見出し画像

水深800メートルのシューベルト|第583話

「小さい時に会っているんです。彼女、前にアパートに行った時、顔に傷がありました。昔、彼女に初めて会った時も……、僕のパパかモニカおばさんに……。きっと、逃げ出したかっただけなんです。だから……、僕が持ち歩いていた……拳銃を盗んで……」(と僕は言った。)


「おい、こいつは何も知らないうちに銃を盗まれて、その後も、何も知らないうちに殺害現場に立ち会っただけなんだぜ」
 ナージフさんは、庇おうとしてくれたのか、僕が道すがら話した内容を説明しようとした。


「あんたは黙っていてくれ」
 弁護士は、頭を小さく振った。
「問題は……、陪審員がどう思うかだ。しかし、こんなギャングの使い走りのような奴が、大それた事件を起こすとは思われないかもしれん……ううん……そうだ……いやそれでは……」
 彼の目は閉じたかと思うと、急に開いて上の方を見るといったように、せわしなく動いていた。

     第582話へ戻る 第584話へつづく

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?