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借金発覚 第15話「十四年間失踪していた三男との再会」


0〜14話までのあらすじ

五十二歳で大手生保を早期退職した父は、退職金を元手に怪しい投資ビジネスを開始するが、一年も経たないうちに退職金は蒸発。一家は郊外に引っ越し貧乏生活を始め、十八年が流れる。そんなある日、実家に同居している次女が父の借金を発見し、兄弟たちで大騒ぎに。兄弟たちは証拠を持って父に詰め寄り、ついに父は借金の存在を認めるのだが、父は自己破産をすることを拒否。「もうすぐ大金が入るから時間をくれ」と主張する。しかし、入金期限は相変わらず伸びてばかり。そして、十四年間失踪していた三男が見つかり、兄弟たちと再会する日がやってきた・・


主な登場人物

父・・・大手生保の営業マンだったが、五十二歳で早期退職。
母・・・農家出身で看護師。メンタルが弱い。
長男・・・五人兄弟の長子。既婚。地方都市に住む。
次男・・・五人兄弟の二番目。既婚。本書の主人公。
長女・・・五人兄弟の三番目。既婚。
三男・・・五人兄弟の四番目。独身の一人暮らし。
次女・・・五人兄弟の五番目。独身。父母と唯一同居。

三男との再会

三男との再会がかなったのは、それから二週間ほど後のことだった。土日が仕事とのことだったので、水曜日の午後五時に長男を除いた兄弟四人で、三男の家から最も近い僕の家に集まることになった。

この日、僕は仕事を早引きして帰宅した。十四年ぶりの三男との再会を前に、気持ちが落ち着かない。

次女から「三男と駅についた」と連絡が入ったのは、夕方五時半ごろだった。車を走らせ、最寄りの駅に向かった。

駅のターミナルに入ると、パン屋の前に次女と背の高い青年が一緒に立っている。三男だった。
車を止めてドアを開くと二人が車に乗り込んできた。
お邪魔しまーす
十四年ぶりに聞く三男の第一声は、感動の再会とは程遠い、軽いものだった。それでも、僕の胸は興奮で高鳴った。
久しぶりだなあ。痩せたか?
三男は以前かけていなかったメガネをかけていて、精悍とした顔立ちになっていた。
久しぶりですね。あれ、ちょっと老けましたか?
何言ってる。最後に会ったのは十四年前だぞ。こっちはもう四十過ぎのおじさん
え? 六年くらい前に会いませんでしたか?
会ってねーよ

背負っていたリュックサックを下ろしながら後部座席に座った三男は、敬語を使いながらとぼけた口調で話し始める。
なんで敬語を使うんだよ
覚えてないんですか? 私はずっと家族にも敬語だったじゃないですか
そうだっけか
昔は、妹の私だけにはタメ口だったけど、再会したら私にも敬語になってたの
そう、この不思議な距離感が三男の特徴だった。人との距離感がちょっとずれているのだ。

***

失踪してからの三男の足取り

ちょっと驚いたのは、以前よりもおしゃべりになっていることだった。
なんか、ちょっと前よりも性格明るくなったか?
ずっと接客の仕事やってるんで、人と会話するのは慣れたかもしれません
接客?
そうです

僕が最後に知っていた三男の足取りは、コンビニのバイト先で彼女に出会い、同棲するために家を飛び出したところまでだったが、三男と話しながら、行方不明後の足取りが分かってきた。

三男は彼女の家に住み始めると、すぐにマンパワーに登録して、そこからの紹介で携帯電話会社の入力センターで働き始めた。
給料は良かったんですけど、朝から晩まで契約情報の入力作業だけひたすらやらされて、頭がおかしくなりそうになりまして
結局契約センターは数年で終了。

その後三男は、郊外の家電量販店で接客の仕事を始めた。一年契約の契約社員で、配属されたのはデジタルカメラの売り場。カメラは素人だったものの、独学で勉強を始め、様々な知識を吸収し、販売員として普通に働いていたらしい。
結構自己投資もしましたよ。二百万くらい使いましたね。ボディも七つくらい買い揃えて、レンズも色々と集めましたから
何を撮っているのか聞いたところ、家電量販店の仕事のほか、有名ブランドのネットショップの仕事もしていて、掲載用の商品写真を主に撮っていたらしい。
あとは山ですね。ほら、私山岳部だったじゃないですか
そういえばそうだった。高校生の頃、三男は山岳部入っていた。
でも結局契約は五年で切られてしまいまして、また就職活動して今のところで働きはじめました。給料安いけど、正社員です。また接客ですけど
え、職場どこなの?
いや、それは言えません
何売ってるの
それも秘密です
はあ? いいじゃん、教えてよ。別に職場行かないよ。町の名前だけでもいいから
仕方ありませんね、町の名前だけ教えてあげます。xxです
ええっ!?」 

驚いたことに、三男から聞いた町の名前は、我が家からそれほど遠くない、毎年数回は通り過ぎる町の名前だった。何ということか、十四年行方不明だった三男は我が家の比較的近くに住んでいたのだ! 灯台下暗しとはまさにこのことだ。
結局、仕事先も、スーパーで働いていることまでは教えてくれた。

***

失踪理由

でもさ、なんで全然連絡よこさなかったんだよ
僕は一気に失踪の核心に迫ってみた。
結構大変だったんですよ。こっちはこっちで。同棲してた彼女がパニック症候群で、しょっちゅうリストカットしたり、家中の食器を割る、みたいなことを繰り返しちゃって。家族に連絡する余裕とかはあんまりなかったですね

三男の説明よると、同棲していた彼女は、育児放棄気味の親に育てられた影響で、精神が常に不安定で、極度の人依存の側面もあったという。
愛情不足が原因ではないかと思うが、三男が仕事に出るのも嫌がっていたというから、なかなかの重症であろう。
私がいないときはしょっちゅう浮気もされましたし、とにかく大変でした
ただ、その大変だった彼女とは七年同棲生活を送った後別れて、今は交流はないようだった。

三男はどうもその前後くらいに、実家を訪問したらしいのだが、実家は近くの賃貸アパートに引っ越した後だったため、誰もそこに住んでいなかった。

家の電話番号や家族のメールアドレスなどを何も知らない、ということろが三男らしい点ではあると思うが、こうして三男は家族から完全に断絶してしまったのだった。

***

今すぐ父の動きを封殺しなければなりません

僕の自宅に到着すると、待っていた僕の家族と長女とその家族との初対面が待っていた。僕の妻以外は初対面だ。
どうも、初めまして
長女の旦那が挨拶する。失踪後に結婚したため、三男は結婚式には当然だが参加していない。僕の子供たちも挨拶したが、初対面の叔父にどう接したら良いのか戸惑っているようだった。

一時間ほど食事をしながら話をした後、長男を除く兄弟四人で別の部屋に移動し、本題に入った。今までの経緯と現状、そして今後の対応についてざっと説明する。怪しいビジネスについても、詐欺グループに騙されている可能性が非常に高いことを伝えた。

三男の口から出てきたのは驚きと怒り、そして極端な意見だった。
えっと、これは驚きです。父ってこんな人でしたっけ? 借りたものを返さないなんて、人として最低ですね。父のビジネスについても、これが本当なら、今すぐ父の動きを封殺しなければなりませんね
ふ、封殺って、どうやって封殺するんだよ。縄で縛り上げるのかよ
いや、腕でガシッと・・・
もはやどこまで本気なのか分からない。

それと、貯金があるっていう話は絶対に父ちゃんには秘密な。絶対に貸してくれって言ってくるぞ
僕は三男に念を押した。しかし、三男はお金を出す意思を表した。
でも、借金を踏み倒すのは抵抗があるなあ。私は家族もいないし、必要があれば出しますよ

とにかく、兄弟全員で実家に行って、もう一度話し合う場を持ちたい
僕がそう提案すると、長女が次女がワンクッション入れる提案をした。

でも、この話し合いの前に、お父さんお母さんと再会する時間が必要なんじゃないの。お母さん、毎回三男の話をするとき泣いてたよ
え、そうなの
親の心子知らず、とはこのことだろう。しかし、自分のことを心配していたと聞いた三男はなんだか嬉しそうだった。

じゃあ、第一部と第二部に分けるか。第一部は感動の再会、第二部はヘビーな話し合い。この二つを同じ日にやるか、別の日に分けるかは調整が必要だな。三男、休みいつなの?
スーパーなので、土日は仕事です。私の休みは毎週水曜日だけ。シフトの調整すれば、金曜日は調整できるかもしれません
じゃあ、父ちゃん側と日程調整をしよう
僕は父と連絡を取るのが嫌になってしまっているので、長女が父と調整することになった。

16話につづく

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