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みきちゅ×大石蘭 スペシャル対談〜蘭side〜 後編「女性版ヒャダインさんになりたい!」

フリーランスで独自の音楽活動を展開するシンガーソングライター・作詞曲家のみきちゅさんに、同世代の大石蘭がアルバム制作秘話やパーソナルに迫るお話をロングインタビュー!
前編では、今年9月にクラウドファンディングを通して自主制作したニューアルバム「みーんな国宝だよEP」の制作秘話について伺いました。

後編では、大石蘭がMVにイラストを提供した新曲「推しと人生トリップ」を掘り下げながら、ファッション、音楽からオタク文化まで、同世代カルチャートークを繰り広げます!

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みきちゅ profile
仙台生まれのシンガーソングライター&音楽作家。
​6歳から作曲を始め、16歳からピアノ弾き語りでの活動をスタートするも、重度のアイドルオタクであることがきっかけで「ヲタ芸を打つ側から、打たれる側へ」と憧れを抱き、“アイドルシンガーソングライター”というジャンルを作り出す。
若手バンドの登竜門である「閃光ライオット2011」に出場したことがきっかけとなり活動を本格化させると、DIYで活動する姿がメディアからも注目を浴び、事務所無所属のアイドルとしては異例のオリコンTOP10入りを果たす。
2014年には“アイドルシンガーソングライター”での活動を終了させ、原点である“シンガーソングライター”がメインのスタイルとなる。
2019年には、テレビ朝日「musicる TV」にて放映された若手音楽作家発掘企画にて、最終選考へ1位通過、楽曲提供のチャンスを掴み、本格的に音楽作家としても活動を始める。

前編はこちら


みきちゅさんのnoteに掲載された、
活動ヒストリーを掘り下げるインタビューもぜひ合わせてお読みください!
みきちゅ×大石蘭スペシャル対談〜ちゅside〜前編「こんなんでいいのか自分の人生!」
みきちゅ×大石蘭スペシャル対談〜ちゅside〜 後編 「あなたかわいいんだから表に出たほうがいいわよ」


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「推ししゅきぴ」な女の子の居場所になれたら

みきちゅ:今回のアルバムに収録されてる「推しと人生トリップ」のMV用にイラストを描いてもらったのが、蘭ちゃんとこうして対談しようってことになった直接のきっかけなんだよね。

大石:「推しと人生トリップ」のデモをもらったときに、まず思い浮かんだのが、いまインスタの中でもビッグウェーブ来てる「量産柄女子」「量産型オタク」のイメージ。
アイドルオタク、アニメオタク、声優オタク、キャラオタク…いろんなオタクの女の子がいるけど、その中でもとくに、この曲のイメージは、やっぱり男性アイドルオタクかなと思ったのね。
そしてその子の推しは、私のイメージでは、コアなファンがついてるアイドルっていう感じかな。
「私が大きいところに連れて行ってあげたい!」という熱を持てる、頑張ってる純粋なアイドルってイメージが浮かんだ。

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みきちゅ:
そうだね、「私だけの王子様」感!「推ししゅきぴ」な女の子目線で作った曲です。
量産型ファッションっていうのは、オタクの子たちの「かわいくなりたい」の「かわいい」のイメージが今あれなんだろうね。
Ank RougeとかHoney Cinnamonみたいな。
アイドルファンの中でも有名な子がいて、その子をみんな目指したりするみたい。
その子のSNSを見つけて、「憧れてます!」ってなる、不思議な文化がある。

大石:そうなんだ…!
そしてこの曲の中の女の子は、現実でも恋愛経験はそれなりに積んでそうな感じ。
「友達未満恋人以上」ってフレーズを聴いたときに、ある程度恋愛で痛い目見てそうだなって思ったの(笑)。
恋愛に対して、一種の諦めをもっていそう。
リアルな恋愛は興味ない、ってスタンスじゃなくて、一応恋愛をしようとしてきて、けど、推しを好きでいるときの気持ちを恋愛には求められない、っていう境地に至ってそうな女の子だなって感じがした。

みきちゅ:なかなか曲の感想をゼロから教えてくれる人っていないから、直接聞けてすごい嬉しい!
たしかに、男の子のアイドルが好きっていう目線で書いてます。
私は2014年に「アイドルの秘密」っていう曲のカップリングで「アイドルに恋をした」という曲を書いたんです。
私自身、女の子アイドルが大好きなんですよ。
廣田あいかちゃん(元・私立恵比寿中学)が本当に好きだったから、ただひたすら「ワイがぁぃぁぃ大好きやねん」っていう曲(笑)。
リリース当時は、女の子アイドルが好きな男性のファンが「わかる~!」って言ってくれてたんですけど、YouTubeのMVが2019年くらいから急に盛り上がり始めて。
コメント欄見てみたら、ジャニーズとかのファンの子が、「アイドルは私のこと知らないのに私は今日もかわいくなろうと努力してむなしい」とか、「こんなの誰にも言えない」みたいなことを書いてて、それがすごく嬉しかったんですよ。居場所になってて!
「アイドルに恋をした」ってGoogleで検索したら私のMVがトップに出てくるので。

大石:なるほどね~、そういう子がどんどん増えてるんだ!ガチ恋。

みきちゅ:だから、じゃあ今度は男性アイドルを推してる女の子目線の曲を書こうって思って、「推しと人生トリップ」を作ったんですよ。

大石:私も、量産型っぽい女の子のイラストを描いてインスタにアップすると、そういう子から相談が来たりするもん。

みきちゅ:ね、「相談乗るよ!」って思う!
私のお気に入りの歌詞が、「決められたキャラ設定をだんだんはみ出しても それすら可愛くて「いいね!」 無理しないスタンス推せるよ」ってところなんだけど、「それでもいいから、いてね!」っていう。
方向性の違いとか、やりたくないことやって顔が死んでて結局辞めちゃうとか、そうなるよりも、好きなことやっててはみ出してもいいから、その名前でちゃんとここに存在しててね、って思う。

▲「推しと人生トリップ」ミュージックビデオ。

私はすごくオタク気質!

みきちゅ:TikTok見てても、アイドル大好きみたいな動画たくさん出てくるし、おかげで詳しくなったグループとかもいるんだよね。

大石:アイドル大好きみたいなTikTokって、どういう動画を上げてるの?

みきちゅ:たとえばグッズ撮ったりとか、推しの誕生日会とか、量産型みたいな子たちがかわいく撮ってたり。
あとは、ちょっとグレーだと思うんですけど(笑)、おすすめの曲のライブ映像とか、テレビの映像とかを撮って、歌詞とかをつけて、ぜんぜん知らない人にもわかりやすいように編集してたり。

大石:プレゼンになってる!

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みきちゅ:
そういうの、熱量がすごいなって思ったんです。
だから、今回のMVも、人間が出てくると、イメージが固まっちゃうから、私がひとりで歌ってると、私が男の子のアイドル好きって思ってるような歌、で終わっちゃうので、イラストでボカロみたいな感じがいいな、と思って、イラスト誰に頼もう、って考えてて。
まだ蘭ちゃんとはこんなに親しくなくて、北出菜奈ちゃんとかハナエちゃんのイベントにお互い「いるな」って感じで(笑)。
でもインスタのストーリーズ見ててもすごい話合うし、最近量産型の女の子のイラストとかも描いててめっちゃかわいいから、蘭ちゃんにお願いしたいなって思ったんです。
だから、蘭ちゃんが最速でこの曲のデータを持ってる(笑)。

大石:そうだよね!誰よりも早く聴かせてもらいながらイメージをふくらませました。
量産型の女の子なんだけど、リアルすぎてもイメージを狭めちゃうのかな、とも思って、男性アイドルのオタクっぽい要素を入れたり、「推し色」はピンクかな、みたいな統一感は出しつつ、いろんな推しがいる子に当てはまるといいな、と敢えてアイドルの象徴を「くま」にしてみたり。
若干表情も切なそうな感じにしてみました。

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イラスト:大石蘭
「推しと人生トリップ」MV用に描き下ろしたイラスト。

みきちゅ:あの絵から気持ちが伝わってくると思うし、みんな自分を重ね合わせられそう。あの一枚を、いろんな気持ちで見てくれると思う。

大石:良かった!
最近量産型オタクの子たちのカルチャーに興味があって、インスタとかでよく見てるのもあったけど、今回この絵を描かせてもらうにあたってまたいろいろリサーチもしていた中で、推し色のものを身につけたり、アクセサリーも推しの色を選んだりとか、そういうの憧れるなぁって思ったの。
この曲にも「君こそがラッキーカラーさ」って歌詞があるじゃない?
そういうのを見て、自分しかわからない形で、推しへの愛を取り入れるのって楽しそうだなって。

みきちゅ:そう、推しの色が人生のラッキーカラーになって、飲み物とかも推し色を選んじゃう。
私はぁぃぁぃが好きだから、あれば黄緑とかを選んじゃうな。
AKBのときも、チームBが好きだったから青を選んだり。
本当はチームAのピンクのほうがかわいいんだけど、でも青!みたいな忠実な心で。

大石:私はすっごい好きなものはあるんだけど、何かのオタクになったことはないんだよね。

みきちゅ:そうなんだ!たしかに、グループアイドルを応援しないと推しの色っていうのがそもそもないし。

大石:そうそう。中学のときとかほんとBUMP OF CHICKEN大好きだったし、椎名林檎もすっごい好きでどちらも一緒に仕事したいくらいに思ってたし、好きなアーティストとか好きなファッションっていうのは常にあるんだけど、「オタク」っていうのにはなったことなくて。

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みきちゅ:
BUMPって何色だろう?青とかネイビーとかモノトーンとかのイメージ。
私はね、すごいオタク気質なの!
アイドル以外だとUVERworldが中学のときから大好きなんだけど、CD買うだけでは終わらず、すごく集中して好きになったから、私を超える人はいなかったと思う(笑)。
でも、みんなツナギ着て髪の毛も揃えてグッズ作って…みたいなことしてたけど、そっちには行けなかったな。

大石:私は性格的に、コミュニティに入って、その中の言葉遣いだったり独特の文化に馴染んだり集まったりっていうのがちょっとできなくて、それでオタクになりきれないのかなって思ってる。

みきちゅ:共有しないタイプ。自分の中で楽しむというか。

大石:こういう感じで、ファン同士でライブ行ったり、「良いよね」って語り合ったりするのはすごい好きで昔からよくやるんだけど、独特じゃない?オタクのコミュニティって。そこでしか通じない言葉があるっていうか。

みきちゅ:ハンドルネームで呼び合ったりね。

大石:そう、私はバンギャも通ってきてないけど、バンギャも原宿の神宮橋のところで名刺交換する文化とかあったじゃん。

みきちゅ:そうなんだ!私もね、バンギャは通ってきてないの。アニメも好きだし声優さんも好きだしアイドルも好きだけど、唯一通ってきてないかも!
思い出したわ、高校生のときに、ぜんぜん喋ったことない子がバンギャで、めっちゃ机に絵描いたりするじゃないですか(笑)。
それでその子の推しのバンドを知ったんだけど、たまたまTVでそのバンドが歌ってから、その子に「○○って曲すごい良い曲だね!」って言ったら、めっちゃ冷たくされて、「えー!」みたいな(笑)。
その子と喋ってみたいな、盛り上がる話題があるといいな、と思ってたから持ってきたけど、逆に溝が深まってしまった気がする。

大石:それは多分性格とか世代というのもあって、中高生だとよりそういう「私しか知らないのが好き」っていう傾向があったりするのかもしれない。BUMPですらあったもん(笑)。
BUMPを好きだったクラスメイトがいて、その子が布教してくれるから聴き始めたら私もすっごく好きになって、ラジオ聴いたりしてメンバーのことも知り始めたし、曲にも詳しくなっていってたら、ある日「やめてくれん?」って言われるという(笑)。

みきちゅ:中学のときってほんとそういうのあるよね。私もめっちゃ友達に布教してたけど、自分より好きになられたらたぶん「えっ、私のなんだけど」ってなってたと思う(笑)。

意味不明な音楽遍歴のアイドル!?

大石:そういえば、みきちゅの聴いてきた音楽遍歴ってどんな感じ?

みきちゅ:小学校あたりは一生懸命モー娘。とかを追いかけてたけど、小6くらいから急にバンドが好きになって、UVERworldとか、HIGH and MIGHTY COLORとか…

大石:「ハイカラ」!!マーキーさん(Vo.)ってめっちゃ『CUTiE』とかの表紙載ってた時期あったよね。

みきちゅ:そう!買い切れないほど雑誌が出てて、応援するのが楽しかったな。

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大石:
2005、6年かな、Midnight Pumpkinとか、少年カミカゼとか、ketchup maniaとか、ムラマサ☆とか、オレスカバンドとか、GOLLBETTYとか…女の子ヴォーカルのバンドが、『Zipper』なんかに続々出始めた時期があったんだよね~。

みきちゅ:うわあああ!全部聴いてた!オレスカバンドとムラマサ☆が私にスカを教えてくれた…。
あとはUVERと同時期にBUMP OF CHIKENとRADWIMPSも好きで、親が理解あったので、ライブを一緒に見に行ってくれたので、それは親に感謝ですね~。
高校生になってからは、洋楽好きの先輩がCD貸してくれて、アイスランドのシガーロスから始まって、ポストロックとかシューゲイザーとか聴くようになっていって、そこからどんどん開けていった。
その頃、音楽プロデューサーで当時ユニバーサルミュージックの新人発掘にいた加茂啓太郎さんにオーディションで出会ったんだけど、「アイドルをやりたいです」って言ってるみきちゅって人のプロフィール見たら、好きなバンドがUVERworldとシガーロスとZAZEN BOYSで、意味不明すぎて(笑)それで興味持ってくれたっていうのもあると思う。

女性版ヒャダインさんになりたい!

大石:じゃあ、この人と仕事したい!っていうアーティストはいる?

みきちゅ:すごいいっぱいいるけど、「共演したい」って人はありがたいことにほとんど叶ったかもしれない。
しょこたんとか、エビ中とか…だから今は、作家として楽曲提供させてもらいたい、って気持ちがすごく強い。
自分的にアイドルが好きだから、AKB48グループとか坂道とか秋元康さんが手掛けてるグループや、ハロプロ、ジャニーズ、っていう三大巨塔!?はいつか楽曲提供できるように頑張りたいって気持ちがあるので、日々勉強してますね。
とにかく見る。知らないと書けないから、新しいアイドルを知って、聴く。
あとは、有名じゃない曲でもすごく良い曲があったりもするし、作曲家さんを見ていくと、「あ、この曲もこの曲も書いてる人なんだ」って知ったりするので、作曲家さんとお会いできたときにどういうふうに曲を作っているのか聞いたり…いろんな人に教えてもらうことが多いですね。

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大石:
とにかく今のアイドルシーンにいろんな角度から関わっていきたいって気持ちが強いんだね!

みきちゅ:私は、女性版ヒャダインさんみたいな存在を目指して、自分自身も発信しつつ、楽曲提供を通していろんな人の幸せだったり、エモーショナルな部分に寄り添えるようになりたいし、さらにアニメとかいろんな文化に関わっていけるようになりたいので、今回のCDはほんとにいろんな曲が入っているから、いろんなシーンでみきちゅの曲が流れるように頑張りたいって思います。
もう出したばっかりだけど、次のCDも早く作りたいな。
そして今回のアルバムはMVもYouTubeでどんどん公開していきたいと思っていて、この記事が出る時期には「推しと人生トリップ」のMVがアップされるけど、他の曲のMVも作っているので、ぜひ楽しみにしていてほしいです!

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《インタビュー後記》

めまぐるしく移り変わり、あっという間に過去になってしまう「今」を、みきちゅは鋭くとらえて音と言葉に変えていく。
コロナ禍、落ち込んだりしない?と打ち合わせのときに訊ねたら、
「目先の心配に気を取られがちだけど、今も動いているもっと大きなもののためにどんどん制作してたら、いつのまにか目先の問題も解決されてたりしたんだよね」
と答えたみきちゅの、吸い込まれそうにくりくりした目。
ああ、だからみきちゅはいつも壁を壊せるんだ、とハッとしました。

そんなみきちゅが生み出す音楽は、これからももっともっと、多くの人にとって「自分の歌」になるはず。
そしてそれこそが、きっとみきちゅらしさなんだ。

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大石 蘭 / ライター・イラストレーター profile
1990年 福岡県生まれ。東京大学教養学部卒・東京大学大学院修士過程修了。在学中より雑誌『Spoon.』などでのエッセイ、コラムを書きはじめ注目を集める。その後もファッションやガーリーカルチャーなどをテーマにした執筆、イラストレーションの制作等、ジャンル問わず多岐にわたり活動中。


インタビュー・文:大石蘭
取材写真:SUITE IMAGE




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