世襲と世襲制度
「世襲は歌舞伎役者や落語家みたいに世襲になりました、成立しますというのではない。皆さんが当選させて初めて世襲は成立する。これは有権者の皆さんの判断だと思う」 小泉進次郎さんが2009年衆院選に初当選した時の「世襲」に対するコメントだ。
6月4日TBSサンデーモーニングで、元外務事務次官の藪中三十二さんがかみついた。「歌舞伎役者とか落語家はものすごく稽古しなきゃいけない。党の候補にどうやってなるかという時に、候補者の親の力、それで世襲ができる。ちゃんとその人の資質をチェックしていない」
そうだろうか。
政治「家業」の世襲は制度化されたものではないはずだ。二代目、三代目であろうが政治家業を継ぐ者の資質は、最終的には選挙という試験でそれを問われる。失礼ながら岸田文雄総理大臣の長男が仮に次の選挙に立候補したとしても、公認を得るのも選挙で選ばれるのもむずかしいだろう。
「家業」や「職」を世襲で継ぐのは歌舞伎役者や落語家だけではない。自営業や宗教主を営む者、最近では芸能人や作家などの子弟に多くみられる。子には親の形質が3:1で現れるというメンデルの遺伝の法則からみても、理にかなっていることなのだ。しかも、地盤・看板・カバンというインフラが利用できる。世襲は効率的なのである。しかし、その能力、資質は人気や利益という評価でチェックされ、政治家同様、制度化されたものではない。
一方、世襲に制度を設けているのが天皇という「家業」である。
日本では長い間、血縁を絶やさずに継続させてきた天皇制。その継承は皇室典範で「皇位は皇統に属する男系の男子のみがこれを継承する」と規定されている。
時代にそぐわない、将来には継承候補者がいなくなるのではとの危機感がある反面、女性天皇はよいが女系はだめだなどと、世襲を「血」にこだわる見方もある。
5年前、今上上皇は高齢を理由に天皇を自ら退位された。終身勤めなければならないとされてきた「血」の役目を一歩踏み出した。「国民の象徴」としての天皇は「職」であると意思表示したともいえる。「職」であれば「血」にこだわる必要はない。
良い機会ではないか。だれも「恐れ多くて」変えられない天皇の世襲制を「職」として捉える理由づけができた。「職」の世襲であれば、性を問うことはない。その資質を問えばよいだけだ。
自民党やその他の政党の世襲議員さんは自分を振り返り、天皇選びにきちんと答えを出してほしい。「家業」「職」の世襲は制度ではないのはわかっているはずだ。