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カンヌライオンズを効果的にインプット|How to Deconstruct

カンヌライオンズの事例紹介を見て「良いアイデアだなぁ」と感銘を受けるだけではインプットになりません。なぜ良いと思ったのかを言語化し、腹落ちさせてはじめて、栄養として吸収されていきます。

言語化する手法として、筆者流のDeconstruct(脱構築)を紹介します。
解決したかった課題や目的は何か、ターゲットは誰か、バリアやインサイトは何か、といった具合に徹底的に因数分解し、クライアントブリーフからアイデアまでの道筋を再現して再構築してみる方法です。そうすることによりアイデアを考える筋肉が鍛えられますし、アイデアを見る目が養われます。また、アイデアの本質が吸収されるのでいずれ再利用することもできます。


脱構築の項目と順番は下記の通りです。最初から順番に話していくと、施策の流れをスムーズに説明することができます。

Brand「アイデアの話主」
Target「アイデアの対象者」
Objective「Brandの"現状の問題"→"目指したい理想"」
Barrier「"現状の問題"の原因となる、Targetが持つ"認識"」
Insight「Barrierの奥に潜む、Targetの根源的な欲求」
Thought Starter「アイデアの種となる着眼点」
Execution「アイデア(具体的な表現方法)」
Transformation「このアイデアがターゲットの価値観をどう変えるか、その結果Objectiveを達成できるか」



では、各項目を説明します。

Brand

アイデアの話主を示します。
そもそも誰がなぜこの施策をやっているのか重要なパートです。ここがあやふやなままだと、後半で文脈が噛み合わなくなることがあります。ブランドのパーパスやミッションも意識します。

Target

アイデアの対象者を示します。
ここがブレると他の項目がバラバラになってしまうのでしっかり見極めます。このあとのBarrierとInsightは必ずTargetが主語になるようにします。

Objective

Brandの現状の問題→目指したい理想を示します。
何のために行う施策なのか、入口と出口をクリアに設定することで、この後の項目が考えやすくなります。ですので手法は含まず、目的だけにすることがポイントです

ブランドとして「売りたい、認知を高めたい」などマーケティングの課題解決が目的の場合と、パーパス戦略のような「〇〇の問題を解決したい(それによってブランドエンゲージメントを高めたい)」と言った社会課題の解決が目的の場合もあります。IdeaがどちらをObjectiveとしているかを見極めます。

ここまでがクライアントブリーフに当たる情報です。ここまで前段として情報整理しましょう。ここから少しずつ掘り下げていきます。

Barrier

Objectiveの現状の問題の原因となる、Targetのネガティブ認識を示します。
行動や態度ではなく、その原因となっている、固定観念、思い込み、誤解、社会通念などのネガティブな「認識」であることが重要です。なぜかと言いますと、Barrierというネガティブな認識をどう変えるか、がIdeaとなるからです。BarrierとはIdeaの本質的な目的とも言えるでしょう。
主語は広く社会全体を示すこともありますが、その中にもTargetが含まれているか注意します。

Insight

Barrierの奥に潜むドライバーとなる欲求を示します。
Targetの根源的な欲求、前向きな深層心理、隠れた動機、大切にしている価値観など、行動のドライバーとなりそうな欲求を、want、need、believe、loveなどの欲求の言い回しで示します。

「本当は〇〇したいと思っている(Insight)が、しかし現状は〇〇である(Barrier)」というように、InsightとBarrierは反対の関係になると完璧です。いわばアクセルとブレーキの関係です。Insightという根源的な欲求があるからこそ、それを止めているBarrierが生まれていることに注目してみましょう。その視点で見直してみます。

「Ideaによって、Barrierというブレーキを解除し、Insightというアクセルを踏み込む。それにより行動や意識が動き出す。その結果Objectiveが達成される」というストーリーを目指します。

ここまでが通常のストラテジーの領域、すなわちクリエイティブブリーフの基本的な要素となります。さて、ここからがクリエイティブの本番です。

Thought Starter

Ideaの種となる着眼点を示します。
Insightに応えるための起点となった事実や視点などと、それをどう活用して課題解決をしようと考えたのか大きな骨組みを示します。Idea開発をするとき、表現方法と一緒に、誰もがこの過程を無意識で経ています。それを言語化することで、前段からIdeaへの文脈がスムーズになります。

ちなみにThought Starterは、結果的にIdeaのRTBとなることが多いようです。

Execution

Thought Starterを経て導き出された、具体的な表現方法を示します。
「アイデアは〇〇である」と具体的にしっかり述べます。

Transformation

Execution(表現方法)によって、Targetのどんな価値観をどう変えたのかを示します。なぜこの項目があるかと言いますと、人が行動変容や態度変容を起こすとき、「何かしらの物事に対する見方が変わること」がきっかけとなるからです。この「何かしらの物事に対する見方が変わること」を価値変容と呼んでいます。どのような価値変容を起こすのかということは、どのように人を動かすのか、というアイデアの本質と言っても良いでしょう

そもそもアイデア=表現方法ではありません。アイデアとは「どのように人を動かすのか」の力学構造のことです。アイデアを人に(特に上司に)説明したとき、「で、アイデアはなに?」と言われた経験はありませんか。そんなときは、もしかしたら表現方法の説明でとどまっていたのかもしれません。「どのような表現方法で、どのような価値変容を起こすことで、どのような行動変容・態度変容を促し、目的を達成させるのか」と言語化することが大事です。

よくある間違いとして、Objectiveや表現方法を価値変容として示してしまうことがあります。これは間違えです。

例えばAddidasの「Runner 321」であれば「ダウン症の人々がマラソン大会に『参加しない』から『参加する』に変えた」は行動変容でありObjectiveに当たる内容です。「321を『疾患を表す番号』から『マラソン大会の背番号』に変えた」は表現方法の説明です。これらは確かに変容ですが、価値感の変容ではありません。

価値観の変容とはTargeにとって321 という数字の価値観をどう変えたのかだったり、Targeにとってランニング大会の価値観をどう変えたのかというように、対象となる「どんな価値観か」を定義することが重要です。

具体的にAddidasの「Runner 321」の例で言いますと、ダウン症の人々にとって「『321』という数字への『制限の象徴である』という価値観を、『可能性の象徴である』という価値観に変えた」や、「『ランニング』への『自分に無関係なもの』という価値観を、『可能性を広げるもの』という価値観に変えた」という具合になります。前者は321 という数字の価値観の、後者はランニング大会の価値観の話になっています。

ちなみに、「現状の価値観」はBarrierと、「変えた価値観」はInsightと紐づいています。カンヌのグランプリとゴールドの事例を分析しましたので、各事例を参考にしてみてください。


項目の説明は以上になります。
頭から順番に読んでみて、文脈がきれいに繋がっているか確認します。

余談ですが、Insightの定義とは何でしょうか。
一般的には「消費者の隠れた心理」とか「人の根源的な欲求」と定義されてます。しかしケースムービーやディスクリプションを読んでいると、Insightという単語が単純に「消費者の隠れた心理」や「人の根源的な欲求」以外を示していることが多いことに気が付きました。もしかしたらinsightの定義はもっと広義なのかもしれない。そうだとすると何が変わるのでしょうか。

アイデア開発の道のりは洞察や発見の点と点を結んでいくストーリー作りです。Insightを英単語しての意味である「洞察」や「発見」として考えると、それら点はすべてInsightと言ってもいいのかもしれません。人を動かすキッカケとなる事実やデータも発見したという意味ではInsightと言えるかもしれません。それらたくさんのinsightの中から、一番アイデアの着目点となった洞察や発見をcore Insightとして表舞台に出しているだけなのかもしれないなと思います。

特に最近多い、社会課題を技術やアイデアで真っ向解決する施策の中には、ニーズや課題はすでに顕在化されており、「消費者の隠れた心理」とか「人の根源的な欲求」への深掘りは見当たらないものも多く見受けられます。insightを「消費者の隠れた心理」とか「人の根源的な欲求」だけで考えていると、クリエイティブの幅が広がらない時代なのかなと思ったりしてます。

ここまで読んでくださってありがとうございます。
カンヌライオンズの事例を分析するということは、いわば世界最高の大学の入学試験の過去問を解くようなもの。ちょっと前までは高額なお金を払わないと手に入らなかった優秀な過去問が、いまでは無料で無尽蔵に手に入れられます。カンヌライオンズ獲得を目指さなくとも、アイデア開発の筋トレのために、脱構築を習慣化できるといいですね。

より具体的に知りたい方は、下のまとめもぜひご覧ください。


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