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水深800メートルのシューベルト|第590話

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 闇にライトアップされたひび割れたコンクリート造りの病院が見えてきた。僕がタクシーを降りると、入り口近くで紺の制服姿の警官とスーツ姿の男が立っていた。スーツの男は、ERと書かれたガラス戸の前で、憎々しげに僕を見つめていた。口髭の手入れをしていないが、昼間のパディソンで間違いなかった。


「お前のせいで……。いや……、早く行け。案内してやれ」
 病院内のストレッチャーや酸素ボンベ、赤い救急カートの間を抜け、緑や赤の手術の時に着るような半袖シャツの服装の人たちにぶつかりそうになりながら、僕は見知らぬ警官に引っ張られるようにして、お婆ちゃんの部屋を目指した。

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