地域で楽しく過ごすためのゼミ 第3回 2/2

前回の記事に続き、2人目の要約になります。

─<以下要約(守岡分)>─

本の選定理由

常々地方創生について勉強をしたいと思っていた。書評で初心者向けとあったので深く考えず、第一印象で選んだ。また今の仕事に就いてSDGsについても目にする機会が増えていたものの、全く知識がなかったので基礎知識が得られれば、と思った。

この本の主題

持続可能な地域を前例主義に基づく表層の模倣による地域づくりではなく、科学的アプローチ(SDGs)に基づく再現可能な方法による地域づくりを提唱 している。前半は SDGsと地方創生の基礎を理解するため、データとともに 細かく論述し、持続可能な地域 を実現するためには「生態系の再生」が不可欠であること、また再生 に必要とされる4つの要素 「土・陽・風・水」 を挙げている。後半でその4つの要素の意義とそれらの環境整備の方法論を、最後に日本人が求める「真の豊かさ」があふれる地域の暮らしについて、著者の考察で締めくくっている。

章立て

大きく分けると、パート1の知識編、パート2の実践編、終章の3つで構成 されている 。それぞれ関連の深い箇所に第一線で関わっている識者へのインタビューと持続可能な地域を実現するための6つの技術を紹介している。

パート1 知識編 地域の持続可能性とSDGsを理解
【第1章】導入 SDGsと地方創生
【第2章】現状認識 日本と地域の持続可能性実態
【第3章】提言 地域の生態系を再生する
〈技術2〉地図を描く技術
パート2 実践編 持続可能な地域づくりを実践する
【第4章】土 つながり協働し高めあう「地域コミュニティ」
〈技術2〉対話の場をつくる技術
【第5章】陽 道を照らしみんなを導く「未来ビジョン」
〈技術3〉 声を聴く技術
〈技術4〉未来を表現する技術
【第6章】風 一人ひとりの生きがいを創る「チャレンジ」
〈技術5〉問いを立てる技術
〈技術6〉発想する技術
【第7章】水 未来を切り拓く力を育む「次世代教育」
【エピローグ】地域にある真の「豊かさ」

各章の要約

パート1 知識編 地域の持続可能性とSDGsを理解

【第1章】導入SDGsと地方創生

1.SDGsとは
2015年9月の国連総会で採択された全世界規模で取り組む目標
Sustainable 持続可能な
Development 開発
Goals 目標

2030年までに 17 ゴール 169 ターゲットの達成を目指している。それぞれ独立して存在しているものではなく、互い に密接に関連している。著者は「SDGsとは住民、事業者 、行政職員など、地域内外の様々なステークホルダー(利害関係者)が自分の立場・領域を越えてともに幸せな地域の姿を 描 き 、その実現に向けてみんなで協同して取り組むチャレンジ」と位置付けている。
持続可能な地域をつくる、ということは、地域への負荷を減らすために生活や事業を見直し、ごみやエネルギー使用量を削減して森林や海、川の環境保全などを行ってスリム化 を図り、また自然資源から生み出す価値を高め、より効率的に活用するために技術や生活のイノベーションを起こし て 価値が負荷を上回る状態にすることである。

2.地方創生と SDGs
2015 年の国連採択を受け、日本国内では2016 年より担当部門が設置され、国としての指針・ 8 つの優先課題が設定されている。 2017年に「まち・ひと・しごと創生(地方創生総合戦略 2017 改訂版)」が閣議決定され、地方創生実現のために SDGsを推進していくことが明確に述べられている。

※そもそも地方創生とは…
「国民一人一人が夢や希望を持ち、潤いのある豊かな生活と安心して
営むことができる地域社会の形成」のこと。3本の矢を政策の柱としている。
①情報支援 ②人材支援 ③財政支援

しかし、多くの自治体は状況を改善できず苦しんでいる。地域に存在する様々な分断(官民・縦割り組織・現在と未来・地域間・世代・ジェンダー)が原因。 これらの分断を越えるために未来から考える思考方法、いわゆるバックキャスティング= SDGsアプローチが役立つ。それは次の 5 点である。
①未来地図 未来への旅路をナビゲート
②共通言語 組織、セクターを越えた対話
③地域づくりの入口 みんなが必ず関心をもてる169のターゲット
④ものさし 世界レベルで地域の現状やSDGs進捗をはかる
⑤チェックリスト 誰ひとり取り残さないための検討リストとして

【第2章】現状認識 日本と地域の持続可能性実態

SDGsの17ゴール別に日本と地域が直面している課題(ローカルイシュー)を 55 個挙げ、身近なものとして理解できるようになっている。

【第3章】提言 地域の生態系を再生する

生態系といっても自然生物のそれではない。生物学者福田伸一の著書によると、生物(生命体)と無生物(機械)の違いは、ある機能が欠落したときに バックアップが働き何らかの方法で補完されるかされないかである。そして入れ替わりの過程で欠けた機能を他が埋め合わせ、全体を最適化する仕組み
が生命体には備わっている、としている。地域とは動的平衡状態にある1つの生命体であると同時に無数の生命体が集まり、繋がり、循環している生態系である。「持続可能な地域」とは、新陳代謝が活発で、外からみて大きな変化はなくても、時代環境の変化に応じて変化を遂げる「生きているシステム」が存在する地域のことである。
日本の多くの地域でもこの生態系が崩れつつある。その異変が目に見える形で表れているのが日本各地で急激に進む「人口減少」である。2050年には 2010年比で20%以上減少して1億人を割り、2110年には5000万人を割ると予測されているが、その減少率は地域間で大きな差がある。福島県も例外ではなく、2015 年から2045年での減少率が30%以上といわれている。様々な要因が複雑に絡み合って生じているが、次の 3 点に集約できる。
①若者(出産適齢世代)人口の減少
②既婚率(人口当たりの既婚者数)の低下
③夫婦あたり出生数の減少
これらによってさまざまな課題が引き起こされる。 負の連鎖マップとして整理してみると このような形になる。(noteでは図は省略)

ここから5つの負のループが見えてくる。
①経済衰退
②生活困難
③孤立無援化
④教育水準低下
⑤環境破壊

多くのループに関わり、地域課題の深刻化、悪化を引き起こす2つのレバレッジポイント(課題に関係する大きな障害、影響を与えている事象、状況改善のカギを握る出来事)がみえてくる。
①コミュニティの弱体化
②若者の流出、地場産業の衰退
これに「東京という万能生命体」が人口と経済の一極集中と万能性の高い文化によって地方ならではの魅力的な店や仕事が死に絶え、 日本の地域の多様性を奪っている。
負のスパイラルを解消し、地域に人と経済の流れを生み出し、「持続可能な
地域 」 を実現させるために4つの生態環境が必要である。

パート2 実践編/持続可能な地域づくりを実践する

【第4章】土 つながり協働し高めあう「地域コミュニティ」

住民同士がつながり、豊かなコミュニティが生まれることは、持続可能な地域の実現にとっても、多くの効果・効能(結果の質)がある。様々な研究を参考に、地域に強いコミュニティが存在することによって5つの効果をもたらす。
①幸福度を高める
②生命力を高める
③生産性、創造性を高める
④生活防衛力を高める
⑤経済的利益を生む

コミュニティを育み、関係の質を高めることで成果の質を高める。そして丁寧に設計された良質な場を増やし、多くの人に対話の面白さと意義を体験してもらうことが行政の役割である。

【第5章】陽 道を照らしみんなを導く「未来ビジョン」

地域の未来を明るく照らし、この地で暮らす人の気持ちを温め、希望をもたらすもの。
未来ビジョンを描くのは、リーダーの仕事でも、行政の仕事でもなく、地域住民みんなで、未来を語り、描くことが持続可能な地域づくりには欠かせない 。 ここでの行政の役割は、ビジョンづくりに様々な立場、役割で関わるチーム作りを行うことと地域の現状とその先の危機的な状況を正確に把握しておくこと、行政施策へと落とし込むことである。

【第6章】風 一人ひとりの生きがいを創る「チャレンジ」

未来ビジョンが明確になり、共感が集まると、地域が動き始める。ほんの微かな「風」が大きな嵐となれば地域は変わり始める。豊かな人生には自己実現、チャレンジ=風が必要だ。風をおこすには熱が必要なように対話を通じて人と人との化学反応を起こす場=ワークショップが欠かせない。
ワークショップを通じて「自分が問い続けたい、熱を持って解決したいと強く願う課題」=イシューを定め、その課題解決のための発想→具体化→チャレンジを始める。行政の役割は チャレ ンジの伴走だが公務員は異動があり、計画が頓挫することも多い。機能横断型チーム、タスクフォースを作ることをすすめている。

【第7章】水 未来を切り拓く力を育む「次世代教育」

地域のあらゆる生態を潤わせ、生きる力を充たし、大きな世界に導く「水」すなわち次世代を育む教育である。SDGsとは子どもたちの日常生活と未知なる大きな世界をつなぎ、将来進む道へと誘う17本の川である。大きな世界へ好奇心を抱き、挑戦する子どもたちをどれだけ生み出すことができるかで、地域の未来が決まる。一方、子どもたちを取り巻く環境は激変している。地域の「育の生態系」が弱体化し学習機会と意欲の格差が広がり求められる力が変わる。「対話型デザイン教育」は大きな可能性を秘めている。

【エピローグ】地域にある真の「豊かさ」

貨幣経済だけに 100 %依存するのではなく、自分が隣近所や地域社会に提供できる「価値」を磨き、価値をまず自ら「ギブ」 し、関係性を築くことで得られる複数の経済を組み合わせて生きるのが地域の生活であり、イ ンターネットやテクノロジーの進化により、その可能性がより広がった。これと時間的ゆとりが加わり公私の別なく仕事を楽しむ「百姓的生活」自分だけの働き方ができる。実現可能な実に豊かな働き方である。「身体の知」「機械の知」 身体 と技術を融合した手ごたえあふれる暮らし方ができる豊かな環
境が地域には存在している。

感想・批判

第一印象は「大いなる理想をSDGsの理論で達成させるための指南書」だが、机上の空論という訳でもないと思った。結局、地方創生というものがうまくいくのもいかないのも気持ち次第、いかに楽しく前向きに取り組めるかである。そのためのヒントがたくさんつまっていると思った。ただ、ちょっと詰め込みすぎていて、ちょっと頭がついていけなかった……。

─<以上要約>─

ゼミ企画者が選ぶ関連図書

〈科学哲学への招待〉
今回の課題図書は筆者がこれまでの活動で積み上げてきた知見を、具体的な方法論として一冊の本にまとめたものである。そのためであろうか、本書の端々で科学的アプローチの重要性を説いているものの、本書の骨格となる論旨自体はそこまで科学的とは言い難い内容となっている。論旨の材料自体は科学的知見に基づいているものの、論旨の骨格自体が科学的な方法によっていないように思う。
ただ、こうは言っているものの、科学とは何かと問われたら、答えるのが難しいのも事実である。現状、私が科学とは何かと問われたら、おそらくカール・ポパーの反証主義を挙げるだろう。
このポパーを含め、科学とは何かという問いに輪郭をあたえてくれるのが科学哲学という分野である。ちくま学芸文庫にうってつけの入門書があるので興味がある人は是非。


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