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デヴィッド・バーン「音楽のはたらき」

デヴィッド・バーン「音楽のはたらき」
イーストプレス 野中モモ(訳)


 デヴィッド・バーンは音楽家として、類まれなるポジションに佇んでいる様に思える。自身のバンドであるトーキングヘッズを「コンセプチュアルアート」に準えている様に、視覚芸術との親和性も高い。(ミュージックマガジンの特集ではパフォーミングアートという言葉が使われていた)彼の好奇心は計り知れず、自然科学からデジタルテクノロジー、宗教に至るまで「生涯をかけて」研究した成果が本書にはぎっしりと詰まっている。何層にも重なるユーモアや哲学が、特異な音楽性に辿り着いている。しかしその姿勢は実に謙虚で「自分を文化的スノッブだとは思いたくない」と自己分析しているし、「未来の世代は現在の芸術予算を困惑の目で見るに違いない」という言葉からは、弱者に対する優しい眼差しを感じ取ることができる。一方で、イラク戦争の時は絶望感に浸り、新聞に意見広告を掲出するなど、表現者としての屈強さも兼ね備えている。

 1985年の映画「ストップ・メイキング・センス」における、肩幅の広い大きなスーツに目を奪われ、彼に興味を持った人は多いと思う。僕もその1人だ。本書ではそのステージ衣装が「能装束」にヒントを得ていたり、ヨーガン・レールからの助言で生まれたことが明かされる。
 
時は流れ・・・2021年に同じく映画「アメリカン・ユートピア」で久しぶりに圧巻のパフォーマンスに触れ、涙が溢れてきた。この人はずっと音楽を探求し、進化し続けている!また音楽にも選ばれてきたことが手に取るように伝わってきたのだ。何故か3回も泣いてしまいましたよ・・・
可愛らしいお祖父様です


何と!ストップメイキング2023

 「ぼくたちは音楽を作らないー音楽がぼくたちを作る。」という彼の哲学は、自分を突き放しつつ音楽側へと融解することを意味しているのではないか。その態度は周囲の文化を巻き込み、ものすごい質量のコンテクストとなる。



映画「アメリカン・ユートピア」以前に執筆されたのものですが、ようやく翻訳本が出ました

 音楽研究書ではあるが、図版も多く楽しく読み進められる。ビジネスについて語られる章では、ブライアン・イーノとのコラボで実現したアルバムの戦略や売り上げの数字も具体的に示される。アマチュアの音楽家にはもちろんだが、全クリエイターにとっても必読の指南書となっている。

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