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岡本太郎の情熱に涙した日「自分の中に孤独を抱け」岡本太郎

人間は、孤独になればなるほど人間全体の運命を考えるし、人間の運命を考えた途端に孤独になる。だから人間一人ひとりが孤独でなければいけない。それが人間の矛盾律だ。

「自分の中に孤独を抱け」岡本太郎p6

大学受験と人間関係に行き詰まりを感じたことから精神を病み、鬱病になった。現役では大学に入ることができず、病気が完全に良くならないまま浪人に突入した。

僕はもともと勉強自体はそんなに苦にならない。むしろその中に喜びさえ見出すことができたが、浪人時代に精神に応えたのは「孤独」だった。大手予備校のカリキュラムが自分の今の身体と精神の状態ではとてもこなせないと感じたため、宅浪を選ばざるを得なかった。

浪人すると、社会から外れてしまった感覚に陥り、疎外感を感じるということがよくあるが、僕はそもそも家でひとりで勉強しなければならず、人との関わりがほとんどなくなってしまったため、ひどく孤独を感じていた。

そして、大学受験が終わってもその孤独感は拭われなかった。高校時代の友達に連絡を取っても、1年早く大学生になった高校時代の友達にとっての自分は、数多いる友達のうちのひとりになってしまっている気がした。

それまでは、浪人生だから孤独なのだと思い込んでいたが、浪人がどうとか関係なく僕は孤独なのだと強く悟った。その感覚に、「僕」という存在の根幹が強く揺さぶられた。

そんな時に読んだ岡本太郎の「自分の中に孤独を抱け」に深い感動を覚えた。彼の孤独への向き合い方は、僕に「孤独は持っていて当たり前なんだ」という安心感を与えるとともに、「孤独な自分のまま闘い抜け」と檄を飛ばす。僕は本を読みながら、安心の涙を流すと同時に、身震いした。僕は人間であるために孤独に向かい合い続け、腐った世間に反抗し、嫌われても自分を貫き闘い通す覚悟を迫られていた。

人間がいちばん人間的なのは、孤独であるときなんだ。だからぼくは言いたい。 孤独を悲壮感でとらえるな。

「自分の中に孤独を抱け」岡本太郎p7

こんなことを今言うと笑われてしまうかもしれないが、僕は子どもの頃、本気でこの世界は自分のためにできているのではないかと思っていた。

この宇宙は100億年後に僕と言う存在を迎え入れるために生まれ、46億年前、僕が住むに適した星として地球が生まれ、そこに生命が生まれた。そして、生命は僕と言う存在自身と、僕の住む星の豊かな生態系を産むために進化、枝分かれを繰り返した。現在僕の周りに生きているのは僕の人生に直接的、あるいは間接的に作用する人たちであり、僕はその中でたったひとり確固たる意識を持って生きている。そんなことを本気で思っていた。

一匹の蟻──ひとりの人間の運命をもっとも純粋にコンデンスしてとらえた姿だ。宇宙という無限大の可能性に対して、無限小の核を対立させる。この素っ裸な、小さい、孤独な存在が宇宙を葬り去るという矛盾。  
自分を孤独な極限として考えるほどに、宇宙が猛烈に彩られていく。だから、自分をそういう極限に追いつめることによって、「己れ即宇宙」という実感がもてる──。

「自分の中に孤独を抱け」岡本太郎p10

もし自分の死後にも宇宙があるとすれば、自分はそれに対して責任が負えない。それなら現在の責任も負えないし、負っていないということになる。だとすれば、つまり自分が責任を負うなら、この宇宙は自分とともに消滅し去らなければならないはずだ。

「自分の中に孤独を抱け」岡本太郎p10

自分そのものが「宇宙」であり、自分が死ぬ時、宇宙もまた死ぬのだ。という岡本太郎の考えは幼い僕に非常に共通していると思う。岡本太郎がここで述べたことのキモは、

自分の世界について責任を持って生きろ

ということだ。この宇宙はすなわち自分であるというある種のヒロイズムが僕たちに生きる希望と生きることの苦しみを同時に与えている。

ただのお人好しで、ただ引っ込んで、いつも謙虚で、自分は安全だなんて安心していたら、ドラマが生まれるわけがないじゃないか。人生のドラマは、いつだって自分が中心なんだから。

「自分の中に孤独を抱け」岡本太郎p17

宇宙がすなわち自分なら、人生はすなわちドラマである。しかし、自分が無害で何もしなかったらそこにドラマは生まれない。目標に向かって全力で突き進んで、何度も失敗して、周りから馬鹿にされて、嫌われて、初めて大きなドラマが始まる。

ほんとうの謙虚とは、人前で己れを低く見せるなんてことじゃない。逆だよ。自分の責任において、己れを徹底的につらぬくこと。ぼくが〝岡本太郎〟を打ち出しているようにね。

「自分の中に孤独を抱け」岡本太郎p18

謙虚と言うと、さっきも言った通り腰が低くて無害な様が思い浮かぶかもしれないが、謙虚とはそういうことではない。自分の責任において、己れを徹底的につらぬくという自分に対して誠実になって相手に立ち向かうのが「謙虚」というものなのだ。

第1章を読むだけで僕は今までどんな本を読んでも感じなかった種類の衝撃を受けた。過去にこんなに孤独に、そしてこの世界に真正面から立ち向かう男が生きていたことに感銘を受けた。彼の反抗心には、ただのアンチテーゼではない、太く力強い信念が黒光りしていた。

僕の悩むようなことを、彼はきっと自分の力に変えて、芸術を爆発にする原動力にしたのだろうか。この本を読んで、僕の悩みは打破への衝動のために震え、熱を持ってきた気がしている。この文章が僕が悩みを原動力にした最初の創作である。そして、僕の衝動はいずれ宇宙の色を形を新たなものにして美しく消滅するだろう。


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