見出し画像

「考える」ことの考察

1「考える」モデル

少しずつ変化していることに気づかず、何事もなく今日を生き、また明日が過ぎることを期待して「ボーっと生きていく」ことができる社会が目の前に起こっています。そして、10年前と比べてみると、自分の身体的変化や能力の変化、忘れてしまった社会の変化に気づかされます。
今、日本全体で起こっている人口減少の影響は、社会の弱い所から起こってきます。その代表的な地域が中山間地域や、オールドニュータウンで起こっている過疎高齢化です。消費者が減ることにより、商業施設がまず打撃を受け、徐々に公共サービスに波及しています。このような危機に対して、多くの識者から処方箋が提案され、それに従って頑張る地域も沢山現れています。ここでは、市民、住民の立場で、このような社会的問題に対して、どのように考えていく方法があるかを考察します。
まず参考にしたのは、石口「知覚・認知心理学」(放送大学)です。教科書の最初に認知科学は人間の「考える」ことをテーマにした研究です、と書かれていて、心が躍りました。

少し詳しく説明してみます。スタートは、目の前の出来事を認知する、から始まります。五感で感じた刺激を一瞬で認知して情報とするときに、無意識の情報から意識へと伝達されます。このプロセスを、冷蔵庫とまな板に例え、冷蔵庫から材料をまな板に移し調理する、と説明された話を思います。冷蔵庫に何が入っているかは、無意識のために、本人はわからない、と言います。意識されたものは、感情が生まれ、内容に応じて反応します。危険なら、避けなければなりません。一方興味や関心・好奇心が生まれることも起こります。すると、本人の知識に応じて反射的に問いが生まれます。
このように、さまざまな認知の働きが起こり、それをキッカケに問いがうまれ、反射的に考えることが起こると整理しました。このことから、私は、考えるための「キッカケ」に注意を払う訓練を行うことで、考えを深める習慣が身に付くのではないかと考えました。さらに付け加えるならば、私の経験からも興味を持つ内容があれば、継続的に気づくキッカケとなるということです。逆に言えば、好奇心を持ち興味を持つことが考える訓練になるという事が言えます。
注意する点は、すぐに答えを求めないことです。答えがあると思うことは、考えることを諦めていることと同じではないかと感じます。特に正しい答えには注意が必要です。誰かが言った正しい答えには、正しいとは何かを疑うことから始めて欲しいと思います。
自分の考えを言葉や文字や図に表すことで、自分自身、相手に伝えることが可能になります。この段階で、一度振り返ることが重要です。満足したら、その結果を記憶として保存されたり、行動変容に繋げることができます。相手に伝えることでコミュニケーションが起こり、コミュ人ケーションの中で生まれた問いに対して、仮説を置き調べることで、知識が増え、さらに問いを深め、考えを深めることができます
幼児が親に色々と問いかける時期がありますが、幼児には問いに答えるだけの知識がないために問いかけると考えられ、適切に応えてあげることで、ますます問いが深まると考えられます。
問いについては安藤・塩瀬「問いのデザイン」を読むと、少なくとも3種類以上の問いのパターンがあると説明されています。1つ目は「閉じた問」で答えを選択させるイメージです。2つ目は「開いた問」で答えを考えさせるイメージです。3つ目はその他の問いで、閉じた問いと開いた問の間にも中間があり、哲学的な問いもあると書かれています。自分自身、相手に問いかける時に意識すると良いと思います。またワークショップなどの実際に使う現場では、ファシリテータの人は予め問いを組み立てておくことが行われています。
最後に、知識の役割について、知識・経験に紹介したように、問いや考え(仮説)に応じて調べることで、さらに問いが深まり、考えの解像度が上がりますが、脳は考える際に非常にエネルギーを使うため、さぼり易いという性質があり、情報を正しいと思った瞬間、考えることを止め、エネルギー消費を抑えるという性質があります。注意して情報に接する訓練をしてください

2視点と仮定

自分で分析する場面とか、相手と一緒に考える場面など実際に考えることが求められる時に有効となる方法が、視点と仮定です。視点とは、考えるスタートとなる点のことで、誰が誰に何を伝えるのかを設定することです。話す相手を決めることで、話す内容は大幅に限定されますし、状況も設定することができ、考えやすくなります。
視点を意識することにより、固定的な見方・考え方から離れることができます。その結果として判断基準が得られることにより、考えを整理することができるようになります。



代表的な視点として、コミュニケーションで使われる5W1Hに当てはめてみると、意外にうまく設定できることが判り、紹介します。
5W1Hに対して、閉じた問いで聞く場合と開いた問で聞く場合を並べることで、視点を設定しやすくなるのではないかと思い表形式で整理しました。
Whenは時間を問うことで、閉じた問では「いつ」「どんな時」を訊きますが、開いた問いでは、過去、現在、未来に続く時間の変化を訊くことになります。
Whereは、場所を訊くことですが、閉じた問いではピンポイントに場所を指定して聞きます。開いた問いでは、範囲を訊く事ができ、鳥の目・虫の目という言い方に対応すると思います。
以下、表を参考にお考えください。

3振り返り・リフレクション

考えることが、本当に身に付くためには振り返り・リフレクションが不可欠です。話し合いの後、振り返りの時間を設定して各自の意見を述べて貰う事で、各自の頭の中が整理され、定着します。


振り返りで重要な点は、ネガティブな反省ではなく、ポジティブに捉えられる点を振りかえることです。その点を個人だけでなく皆で共有することで、新たな可能性が見つかる事につながる点が重要です。このためには、体験・経験を一旦引いて、客観的に捉える訓練が必要になります。
特に他人の意見を聞くことにより、自己のバイアス(偏り)気づくことが多く、肯定的に捉えることにより、考えの柔軟性を生み出します。
具体的には、模造紙に、付箋紙を貼って書き出すことにより、多角的に捉えることができるようになります。是非実行してください。

4.対話型鑑賞法(教えない授業)

最後に、このような考える事を中心に組み立てられた授業について紹介します。
参考にしたのは鈴木「教えない授業」です。1980年代にニューヨーク近代美術館の教育部長と心理学者らの研究チームによって開発された鑑賞教育プログラム、VTC(Visual Thinking Curricurum)に端を発しています。このVTCはVTS(Visual Thinking Strategy)として学校教育に発展しています。「対話型鑑賞法は、作品についての情報や解釈を専門家や教師が一方的に伝えるのではなく、鑑賞者自身の思いを尊重 し、グループでの対話を通して作品を味わっていく鑑賞法です。」

流れは、まず「みる」ところからスタートします。この「みる」ことは、視覚だけでなく五感を駆使して受け止める、と解説されています。
次に、自らが「考える」ステップになります。その段階で、教師は、ポインティングのように場所を指定して興味を集中させます。
次に、考えたことを「話す」ことになります。この話すことに対して教師は、VTSとして紹介した、気づいたこと、どこからそう思う、他には、そこから、といった声をかけ、鑑賞者の考えを深める補助をします。
最後に、他の発表を「聴く」ことで、新たな気づきを生み出し、さらに「みる」ステップに戻ります。
この授業で最も困難な点は、インフォメーションと書かれている情報の提供です。「考える」モデルで紹介したように、考えを深めるように情報を提供することもできますが、考える先に、情報を提供してしまうと、聴いた方は、正しい答えと思って考えることを止めてしまうことが起こります。従って、教師は、生徒の反応を良く観察し、生徒の考えが固まり、その考えのヒントになるように情報を提供することに注意する必要があります。
この手法を紹介した時に、多くの教師は、生徒の評価ができないと言いますが、この手法で育てている思考力は、対象への観察力を育て、表現力を育て、周りの理解力を育て、最終的に考えを論理的にまとめる力を育てています。私は、このように要素に分けて評価を試みてはどうかと思っていまっす。
この手法は、「みる」ことを必要としている多くの教科に展開可能です。例えば国語として文章を読むときにも、同じ方法が使えますし、地図を「みる」ことで、現地の姿を想像するとか、フィールドワークの内容をまとめる時にとても有効な考え方を提供してくれていると思います。


参考に、この内容をゲームとして完成させた「じっくりミレー」というゲームを紹介します。名画のコピーの上に額縁とよぶ道具を置くことで、ポインティングの効果を生み、その場所の気持ちを6枚のカードから選び、参加者全員で一度に公開すします。その結果、おなじ気持ちになった参加者同士で話し合いを行うことで、名画に感情移入するものです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?