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優しみあまる必レス男子−好きにならずにいられてよかった〈10〉

好きにならずにいられる理由を探してホッとしている。

好きになってもらえるはずがないから、傷つく前に早々退散。
ホントはどーでもいい理由にかこつけて。

好きにならずにいられてよかった、恋に落ちてもよかった瞬間―。


気になる男の子にはいつも質問攻めにしがちだ。

好きな食べものは? 兄妹はいる? ヒマな時間は何をして過ごしてるの?
そんなことを訊いては、ほほーんと査定しているのだった。

といっても、それは「私を好きになってくれる可能性が少しでもあるのかどうか?」という一点にのみ、これら質問の真の目的はあるように思う。

じぶんと食の好みがドンピシャだったひき肉好き男子に運命を感じたこともあるし(よろず女子百景〈運命のひき肉〉編参照)、弟が二人いる姉である身としてはお姉さんがいる人なら付き合いやすく感じてくれるかも? と少し期待値が上がったり、ヒマな時間をただしょーもなくダラダラ過ごしているような人ならば「私もだよ!」と親近感が湧いて意識高い系女子ではなくユルいままのじぶんでOK!とGOサインを出せる。

だからそれらが分かりどこか安心できるまでは、ノンストップで攻めに攻めてしまうのだ。質問で。

もっと女性らしい別の攻め方をしたらいいのに、と思う。髪の毛を結んだりほどいたり、ちょっとのボディタッチでもすればいい。それなのに、そんないつ正解が出るか分かんないクイズ、誰も挑戦したくないだろうに。正解したとしてもテッテレー! 当たるのは“私”なのだし。そんな重たい商品要らんよね。

だけど大抵の子はそんな愚問の真相など知らずに素直に答えてくれるのだった。

先日、とある飲み会で出会った男子もそうだった。
いかにも育ちが良さそうな優しく誠実な人当たり。見た目は甘いのに、キリッと爽やかな好青年。それはまるで純米酒でありながら大吟醸……いや、もはやあれは「澪」!

“ほどよい酸味とほんのり甘い味わいの、新感覚のスパークリング清酒”「澪 (みお)」−宝酒造株式会社

とにかく飲みやすくっておいしくて、シュワシュワ飲み干すうちに酔ってしまう。「あゝなんて甘いんだもっと飲みたい!」と思っても、コンビニでよく売ってるサイズは一本たったの150mlで税込み300円強! うぅ、憎い小売りの酒畜生!

そんな澪男子と、飲みの席で一緒になって、いつもの慣習で「こんな私にもどこかに取っ掛かりを……!」とその日も質問しながらお喋りしていたのだが、何の流れかおそらく、「どうしたら女性との恋の一歩が始まるのか?」といった質問に彼は、こう同じく質問で返してきた。

返信がずっと来てLINEのやりとりが終わらないことってあるじゃないですか?

え? あるの?(ないよ私は!)

そういう子とは、こっちから「じゃ、ごはん行く?」ってなりません?

いや、なったことないよ!!!

ないんだよぉお。メッセージのやり取りなんて、すーぐ終わるもの。だいたいがあの、憎っくきスタンプ「👍」で終了かけられるもの。もう私にはこのスタンプがこう「👎」見えてるけどね……。

だけど、世の女子たちは、うまーぁく返信し続けて、「じゃ、ごはん行く?」を引き出してるんだ。そう思ったら先代の女子たちに深々と頭が下がる思いだった。

私にはそんなスキルもポテンシャルも、ない。ならばせめて、人生で男性から「👍」スタンプをもらった数をカードで集めて20個たまったら「じゃ、ごはん行く?」引換券に変えてもらえないだろか。2.5回ごはん行く分くらいはたまってると思うのだが……。ダメだろか?

そうしてその日もなんの始まりもなく飲み会は終了したのだけれど、翌日、澪氏からは律儀にお礼のメッセージが届いていた。

昨日はありがとうございました。たくさんお話ができて嬉しかったです☺

いい子だなぁ。「私も嬉しく楽しかった」旨を返信。すると、

ホント楽しかったです☺

おっおう……そっかそーか。あの場が、だよね? うん。"私"とたくさんお話ができて嬉しかったホント楽しかったワケじゃないよね。うん、大丈夫そこは。いくらなんだってそんな拡大解釈しないよ。

と、話題を変えるべく「私は帰宅後しこたま腹をくだし悶絶していました」と返信。しかしここで、ささやかな欲が出てしまったのがいけなかった。「澪氏は大丈夫だった?」と質問を文中に入れてしまったのだ。

大丈夫でした! 大丈夫ですか?

し、心配し返してくれたぁあ゛ー。号泣!

こんな一度しか会ったことのない男性に優しくされたのは初めてかもしれない。でも、この優しさに付け入ってはいけないのだ。いつもそうなのだ。ダメだ脈ナシ! と諦めつつ、ちょっとした嬉しい言葉をギューッと掴んで離さないで、もしかしてもしかしたら! ちょっとくらいは? 希望があるんじゃ!? と隙を窺ってしまうのだ。断ち切らないと……好きにならずにいられないと!

っていうか。

何なの澪氏って? すっごい逐一返信をちゃんと返してくれるんですけど! ははん。いや、もしかして、なるほど。

「返信がずっと来てLINEのやりとりが終わらないことってあるじゃないですか?」の原因って、キミが作ってない? キミってばそうやって優しく必ず返信するから、女子はなんか期待しちゃうんだよ。それでまた返信しちゃうんだよ女子は。……今の私のようにね!

あー危ないあぶない。はい、終わり。こんな“優しいので必ずレスポンスをしてしまう”男子に色めき立ってる場合じゃない。

それに何より恥ずかしい。彼に返信し続けた先にいつしか彼から「じゃ、ごはん行きます?」って言われるのが。だってそれって絶対、気遣いだもの! そんなことで浮かれる辱めったらない!

もう心の中で「スミマセンでしたスミマセンで……」と連呼をしながら、彼へ最後のメッセージでありサヨナラでもある返信をした。

「ならよかった。私もひとしきり唸ったあとは治まりました。笑」

うあーん。バイバイ、スパークリング清酒くん! ひとときでも夢を見させてくれてありがとう。キミとだったら、超楽しいデートができたと思う。東京は下町・谷根千あたりを散策して、商店街食べ歩きして、野良猫インスタに上げて……たぶんどっかのタイミングで「あっスカイツリー♡」って見つけて二人して見上げた瞬間、キミってば手をつないでくれて。とかそんな妄想、しちゃってホント、ホントごめんなさいっ!

それきり、彼から往信はなくて。これでよかったのだと思っていた。

それなのに。しばらく経ってそれはやってきた。

回復してよかった☺

……優しみ。

けれどもうそれ以上、何も思わなかった。いや、考えないようにした。そしてメッセージ画面をそのまま閉じた。だってキミはきっと、新感覚の清酒の現人神(あらひとがみ)か何かなのでしょう? 万人に愛を与える高名な存在を独り占めしようとしちゃぁいけない。しようとして出来るものでもないハズで。

ならばよかった。人であって人でない……そんな人を、好きにならずにいられてよかった。

だーけどなー。もうちょっと早い段階で「じゃ、ごはん行く?」を出してくれてたらなー。行ーきたかったなー。谷根千ごはん&手つなぎデート……!涙


おしまい



ミームの箱船|大島智衣

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