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月イチ純文学風掌編小説第六回 「JACKPOTに届かない」後編

はじめに

こんにちは。吉村うにうにです。普段はエンタメ系の小説を書いております。たまには純文学っぽいものを書くかと、こちらの企画を始めました。今回六回目となりました。きっかけはこちら

純文学って? よくわかっておりませんが、とりあえずマイルールを作って縛りました。今回はこれ

①文章の美しさを意識する(少しでも。これはエンタメ小説にも生きるはず)。文章が美しくなるなら、主語を省略して、誰の台詞かという分かりやすささえ犠牲にする。
②オチ、ストーリー展開を気にしない(してもいい)。意味分からないことも多いでしょうがゴメンナサイ、解説何処かで入れるかもです。入れたら無粋かな?
③心理描写を(できるだけ)書かずに、風景や行動で伝えようとする(これは作家さんによります。太宰治さんなんかは心理描写しっかり書いているようですが、川端康成さんはあまり書かないように見えます。)
④会話文の終わりに〇をつける。
いつものルールにつけ加えて
⑤副詞を多めに使う。今回は、いつもはおざなりになっている副詞をちょっと多めに使い、文章の情感を伝わるようにしたいと考えています。

今月の掌編は「JACKPOTに届かない」の後編です。前編はこちら

それでは、前回の続きです。どうぞ

 あまりにも動かない視線を意識して、ついにコインの投入を一時中断した。黒髪が目の端で大きくなるのを確認し、彼は笑顔で首をやや大きく捻った。
 そこに映るのは黒目がちの少女だった。宇似と目が合ったが、何も言わず、射すくめるような目で見つめている。不安が洩れないように口を真一文字に結び、まるで宇似から何か仕掛けられるのをじっと待ち受けているようだった。
 彼女の手は、宇似のカウンターチェアの背もたれにそっと触れていた。彼は少女が財布もポーチも持っていないことに気づく。それを心に留め、一瞬鋭くなった目を緩めて話しかける。
「メダルゲームを見てたの?」
 少女は小さく「うん」と頷く。しかし、その瞳からは、好奇心を見てとれず、彼の顔は険しくなる。
「やってみる?」
 カップから三枚のメダルを取り出してみせるが、彼女は一向に手を伸ばそうとしない。彼は眉をしかめるが、すぐに口元に笑みを浮かべる。
「お母さんと来たの?」
「うん」
「お母さんはどこかな?」
「あっち」
 少女の指した先は、金属音が行進曲のざわめきに混じって溶け合う壁の向こうの世界だった。
「パチンコかな? いつも、ここにお母さんと来ているの?」
 声に丸みを帯びさせようと努力する。
「うん、いつも」
 少女は目に少し安堵したような色を浮かべる。それでも、前でギュッと組み合わされた手や微かにプルプルと震える肩先は、宇似の瞳を潤ませる。
「いつも、ずっとここで待っているの?」
 思わず怒気を込めた彼の言い方に、彼女はびくっと顔を動かす。兎のように怯えた目を見て、彼ははっと口に手をやる。
 数秒の間口をつぐみ、小さく首を横に振った。そして、再び丸みを帯びた声を出した。
「い、いや、君に怒ったんじゃないよ。ねえ、もしかして、お母さんって、君を叩いたりするのかな?」
 そう言いながら、少女の腕は足先の衣類から露出している肌を注意深く観察する。所々浅黒く変色しているように見えるが、それは痣なのか皮膚病なのか判然としない。
「時々……」
 その答えに、宇似はある決意を胸にする。
「ねえ、もし、お母さんがずっと帰ってこなかったら……」
 それを口にした瞬間、金と黒の入り混じった髪の若い女性が、隣の店からずかずかと入って来た。彼女は憤然とした様子でゲームセンターを見渡して、彼と話をしていた少女を見つけると、すたすたと駆け寄った。宇似をまるで、娘を拐そうとする人間であるかのように鋭い目で睨み、彼に何かを言う隙を与えないほど手早く少女の腕を掴み、半ば引き摺るように連れ去った。
                   (了)

書いてみて

 いや、副詞はちょい意識しましたが、今のところはいつもの文体とそれほど違わないような。他には、主語を減らすように意識しました。

最後に

次回の方向性は未定です。ただ、自動書記にチャレンジしようかな、なんて考えておりますが、どうなることやら。
ここまでおつき合い下さり、ありがとうございました。

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