あの世からよみがえったチェーホフ。アレクサンドル・ソクーロフ監督『ストーン』を観た。
「アレクサンドル・ソクーロフの宇宙」というシリーズの中の1巻。
VHSで観た。なぜか本作を見終えた後でうなり声をあげて動かなくなった。明日中身を調べてみよう。
とにかく面白い体験だった。
モノクロで、冒頭からいったい何が画面に映っているのかさえいまいち判然とせず、5分くらいじっと眺めていたら睡魔に襲われた。
が、中盤、小説家・劇作家のアントン・チェーホフの亡霊がなぜか現れてからは、自分でも理由がよくわからないが夢中で見てしまった。
とにかく動きが少ない映画で、途中何度か、再生機器が壊れて映像が停止したのかと思う瞬間が何度かあったが、ちゃんと再生されているのだった。
例えば、チェーホフと、彼が現れた家を管理する青年とが、口も聞かず、目を合わさずに何分もじっとしているシーンが続く。
この調子なので、途中、冷蔵庫に飲み物を取りにいって戻ってきてもまだ、2人はじっとしている。だから、チェーホフが眼鏡をかけただけで、小事件が起きたような気持ちになるのだった。
ひとつだけ、笑える場面があった。
「ソーセージは?」とチェーホフが青年に訊く。
「ありません」と青年。
「あれだけあったのに?」とチェーホフ。
「たぶん」と青年。不満気なチェーホフ。
やけに食欲のある亡霊で可笑しかった。しかも、いったいどうしてこんなやりとりを加えたのかと思うとよけいに可笑しい。
それから今思い出したが、寒いといって大量の紙を暖炉で燃やそうとするチェーホフを青年が止めるシーンもちょっと笑いそうになった。
なんというか、裏口から別の世界に連れて行かれたような気分。
屋外の幻想的なショットは今までに見たことがない類のもので、圧倒。さすが。
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