています。自分で実務を丸々やるときは、基本的には組織の人手が足りないなどの緊急事態でしょう。(何せ全員やられてしまったので……)


それよりももう1つ、カーズ様に足りないなと思ったこと……


私は「信念の見えにくさ」だと思っています。

仕事の基準の話ではなく、その人自身の信じているものです。
その人の生き様、その人らしさとでも言えばいいのでしょうか。

漫画風にいえば、ややキャラクターが弱い。
現代風にいえば、エモさが足りない。

1部・3部のラスボスであるDIOはカーズ様と違って、マネジメントはド下手くそ……というか、する気も1mmもありません。部下を絶対服従させる宗教もしくは恐怖政治、心理的安全性はゼロです。部下同士は誰もお互いに信頼しあっていないし、全員がDIO直轄なので組織ですらない。
しかし、DIOにカリスマ性がある。純粋な戦闘力の高さに加えて、過去から続く因縁があり、彼なりの信念や誇りも見える。そこが魅力となって人気も高いです。

カーズ様は「種として究極の生命体なること」にあれだけこだわっていたけれど、その背景が見えづらかった。(もしかしたら見えないところで部下には語っていたのかもしれませんが)

カーズ様の過去は闇の一族の説明のときにチラっとだけ触れられましたが、
自分の一族を殺してまで「種として強くなる」ことにこだわったのは何故なのか……。
ましてや「石仮面を作った」ってこれもうめちゃくちゃすごいことです。
吸血鬼を生み出す仮面を作るってどんな才能ですか。石仮面なかったらDIOも誕生してないし、実はカーズ様こそがジョジョの奇妙な冒険の生みの親。カーズ様がいなかったら、すべての冒険が一切スタートせずに終了です。
そんなすごい「石仮面」なんてもの、どうやって作れたんだろう?なぜ作ったのだろう?そういうカーズ様の使命・運命みたいなものを、私はもっと感じ取りたい。

めちゃくちゃ頭もよくて戦略家で、組織マネジメントもうまかった。
だけどその中に、カーズ様の本当の才能は生かされていたのだろうか?
カーズ様らしさは出せていたのだろうか?


2部では営業部長(それもプレイングマネジャー)的な立ち回りだったカーズ様ですが、本当はCTOとか、もっといえばマッドサイエンティストみたいな、自分自身が美しいと思う技術研究を積み重ねる方が向いていたのでないかとも思うのです。気質は理論で積み上げるエンジニアだなと思いました。

DIOがCEO、カーズがCTO(COOでもいいかもしれない)、ワムウが営業部長みたいな組織が一番最強なんじゃないでしょうか。思想的にありえないですけど……


最終的にカーズ様はジョセフに敗れて宇宙空間をさまよいますが、敗北してもワムウは自分の一生に一切後悔はしなかったけれど、カーズ様はかなり後悔したんじゃないかという気がするんです。

持ち前の「戦略性」と「人材育成力」でワムウのことは最大限に生かしていたカーズ様でしたが、カーズ様が自身が、自分のことを最大限に生かせていたとは思えなかった。
個人的にはもっともっと、剥き出しのカーズ様みたいなものも見たかった。


その状態はまだ、究極に心理的安全性が高まっている状態とは言えないのではないでしょうか。

心理的安全性とは「全員が」ありのままの自分でいられると思える状態。つまりはそこには、マネジャー自身も含まれます。
マネジャー1人が苦しんで自分らしさを押し殺している組織もまた、健全ではないのです。

ものすごく難しいことなのは100も承知です。
戦略的にテーマを設定して、部下のことを考えながら、マネジャー自身の自分らしさも発揮する……
カーズ様のマネジメントを見る限り、前者2つでも十分「いいマネジメント」だと思っています。上にも下にも気を使わなければならず、目の前でやらなければならないこともたくさんある。そんな制約条件や複雑な現実の中で、3つめのことを考えている余裕までない方がほとんどだと思っています。

ですが、これらのすべてが重なって、マネジャーも部下も全員が最高の力を発揮しているような奇跡の瞬間……それが「心理的安全性」も「仕事の基準」も高い組織の最高峰、「学習」する組織の本当のフロー状態なのではないでしょうか。
そんな組織になったときには、あとからもずっと振り返るような、最高に思い出深い仕事ができるのではないかと思っています。これ以上に、マネジャー冥利に尽きることはありません。

何かが上手く噛み合わないときは、過去から振り返って「自分らしさとは何か」「今の仕事・組織で成し遂げたいことは何か」を、真っ直ぐに考えてみる時間を取ってみてもいいのかもしれません。

まとめ

繰り返しになりますが、最後に改めて今回の要約をまとめます。

▶︎組織の「心理的安全性」「責任(仕事の基準)」がいずれも高いとき、全員のパフォーマンスが最も高い「学習」状態となる
▶︎「学習」状態をつくるためにマネジャーができることは以下
① 組織の「テーマ(方針)」を明確に示す
② テーマの中で、部下にちょうどいい自由度で任せる
③ さらに、そこに自分自身の信念、自分らしさを反映させる ←New!!

ちなみに①のテーマ、カーズ様は数千年変えてなかったみたいですが、現実だと飽きられる&その時の現実と乖離するので、1年くらいの周期で見直すのが良いと思います。

①〜③の目線で、いろんな漫画や映画作品を観てみるのもなかなか面白いです。
同じジョジョの中でも、「①・②はできるけど③が弱かったカーズ様」とは真逆に「③はめちゃくちゃ強いけど①・②がド下手くそ」なのが空条承太郎(ある意味DIOと同類)。
全部できてしまうスーパー上司が5部のブチャラティ、あと3部のジョセフも組織のリーダーとして見るなら①〜③はかなりバランス良く出来ていたと思います。さすが経営者(不動産王)です。

この辺りもいつか書きたい気もしつつ、今回で自分が全くできないことを棚に上げて書くことは想像以上に神経が削られることが判明したので、今現在の気持ちとしては全く書きたくありません。が、本業で組織活性化的な仕事をしていることもあり、自分の学びをこうして纏めて言語化することはきっと価値があると……信じたい……ですね。

マネジメントについて話すことはきっと勇気がいりますし、他の人のマネジメントを詳細に見る機会もなく、マネジャー同士で話すことも少ないのではないでしょうか。
私が書いたことも、当然ながら絶対の正解ではないです。ただこういう話をきっかけに「自分はこうかもな」と振り返るきっかけになったり、自分が部下の立場だったときの上司のことを思い出してみて、何か少しでも気づくことがあったり励みになることがあればいいなと、願っております。

まあアレです、ぜひジョジョ観てみてください。キャラクターがしっかり作られているので、人間を考えるのに面白いですよ。

▼今もカーズ様は、宇宙空間をさまよっているのだろうか。

画像11

記事はこちらで全文となりますが、もしお気持ちがございましたらぜひ記事購入ください〜!(この先に続きはなく、投げ銭用です!)

▼課題解決を学ぶにはこちら

ここから先は

0字

¥ 300

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?