妻の初の出産を前に懲役か執行猶予か?被告人の主張と裁判所の判断(執行猶予取消請求) 傍聴小景#86
今回はタイトルそのまんまです。夫婦で初めての出産を前に裁判に挑むことになった人物の話です。
裁判では「家庭で働いているのは旦那だけです」、「初めての出産なのでとても不安です」などの声を聞くことがあります。本人のみの話であれば自業自得の部分がありますが、それを家族にまで求めるのはやや酷というもの。
そういう環境下で、何を、何故してしまったのか。是非ご覧いただけたらと。
はじめに ~大阪で年に片手で数えられるくらいの事件~
今回は裁判の中でも珍しいものを紹介します。「刑の執行猶予言渡し取消請求事件」とは何か。
なので、今回の場合、裁判にかけられているのは告訴されたわけでないので被告人とは呼ばず、取消請求を受けている「被請求人」と呼ぶのです。
この裁判はすごく珍しい。大阪でも年に片手で数えられるくらいだと思います。
事件の概要 ~ギャンブル依存が故の犯行か?~
今まで紹介していた刑事裁判では、何を問われているか、それにどんな証拠が請求されるかというのが全てオープンになるのですが、この取消請求裁判ではほとんどオープンにされません。
なので、後に行う尋問などを踏まえて、読み解けた範囲でお伝えします。
ってことっぽい。
ギャンブルを辞められないってこと自体は、裁判ではあるあるなのですが、ここから色んな事情が絡んできまして…。
証人尋問 ~検察官の聞きたい点を引き出すテクニック~
出産予定日を翌月に控えている奥さんが証言台に立ちました。
自身の体、そして赤ちゃんのことで精いっぱいのはずなのに、出産時に父親がいないということは避けたい思いが伝わります。
結婚して2年とのこと。被請求人の事後強盗罪の後に出会ったそうです。
注意力や落ち着きが不足しているとされる病気の診断を受けているようです。それがイコール犯罪に繋がったり、許されたりするものではありませんが事件を知るには重要な要素のようです。
今後は、証人の親なども手伝ってみんなで被請求人を見ていくとのこと。仮に執行猶予が取り消される決定がなされていても、離婚などは考えていないそう。
現在夫の給料は30万円ほどで、証人に23万円を渡している。今後は給与明細をもらいながら、証人が細かく管理を徹底することを約束しました。
これから頑張るというはわかるのですが、執行猶予判決を受けていた訳なので、本来であればその時がまさに頑張らなければならない時期だったはず。その辺りを検察官がつつきます。
ここで聞かれているのは、そういう一般的な夜道の外出についてじゃないんだよな。行動を慎まなければいけない立場なので、人一倍行動には気をつけなさいと注意しているかって意味なんだよなぁ。
この辺りをしっかり説明せずに、こういうポイントだけ引き出す質問テクニックうまいよなぁ。
ちなみにどうやら事後強盗事件は、夜0時ごろに起きた事件らしい。つまりは深夜の外出は特に強く止める必要があったという話。証人は被請求人が執行猶予中のことは知っていたものの、それが何時に起きた事件かは知らなかった様子。
なかなか旗色が悪くなってきた気がします。
本人尋問 ~示談金の受け取り拒否の理由に涙~
では本人の言い分を聞いてみます。
病気の話を出したから言う訳じゃないですが、見た目はいたって普通の青年。少し説明が回りくどかったり、緊張から話があっちこっち行きがちだけど全然許容範囲。どうやら過去には学校の先生をしていたようです。
歩数計アプリは僕も入れているんですよね。同じやつかな(*’ω’*)?
寝つけなかったから少しを外で気を紛らわせたいというのは分かりますが、僕はせいぜい徒歩でコンビニに行くくらいなんですよね。確かに車でドライブという人も聞きますが、どこかを当てもなく走ったり、どこかに停めてまったりしたりとか?そこから深夜の知らない町を散歩するっていうのは、ちょっと特殊な気がします。
その後、周囲が暗い中、ずんずん進んで行ったら、今回問題とされている家の敷地に入ってしまったらしく、家の人から「ドロボー」と叫ばれてしまったようです。
パニックになったら、まず警察だとは思うんですがね…。
つまりは弁護側の主張としては、とにかく夜の散歩をしていただけで、窃盗などの目的があったわけではない。泥棒と言われて反射的に逃げてしまっただけということですね。
個人の感情としては納得できないですが、1000人いたら実際にこういう人もいるんだろうなくらいの感覚は持っています。ただ彼の場合はそれまでの背景があるから、どう考えても軽率だし、疑われてしまう身だと思いますが。
なんて、えぇ人なんや…( ;∀;)
うーん、ものすごく依存度高くギャンブルしていたわけではなさそうだけど、しっかりやってはいたようだね。普通だったら、お小遣いの範囲内でね、と言えば済むのですが、保護観察中ですからね。
その辺りの突っ込みは検察官に委ねることにします。
検察官としては、保護士としての面談に真摯に対応しておらず、大きく負けるほどギャンブルに熱中しており、金銭的に不安定な部分はあったのだろうと。
ちなみに「ギャンブル場に近付かない」ってことに対して、「説明を受けていない」と主張するのは、まぁ好きにしたらいいと思うんですが、
前の弁護士からの質問で「購入はインターネットで」と言っているのって、「ギャンブル場に近付いてはいない」って意思表示だと思うんですよね。なので、「説明を受けていない」って主張はややちぐはぐしていないかなと思ったり。
その後は敷地に入ったときの状況について。
まずは車を走らせ、山道のある駐車場に停め、そこから30分ほど歩き続けたとのこと。
窃盗の意思があったかは、検察官の尋問や証拠などでは100%絶対とは言えるものはなかったと思います。でも、100%絶対怪しい人と思われて然るべき行動はしています。
前科という情報があるなしでは、大きな差が生まれていまうのがよくわかります。
その後、検察官からは遵守事項(最終的に明確に何かはわからず)を守っておらず、情状が悪質な点。収入の過少申告や、前科が深夜の事件なのに、またもたいした理由なく出歩き、かつ繰り返しギャンブルをしていることから自力での更生意識は薄いと指摘。
弁護人は、ギャンブル依存について保護士から指示を受けた事実もなく、子も産まれ、自身の病気と向き合う中で更生の意識は高いとして請求の退けを要求しました。
決定とその後
その後、少し時間を置いて、裁判官は被請求人の執行猶予の取消を決めました。その後、懲役3年の刑が確定したようです。
擁護しきれるものではないと分かっているのですが、やはり厳しいという感情を持つには持ってしまいます。本人というより、これから3年父に抱かれない子が不憫でなりません。
また、そこから数週間後、今度はその「住居侵入」についての刑事裁判も行われました。
こちらも窃盗の意思などなく、ただ侵入してしまっただけと、弁護側は罰金刑を求めたのですが、懲役8月が言い渡されてしまい、さらに家族との距離が離されてしまいました。
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毎月約100件の裁判を傍聴している中から、特に印象深かったもの、読者の方に有意義と思われるもの、面白かったものを紹介します。 裁判のことを…
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