「頭にガソリンをかけて火をつけたけど殺意はない!」ってどういうこと?裁判員裁判ガチ傍聴! 傍聴小景 #126-中編(殺人未遂)
有罪か否かというのは検察官に立証責任があるので当然ではあるのですが、まず有罪である主張を検察官が行います。
もちろん裁判にもよるんですが、この先に主張をすることで、後で弁護人や被告人が主張したときに「どっちかなぁ」でなく、「でも検察官はこう言ってたしなぁ」という感情になることがあるのです。
特に争点がある裁判だと、情報は先に出すのがいいのか、後に出して先に出た情報をつついていくのがいいかわかりませんが、そんな感情にさせられた話です。
本記事は前中後編の中編記事です。前編をお読みでない方はこちらからどうぞ。
今回は被害者による証人尋問です。
本当は今回で被告人質問と判決まで書こうと思ったのですが、さすがにボリューミー過ぎたので分けることにしました。もうほぼ書けてるので、残りはすぐアップします。
前回は、自身も刑事処罰を受ける可能性がありながらも、涙ながらに共犯状況を証言したA。検察側証人でありますので、より殺意の認定について作用していると感じますし、一方で弁護側の質問に対しては、そう不自然な回答はなかったように思えます。
被害者の尋問によって、殺意の有無についてどう印象付けられるかが、今後の被告人質問にも作用されそうです。
証人(被害者)尋問・検察側 ~「むしろもっと酷いことになるかと…」~
序盤は傍聴できなかったのですが、どうやらどういう風に出会って、被害者が被告人に暴力を奮う経緯を話していたっぽい。逆に被告人からも「会わないと殺す」などと付きまとわれていたものの(真偽不明)、自身も手を出していることからあんま強く出れない様子。
被害者はB(被告人とAが「被害者を殺そう」とかいう謎動画を送った相手)と一緒に住んでいたものの、被告人の接触が激しいために離れてシェアハウスに住むことに。
会っても、酒飲んで手を出して、と泥沼化の一方なので、先に距離を置くなど手を打ちたくなるほど、被害者の付きまといに精神的にダメージを受け始めていた様子。
その後、被告人と会って話した際に、これまでに発生したケガの治療費を払うか、10万円の示談金を支払うか迫られた被害者。
しかし、「治療に付き添う」、「1回セックスしろ」など条件がどんどん増えることに、いつまでも終わることはないのだろうという思いになってしまう被害者。灯油や硫酸の写真とともに「殺すぞ」とメッセージが送られることも。
警察に相談したものの、治療費の問題があるから、弁護士を通して行うようにと言われ、手は打ってもらえなかった。
しかし、いざ示談するとなった際に、当初は「月に一度他の友人も入れて一緒に飲む」という条件だけだったのが、「今すぐ飲もう」「家に入れろ」「性行為しろ」など要求が日に日に変わり、気持ちは地獄のようだったと語る被害者。
その後、性交に応じ、翌々日に示談書を交わすことになる。文面は双方で確認し、被害者依頼の行政書士に最終作成してもらった。
被告人には口頭で「今後も会ってくれないと示談しない」と言われ、それには「はい」と答えたが文面には特に要求もなかったので盛り込まなかった。示談金は37万円支払った。
酒を飲むと暴れるのわかってて、案の定暴れてしまう被害者にもなんとも言えない気になりますが、それだけ被告人の粘着がしつこかったということにしておきましょうか。
その後、実家に帰って、家族に相談して警察に警告文書を発布してもらうことに。しかしそれでも被告人が名を変えたと思われるSNSから連絡が来たり、なんと親の勤務先にも被告人らしき人物が連絡を入れるなどしたよう。粘着もすごいですが、どうやってそんなに調べるのか…。
東京からわざわざ実家の関西に移ったのに、道端で遭遇することが数度。実家を出て、関西で知人宅に住むようになりますが、その家にも誰かが侵入した形跡が残っていたとのこと。
事件前、半年くらいは常に前後左右を見ながら行動するような神経をすり減らす生活を過ごしていました。
ここから事件当日の話。
変装をしていた人物を被告人だと気付かず、でも一連の関係者であろうと問い詰めることに。
被告人に無言ながら誘導されるように、事件現場の駐車場へ。そこからぐるりと駐車場を追いかけっこするようになり、
確かに、いきなり何か液体をかけられたら思考を停止させていしまいそうです。ガソリンだと明確にわかっていたら、その後の着火に備えて逃げるとかもありえますが、突然のことと目にも入っていたっぽいので、そう簡単にいくものでもないのでしょう。
着火された後は、助けを求めながらその場を離れ、燃えていたダウンを脱いで、熱い部分を叩いたり、押さえたりすることで鎮火に努めます。
後頭部、左耳に火傷を負い、事件から1年経った現在でも痛みは出るとのこと。起きたことを忘れる日はないと思う一方で、「むしろ、もっと酷い結果になると思ってた」「いつか何かされると思ったから意外性はなかった」などとも語り、過去から現在にかけてなおも苦しめられていることがわかります。
証人(被害者)尋問・弁護側 ~かけられ続けたのか、ちょっとかけられたのか~
続いて弁護側の尋問。検察官とのやりとりに特段不自然な点は見られなかったと思うので、弁護側としては、後の被告人質問に向けて、何かしらの布石は打っておきたいところ。
まずは、被害者が被告人に対して暴力を奮う際は必ず酒が伴っていた点、他の人物にはあまり暴力を奮うことはないことなどが証言されます。
被告人とは飲めば高確率で暴力を奮うのに、他の人にはそんなにというのは、よっぽど被告人と相性が悪いのか、被害者が嘘をついているのか。
被害者の暴力の態様が酷過ぎて、警察署内で一晩過ごしたこともある様子。でも当時は酔っ払ってて、どうして鉄格子の中にいるのかわからなかったのだという。どんだけ、酒癖が悪いんだ。
また、被告人のことを、殴る、ビンタする、「殺したる」「燃やす」などと言っているのではという話に。それについて被害者は「殺す」に関しては言った記憶があるらしい。
どうやら示談について、被告人が納得していたものなのか、一つ問題にしたい様子。金額は本当に合意していたのか、被害の範囲はその通りなのかなどなど。
この後の被告人質問を聞かなければその辺りはわかりませんが、とはいえ被告人自身はこの示談契約にどこまで拘っていたかはわからず、被害者を縛り付ける何かしらのきっかけがあればよかったのではとも感じたり。
被害者に心情を悪く持たせたいのはわかりますが、被告人が行っているとされていることが、それではぶれないくらい悪いことなので、なかなか心が揺れません。
その示談絡みを反故にされたから犯行したって図式を感じないんです。もちろん度重なる暴力の恨みが溜まり溜まってと見ることもできますが、自分で首突っ込んでる結果とも思えるし。
メール一つで「殺すぞ」だったら、まぁ変な人なのかなくらいですが、硫酸の画像送られてきたり、多数のつきまといがあったりが重なっての感情。そら恐いわなと思います。
続いて事件当日の話。
事件は朝8時ですが、その日は飲みの帰りだという被害者。どんだけ飲むのが好きなんだ。もう僕もめっきりお酒は弱くなっちゃって…。
それだけ酔っているのであれば記憶はどうなのかなと弁護人もつつくのですが、仕事にその後に行く予定があったので、記憶は問題なかったとのこと。
何者かわからない、何をするか分からない相手を追いかけて、その相手が急に振り返って対面してきたら、どんな動作でかけたのかがわからなくても不自然ではないのかなと。
自分だったらどうするかな?硫酸かもという頭があるので、第二陣を防ぐために距離を置くかなとも思うけど、目にかかって自分の位置関係も判然としないのなら、あんま身動きはとれないかもと思ったり、なにかしら攻撃をしかけるかなと思ったり。でもまぁ、手にカバンとか持ってたら、ぶんぶん振り回しそう。
さて、被害者はどうしたか
かけ続けられたという点を執拗に聞いていた弁護人。
その後、検察官からも「しぶきをかけられた感じか」という問いに「違う、500mlのペットボトルを400位かけ続けられた感じ」と答えます。かけた量というのが一つポイントになっているのかもしれません。
確かに、かける量というのは、それによる被害結果の甚大さに繋がることかと思うので、殺意を否定したい弁護側としては出来るだけ抑えておきたいところ。
ここが弁護側が示したい争点だという布石は打てたように思えます。
さて、この被害者の尋問が後の被告人質問、そして判決にどう影響していくのかという点であります。
本来、一気に書く予定でしたが、量が多くなったので分けました。数日内には必ず書きますので、最終回の更新もお待ちくださいませ。
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