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地域で楽しく過ごすためのゼミ 第2回

2020年7月27日、地域で楽しく過ごすためのゼミ 第2回が開かれました。

第2回の課題図書は『地方創生大全』(著:木下斉 2016年 東洋経済新報社)です。担当は辻本です。
この文章では、実際にゼミで使った要約文章を掲載します。

発起人以外が担当となった今回は、実質的な初回と言っても過言ではないなか、担当を引き受けてくれた辻本氏には感謝の意を表します。

【本の選定理由】

昨今、地方創生や地方分権のフレーズをよく聞くが、実際のところ地方創生とは何なのかを知りたかった。また、地方が活性化していくためにはどんなことをしなければならないのか、知識を得たかったから。

【本の主題】

これまでの行政による地方創生政策(失敗)について、主観的に批判。地域再生に必要な取り組みが成立するためには、「事業」「資源」「組織」の観点から正しく取り組む必要がある。また、地域活性化の手段として「事業」を前提として展開している。また、「ネタ」「モノ」「ヒト」「カネ」「組織」の5つの視点から地方創生政策について考察。この5つの視点から事業を積み重ねることで地方創生、地域再生すると主張している。

【章立て】

この本の章立てとその論旨の展開は以下の通り。
<第一章>  ネタの選び方 「何に取り組むかを」正しく決める
<第二章>  モノの使い方 使い倒して「設け」を生み出す
<第三章>  ヒトのとらえ方 「量」を補うより「効率」で勝負する
<第四章>  カネの流れの味方 官民合わせた「地域全体」を黒字化する
<第五章>  組織の活かし方 「個の力」を最大限に高める

※図を省略/気になる方は課題図書をご覧ください。

【各章の要約】

【第一章】ネタの選び方 「何に取り組むかを」正しく決める

<第1節 ゆるキャラ>
この節では「ゆるキャラ」事業を例に成果が期待できない事業に乗りやすいことを指摘している。一過性の人気商売である「ゆるキャラ」に投資したところで勝ち目がない。
それよりも地元経済の現実と改善に真正面から向き合うべきである。

<第2節 特産品>
全国各地で取り組まれている「特産品開発」は、うまくいった事例が少ない。その理由として次のことを挙げている。
第一に、「商品自体の選択が間違っている」。流行っている成功事例を模倣することで競合の多い市場に参入してしまう。
第二に「原材料が間違っている」。売れる最終的な商品像から原材料を選択するのではなく、「地域資源」だからといって地元にある原材料から商品を選択してしまう。
第三に「加工技術の過信」。最先端の加工技術に過信して設備投資が過剰になり、結果的に高コスト化を招く。
特産品開発のネタ選びにおいて大事なことは、従来の予算ありきの開発ではなく、販売元、消費者の意見を聞く「営業」活動である。最終的に消費者に選んでもらえる商品を企画段階のうちに行う。

<第3節 地域ブランド>
売れない特産品を売るのに「地域ブランド」をつけることでブランド化し売り出す手法。
特産品と同じく失敗が多い。なぜなら、ブランド化に適さない凡庸な「地域」と「商材」を用いている、コンサルタント頼みであるから。
(ex.①よく聞く売り文句、②いい加減な地域商材選定、③何となく地域の名前を使ったブランド名、④それっぽくデザインされたロゴ、⑤きれいな写真を使った大型ポスター、⑥中身のないスタイリッシュなWEBサイト、⑦東京の一等地でのイベント)
そもそもブランド形成は極めて難易度の高いマーケティング手法である。ブランド化より付加価値向上策が大切である。(ex.①皆が売らない時に売る。②お店の特定メニューに最適な品種をつくって売る。)ブランド化があるから売れるのではなく、売れるからブランドが形成される。

<第4節 プレミアム商品券>
全国各地で行われている「プレミアム商品券」事業はすでにプレミアム感がない。あえてその地域を選択される施策ではなくなった。今後は、いたずらに値引きするのではなく、突出したコンテンツを磨き上げ、高付加価値化を狙った方がよい。(ex.練習専用の民間体育館。自転車をもったままチェックインできるホテル。)

<第5節 ビジネスプランコンペ>
ネタ選びに困った地方はそもそもの「ネタ」を募集する「ビジネスプランコンペ」が行われがちである。行政側は、地域活性化の事業を見つけられ、補助して地域活性化へ近道と思われるが、応募者にとっては評価の有無にかかわらず、失敗してしまう。落選した人は挑戦する前から「あいつはダメな計画を立てたやつ」というレッテルを貼られる。評価された人たちは挑戦する前から補助金漬けにされてしまう。周囲の評価など気にしない人が成功している。
地域での新規事業においてはあれやこれやと言われるが気にせず仲間たちと事業に集中しトライ&エラーが大事である。

<第6節 官製成功事例>
各省庁が「成功事例集」を配布しているが、「偽物の成功事例集」が混ざっている。
岡山県津山市の「アルネ津山」と青森県青森市の「アウガ」を例に失敗の原因を紹介。
著者は「本物の成功事例」について次のように5つのポイントを挙げている。
(1) 初期投資が交付金・補助金のような財政中心ではなく、投資・融資を活用している活用しているか
(2) 取り組みの中核事業が、商品やサービスを通じて売り上げを立て、黒字決算となっているか
(3) 始まってから5年以上、継続的に成果を出せているか
(4) トップがきれいなストーリーだけでなく、数字について語っているか。
(5) 現地に行ってみて1日定点観測して、自分の実感としても変化を感じるか。

<第7節 潰される成功事例>
民間が努力を重ねて作り上げた成功事例もつぶされることがある。成功したことにより注目され次の弊害が起こる。①成功事例の見学により疲弊。②講演会ラッシュにより地元トップの不在、③モデル事業化により補助金漬けにされ、身の丈に合わない経営を行ってしまう。
一過性の注目を集めることに重点を置くのではなく、地味でも常に磨き上げ、情報を現場から直接発信していこう。

【第二章】  モノの使い方 使い倒して「儲け」を生み出す

<第1節 道の駅>
道の駅は地域の「連係機能」「情報発信機能」を期待して、約8割は行政が設置している。しかし、そのほとんどが赤字または、自治体の補助金等により黒字に見せているだけである。その理由は①自治体主導の税金で開発されるため、出店ハードルが低く、経営計画がズサンになりがちである、②設備投資が過剰になる。③行政主導により委託者は責任が希薄になりがちで「甘え」が生まれやすい。民間が市場経済にのっとったうえで稼ぐことが理想である。

<第2節 第3セクター>
地方自治体が出資して作る「第3セクター」についても同様のことが言える。全体の60%が黒字、40%が赤字である。しかし、約43%が自治体からの補助金、約56%が自治体からの委託料を受けている。行政への依存体質により地元自治体への財政的負担となる。

<第3節 公園>
地方が持ち、活用の仕方によっては唯一価値を高められる「公園」。本来は多くの人の利用を目的として作られたが、禁止事項の多い「禁欲的な空間」となってしまっている。今後地域活性化を考えるうえでこのような「減点評価方式」ではなく「加点評価方式」の在り方を考える必要がある。(ex.札幌大通り公園でのビアガーデン、富山市の富岩運河環水公園)
⇒公園の魅力を高めて民間にも開放し、周辺地域の地価向上を目指そう。

<第4節 真面目な人>
「道の駅」「第3セクター」「公園」と地方が保有しているモノについて改善の余地があるのにも関わらず、なぜできないのか。それは過去の常識に縛られた「真面目」な人々のせいである。「真面目に遂行する」だけでは、与えられてきたルールを根本から疑い、自ら周囲を巻き込みながら、組織に修正をかけることなどできない。ではどうすればよいのか。著者は次の点を挙げている。①他と異なることに取り組み、需要を開拓する。②真面目だけのプロセス評価をやめる。③変化を「非常識」で「不真面目」とみなし、潰すない。

<第5節 オガールプロジェクト>
行政と民間が適切に連携して地域の不良債権を稼ぐ債権に変えていく。岩手県柴波町の「オガールプロジェクト」が好例。公共施設は行政が開発するという常識にとらわれず民間主導で公共施設を開発した。「オガールプラザ」は産直、居酒屋、学習塾、歯科など様々なテナントが入っている。その中に年間10万人が訪れる図書館が入っている。ちなみに図書館もテナント料を支払っている。こうした公共施設と民間施設の両方を立てる自治体は多いが、ほとんどが失敗に終わっている。オガールプロジェクトが成功した要因として行政主導による予算ありきの公共施設ではなく、収支計画を策定し返済できる金額で立てているから。
今後は行政と民間が連携して地域活性化策を打ち出していくべきである。

【第三章】ヒトのとらえ方 「量」で補うより「効率」で勝負する。

<第1節 地方消滅>
地方創生政策の発端となったのが、元総務大臣の増田寛也氏が代表を務める日本創生会議が「地方消滅」を唱えたからである。著者は、「自治体消滅」=「地方消滅」と地方自治体と地方を同一視している点を問題ととらえている。また、問題の解決策をすべて人口問題にすり替え、人が増えればすべて解決すると主張しているに問題があるとしている。

<第2節 人口問題>
人口は増えても減っても問題である。戦後日本のベビーブームの際には食糧難から人口抑制政策がとられた。
過去の教訓からもわかるように人口を闇雲に増加させるのではなく、経済産業政策をもって乗り越えていくしかない。(生産性の向上等)

<第3節 観光>
人口問題は「定住人口」のみで議論されがちだが、「交流人口」増加のため、地域活性化の手段として「観光」が挙げられる。
地方の観光産業は地縁事業であり、家族型事業であるという側面が強く影響しているため、横並びルールが重視されやすい(営業時間の統一)。それをふまえ著者は観光消費を増やすために「10万人が1000円使う観光」「1000人が10万円使うような観光」が望ましいと主張している。

<第4節 新幹線>
新幹線は「地域活性化の起爆剤」として期待されることが多い。交通網の整備は都市との利便性を高めることができ、一見すると「つくって地域活性化」と思われがちだが、今後は「いかに活用できるか」が重要。宅地としての魅力が高い長野県軽井沢市、国際大学や県立国際情報高校の誘致で学術集積している新潟県大和町(現在の南魚沼町)のように「選んでもらえる」地域づくりが必要である。人が新幹線に乗ってやってくる「目的」づくりを意識していくべきである。

<第5節 高齢者移住>
「地方消滅」を唱えた日本創生会議は、都市圏の高齢化が深刻なため、高齢者の地方移住を推奨、提言した。高齢者の地方移住は医療と福祉の充実が必須。日本創生会議の提言としては、「地方にはある程度ベッド数に余裕がある。高齢者を集めてその余剰を活用すればよい。」
著者は、人口移動だけでは解決せず、社会制度自体の見直しが必要であり、地方においては高齢者から積極的に選択される地域づくりが重要であると主張している。

【第四章】カネの流れの見方 官民合わせた「地域全体」の黒字化する

<第1節 補助金>
補助金はありとあらゆるものに使われているが、地域活性化として際立って成功しているものは少ない。地方創生にとって必要なのは「おカネ」そのものではなく、「おカネを継続的に生み出すエンジン」である。そもそも補助金を活用するということは「利益を出せない」事業ばかりであり、支給後に必要経費に消えてしまい終わり。重要なのは、1度資金を入れたらそれをもとに地域内経済を取り込んで回り続けるエンジン的存在。
地方創生にとって必要なのは、資金調達が可能な事業開発であり、民間が立ち上がって市場と真正面から向き合い、利益と向き合って取り組むこと。補助金に頼っては「衰退の無限ループ」陥ってしまう。

<第2節 タテマエ計画>
補助金だけでなく、地方がお金を無駄遣いしてしまうものとして形ばかりの「タテマエ計画」が挙げられる。こうした計画を立ててしまう理由として、①計画段階のため情報が少ない。②予算獲得が目的化してしまう。③地域住民の合意を尊重するため。第5章1節でも触れるが、タテマエでの計画のため最悪の事態を想定できず、大きな失敗となってしまう。

<第3節 ふるさと納税>
地方活性化×カネの議論をするうえで欠かせない「ふるさと納税」。都市部に住んでいながらふるさと(地方)に納税でき、返礼品として地方の産品を手に入れることができる。   著者は次の点から地方の衰退を招くと指摘している。①実質タダ同然で返礼品が手に入るため、返礼品の安売りが起こる。②地元産業の「自治体依存」が進む。③一時的な歳入にも関わらず、予算としてあてにされてしまうため、歳出拡大の懸念がある(使い方が下手だから地域活性化につながらない)。

<第4節 江戸時代の地方創生>
江戸時代の二宮金次郎が行った地域活性化策について紹介。(ex.薪や菜種油の燃費の向上、生活金融、基金、投資、融資)
過去の地方創生の取り組みを教訓として、地域内経済の好循環の仕組みづくりが急がれる。

【第五章】 組織の活かし方 「個の力」を最大限に高める

<第1節 撤退戦略>
「撤退戦略」とはある事業がこういう条件を満たさなかったら中止、当初の計画である、この水準を下回ったので撤退することである。地方活性化基本計画の中でこの「撤退戦略」の書かれているものは少ない。なぜなら、はじめから失敗を想定した計画は作れないし、事業途中で失敗したとしても責任の明確化を逃れるためである。
こうした撤退戦略を設定していない場合、2つのリスクがある。①失敗したときの傷が深くなる。②最初から撤退戦略をできない事業はそもそも失敗しやすい。地域活性化事業では成功することとともに、大きな失敗をしないことが重要。

<第2節 コンサルタント>
前述の撤退戦略を盛り込んだ基本計画を設定できない理由として計画の立案自体を「コンサルタント」に丸投げしてしまうからである。結果責任を負うことのない外部の人たちに「計画策定」を任せること自体が失敗を招く要因である。なぜなら次の3つの理由から失敗をしやすい。①成功のために必要なのは客観的助言ではなく主体的な実行であるから。②自治体の基本姿勢は「他力本願」であるから。③税金が資金であるため責任の所在が不明確のため、結果三流でも構わない。こうしたことにならないように「自分たちで考え、行動する「自前主義」が求められる。

<第3節 合意形成>
地域活性化を行ううえでなぜ間違った意思決定をしてしまうのか。それは地域全員の「合意形成」を前提として意思決定しているためである。そのため、反対意見の少ない無難な政策となってしまう。集団での意思決定が必ずしも正しいとは限らない。

<第4節 好き嫌い>
誤った意思決定をする場合には、そもそも合理的な視点さえも失っていることがある。ものごとを見るのではなく、発言した人の好き嫌いによって「よし悪し」を判断してしまっている。それを防ぐために著者は、「定量的議論の機会」と「柔軟性の確保」を「初期段階」で確認するのが重要と述べている。

<第5節 伝言ゲーム>
都道府県単位に行政拠点を設置し、社会を管理する仕組みは事実上崩壊していることを示唆。「情報を伝達する」「事業を実行する」観点から無理がある。正確に情報を伝達する観点としては、実践者ではない役人による伝達のため①役人フィルターが入る、②補助金のもらっていない民間の団体に詳しくない、③失敗事例を失敗としない。著者は、直接的に国が地方事業に取り組むか、もしくは地方が自由に事業に取り組む権限を与えるほかないと主張している。

<第6節 計画行政>
組織がとんでもない結論を導く出す理由として「綿密に計画された計画があれば成功する」という思い込みがある。なぜ計画通りに実行しても成功しないのか。その理由としては、①戦略や計画が「対症療法」にしかなっていない、②達成しても無意味な「目標計画」がひとり歩きしている。③根本を疑わず、改善ばかりを行う。
自治体の戦略を無視しても自分たちが必要と考える事業を小さくはじめ実績を上げてほしい。

<第7節 アイディア合戦>
 地域活性化を行なううえで新規性のあるアイディア合戦を行うことが散見されるが、否定も制約もされないブレストは、真に地域を盛り上げていこうとしている人にとっては、無駄である。本当に必要なのは実践と失敗のうえに生まれる「本当の知恵」である。

第5章を通して、著者は地域活性化を進めるうえで様々な壁が存在していることを指摘している。その壁を支える多くの人が「常識」縛られ、根本から考え直さず、「そういうものだから」と思考を停止している人である。

【感想・批判】

地方創生政策によって行われてきた事業を主観的に評価、問題点を指摘している。事業の批判を通して、自治体の体質(特徴)などをしっかりと分析している。
あくまでも地方自治体には「小さな政府」としての役割を期待し、民間主導の若手実業家による事業展開に期待している。
個人的には第5章の定量的な議論と柔軟性の重要性を説いた部分が印象的。論理的な意思決定よりも「好き嫌い」での意思決定は地縁を重視する地方の典型的な特徴だと感じた。
現在、「新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金」が脱コロナに向け全国各自治体必死にアイディアを振り絞って政策を立案している。地方創生の1プレイヤーとして本書に挙げられた5つの視点を意識したい。

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