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公募歴と人間歴

――前回までのあらすじ――

マスメディアへの復讐に囚われ、マスコミ系の大学に片道2時間半かけて通う少年、及川輝新。
かつて孤独に愛され孤高に嫌われていた彼は、大学生活を通じて現代社会に適応するべく、苦悩と奔走の日々を送っていた。
友情、葛藤、恋愛、魔女討伐、そして就活…。
彼は今度こそ真人間のフリができるのか。答えを知る者は、鏡の前にしかいない。

皆様、はじめまして。
及川輝新(おいかわきしん)と申します。
普段はライティングや校正のお仕事をしています。

あと最近、ライトノベルを書いています。

2023年9月15日時点で、《第19回MF文庫Jライトノベル新人賞》にて【優秀賞】を、アルファポリスの《第5回ほっこり・じんわり大賞》にて【涙じんわり賞】を受賞しました。
なお、「MF文庫J」の受賞作『偶像サマのメシ炊き係!』は、ただいま書籍化作業進行中です。

※2023年11月13日追記
2023年11月25日(土)にデビュー作、『俺の背徳メシをおねだりせずにいられない、お隣のトップアイドルさま』が発売になります!(タイトル変わりました)

これを機に、今までの投稿歴をざっくり振り返ってみようかと。

私は、ライトノベル作家の公募時代を振り返ったエッセイが大好物です。
落選続きだった頃の私は、己の傷ついた心にバケツいっぱいの軟膏をパレットナイフで塗りたくるかのごとく、ネットの海に素潜りし、エッセイという名のウニやホタテを乱獲したものです。それはそれはおいしい海鮮丼が出来上がりました。今度は自分がハマチのぶつ切りを海底に沈める番かと。ゴマサバも良いな。

これは意地悪な捉え方をすれば「傷のなめ合い」なわけですが、そもそも私は「傷のなめ合い」という言葉が嫌いではありません。
別に自分を甘やかしても良くね?長期的に見ればストレスコントロールも大事よ。

というわけでこのエッセイが、誰かを励ます一助になれば幸いです。

※本エッセイでは、「長編」に的を絞って記載します。 掌編、短編、エッセイコンテスト等にも多数応募していますが、今回は省略しています。


■前編:愛と謎


2014年、仕事に疲弊した私は現実逃避を目的に、再び小説を書き始めました。

初めて小説を書いたのは大学時代。当時は、いきなり長編を書くのはさすがにハードルが高いと判断し、短編を仕上げました。
私は「若者の成長や葛藤」を描きたかったので、ライトノベルという媒体を選んだのは自然な流れだったように思います。
その頃は短編のライトノベルを募集している賞はほとんどなく、最もメジャーどころである《電撃大賞》を選びました。
在学中に2度チャレンジしましたが、どちらも1次落選。やがて大学を卒業し、東京で働き始めました。

大学時代の執筆はいわばモラトリアムのようなものでしたが、社会人となった今度は本気の現実逃避です。愛の欠片もないたった一人の逃避行です。私は小説家として生計を立てることを目標に、長編に挑みました。

初めての長編、ジャンルは青春ラブコメ。
「高校生の主人公の前にある日、恋愛の神様を自称する美少女がやってくる。神様曰く、『お前は将来とんでもないチャラ男になり、数々の女性を苦しめる。それを防ぐため、お前の恋愛感情の源―【恋魂(こいだま)】を刈りにきた。それが嫌なら、純愛を貫けることを証明してみせよ。具体的には、現在片思い中の女子への恋を成就し、将来を添い遂げるのだ。ちなみに、恋魂を刈られた男は性欲が無くなってもれなくEDになるよ』」…という話。

完成した時は創作初心者の例にたがわず、「やべえよ…最強のラノベができちまったよ…業界に新風を巻き起こしちゃうよ…」と己の才能に酔いしれました。

応募先に選んだのは、エンターブレインの《えんため大賞》。
私は『文学少女』シリーズや『ココロコネクト』シリーズが大好きだったので、青春ものを送るにはうってつけと判断しました。
結果は1次落選。「ウッソだろ!?」と結果発表画面を何度も見直しました。しかし何度画面を凝視しても、及川輝新の名前はありません。明らかに今回限りと思しき適当なペンネームの人に負けるの、めっちゃ悔しい。
初挑戦の長編で得られたのは、「自分は天才ではない」という自覚でした。

翌年も新作の青春ラブコメを引っ提げて《えんため大賞》に挑戦しましたが、同じく1次落ち。
ここらへんで、「自分が一番好きなものを書くのはダメなのかもな」と考え、方向転換。

新たに選んだジャンルは、ミステリーでした。
実のところ、私は「ミステリ」と「ミステリー」の違いもよくわかっていないレベルの素人です。ちなみに「サンドウィッチ」より「サンドイッチ」派です。「ウィ」の字面が出てくるたびにオードリーの春日氏が浮かんできて、内容に集中できないのよ。

ともかく3作目に書いたのは、ミステリー風のキャラクター小説。
「高校生の主人公は、とある相談所でアルバイトをしていた。そこには時折、“殺しの相談”が舞い込んでくる。そう、ここは殺し屋のアジトだったのだ。ただし、ターゲットはいずれも人外の存在。幽霊、本の妖怪、魂のキメラ…。主人公はターゲットの下調べをしつつ、彼女らの心を探り、己のアイデンティティと向き合っていく」…みたいな話。

こちらも恒例の《えんため大賞》に応募し、初の1次通過。自宅で「よっしゃあ!」と快哉を叫んだのをよく覚えています。

4作目も同じようにミステリー風のキャラクター小説(国営のテレビ局がヤラセの凶悪犯罪で情操教育する話)を、5作目はデスゲームもの(GANTZとペルソナ4を足して2で割った感じ)に挑戦し、どちらも2次落選。この辺から他の賞にも応募し始めます。

ちなみに、受賞までに複数回応募した賞は、

・電撃大賞
・えんため大賞
・ジャンプ小説新人賞
・GA大賞
・富士見ノベル大賞
・ノベル大賞
・MF文庫Jライトノベル新人賞

あたりです。単発では、《メフィスト賞》《小説 野性時代 新人賞》《小学館ライトノベル大賞》とかでしょうか。他にもちらほら。

ここまで5作の長編を投稿し、1次落ち2回、2次落ち3回。少しずつではありますが、着実なステップアップのように思えました。
が、しかし。

■中編:XとH

6作目:夢の世界に潜り込んで潜在意識下の自分と闘う話。1次落ち。
7作目:魔王討伐に向かう勇者一行が全員シリアルキラーの話。1次落ち。

どちらも自信作でしたが、あっさり潰えました。複数のレーベルに応募しましたが全部1次落ち。
このあたりで長編の投稿歴は4~5年が経過しており、「そろそろヤベエな…」という思いが強まってきます。

そこで始めたのが、Twitter(現:X)。
私の周りには一次創作者がいなかったので、仲間と切磋琢磨するべくアカウントを開設し、創作界隈の人たちをフォローしていきました(『バクマン。』の福田組に憧れてた)。

驚いたのは、一人ひとりのレベルの高さ。
毎月新作を投稿する人、毎回高次に残る人、140字で密度の高い面白ツイートをする人。
私は当時、年に2本しか長編を書いていなかったので、こりゃマズいと生産ペースを上げました。
とはいえ遅筆なので、最大でも年4~5本ペースでしたね。

そしてもうひとつの変化。
私は毎回、友人・知人に応募原稿を読んでもらっていたのですが、そのうちの一人、大学時代の友人であるH氏(チーズ嫌い)からこんな助言をもらいました。

「及川さんはメシの描写がうまいから、グルメもの書いてみれば?」

実は2作目の青春ラブコメもグルメにまつわるストーリーだったのですが、自分的に納得のいかない出来だったこともあり、以来グルメものは避けていました。
しかしH氏(チーズはニオイがダメらしい)のアドバイスは昔から的確でした。私は彼に従い、8作目を書き上げます。

8作目:客も店員も幽霊の居酒屋で、酒を酌み交わす話。1次落ち。

ショック度で言えば、1作目に匹敵するかもしれません。
しかしフォロワーさんから「ここでダメでも、他の賞なら評価されるケースも全然あるよ!」とのお言葉をいただき、「そ、そうなのかな…」と半信半疑で別のところに応募。結果は…。

《第5回ほっこり・じんわり大賞》【涙じんわり賞】受賞

マジでした。最初に応募した賞はファンタジーが主流っぽいので、ひょっとするとカテゴリーエラーもあったのかもしれません。

とはいえ《ほっこり~》に応募したのは2022年の夏頃だったので、当時(2019~2020年頃)は1次落ちで普通に凹んでました。

その後も1次落ちと2次落ちを繰り返し、時間は刻々と流れます。
同級生は次々に結婚、あるいは出世し、焦りばかりが募っていきます。
預金残高は増えないけど尿酸値は増える。アルコール耐性は強くなるけどストレス耐性はクソザコのまま。そんな人生。
結局、受賞までに「2次通過以上」の経験は片手で数えるほどしかありませんでした。

■後編:酒と飯

公募の後半はH氏(焼きそば好き)のアドバイスに倣い、また私自身も酒やメシが大好きだったこともあり、グルメものが中心になっていきます。

11作目:シェアハウス管理人の主人公が、そこで暮らす酒カス女子たちの面倒を見る話。1次落ち。
12作目:降霊術を使えるバーのマスターと、故人に心残りがある客との交流を描いた話。2次落ち。

特に11作目はめちゃめちゃ自信作だったのですが、1次落ちだったのでなかなかにしんどかったです。
そこで13作目の構想にあたり、今一度初心に帰ることにしました。

「ライトノベルは、10代の少年少女に楽しんでもらうものである」。

もちろん20代や30代以降にも楽しんでもらいたいですが、真っ先に考慮すべきは10代。
8作目、11作目、12作目はいずれもグルメものでありながら「酒」がウエイトを占めており、10代には共感しにくかったのかもしれないと考え、13作目ではアルコール要素を排除しました(サブキャラで酒カスが出てくるくらい)。

10代が読むことを強く意識しながら執筆を続け、数か月後にひとつの作品が出来上がりました。
タイトルは、『偶像サマのメシ炊き係!』
後に《第19回MF文庫Jライトノベル新人賞》で【優秀賞】をいただくことになる作品です。

なぜMFに応募したのかといえば、応募要項に

10代の読者が心から楽しめる、オリジナリティ溢れるフレッシュなエンターテインメント作品を募集します。

とあったからです。10代に向けて作った作品だし、ぜひ挑戦してみたいなと。

しかし、MFです。
そう、あのMFです。
全国のマゾヒストたちが、首を○○○○して△△△△の状態で鞭を××××でおなじみのMF文庫Jです。

私も過去にふたつ応募しましたが、1本目は2次落ち、2本目は1次落ちでした。ズタズタでした。
評価シートを開いた瞬間、飛び出す絵本のごとく侍が顕現して、「天誅でござる!」と滅多切りにされました。

そのため「応募しておいてアレだけど、MFで受賞できる未来は絶対来ないだろうな~」と本気で思ってました。

ところが蓋を開けてみたら、まさかの受賞。
ご連絡をいただいた際は受賞するなど露ほども思っておらず、「応募原稿に不備でもあったか…?」と心配が先に来たくらいです。

こうして、私の公募人生は一区切りを迎えたのでした。
その後の改稿作業も山あり谷ありですが、それはまた別の話。

■まとめ

だいぶ駆け足ではございましたが、今回は公募の振り返りをしてみました。
今後は、長い飲酒公募歴を糧に、各賞の所感(傾向と対策)やら、仕事と執筆の両立(モチベーションの保ち方)やら、一人飲みにおすすめのチェーン居酒屋紹介(秋葉原編)やらの記事を、不定期に投稿できればと思います。

「こんな記事を書いてほしい!」などあれば、お気軽にコメントしてください。

ちなみに“前回までのあらすじ”はノンフィクションです。

では、また。

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