トタンが香炉を使ったと

 ボンドでフラフラ?なにいってんの、タイムスリップでもして来たわけ?うるせえサッポロ 俺は昭和の人間だ文句あるか、平成生まれだろ、いいんだ俺は昭和生まれで、もういいよもういいよトタン それより早く吸って気持ちよくなろうぜ ほらこうチューチューって、え公金?おいつまらない冗談に付き合ってやるほど俺はひまそらじゃねぇぜ、お前つまんねえから札幌帰れよ俺がボンドで飛んでるうちによ、うるせえよトタン 偽物のシンナーみたいなのつかいやがって相変わらず貧乏くせえなお前は、おいおい接着剤を使う美学もわからねえのか、俺にはわからねえよ、じゃあ教えてやるよサッポロ 接着剤ってのはなぁくっつけるためにあるんじゃないんだ 自分と自分の魂とを離すためにあるんだぜ 浮遊するんだ 煙なんだ ミュージックなんだぜ、ちょっとそこの窓あけてちょうだいよ あたしこのままじゃシックハウスになる、ユキコ俺の今の決め台詞聞いたか?聞いてないわよ今目覚めたのよ ねえサッポロ窓開けて、いやだよユキコどうせタバコ喫うだろ、いいから早く開けてトタンでもいいわよ、はい灰皿、ありがとうトタンは気が利くのね、でも窓開けないで喫ったらわたしシックハウスになっちゃうよ それに昨日雷落ちたでしょわたし雷の匂いがわかるの、昨日のパーティーのがまだ残ってるみたいだな おいトタン雷の匂いがまだ残ってるか確かめてみろよ、しゃあねえなお前ら仮1つずつな ほら窓開けたよ、ありがとうトタン ユキコうれしい、お前のためじゃねぇよ 俺のためだよ、それよりキッテルが戻ってくる前にそのシュミーズ着とけよ、サッポロこいつの弟はお姉ちゃんが素っ裸でもシダ植物の葉っぱみたいな能面ヅラで中に入ってくるぜ、ああ知ってるよ広大な土地みたいな面長のツラのな、ちょっとキッテルに聞かれたらあなたたち陰険だと思われるわよ、お姉ちゃんずいぶん年増になったね、キッテル 入る前に紙風船転がせって言ったでしょ、だってそれ戸締まりに気を遣う脱走兵くらい意味わからないんだもん、待って忘れてたわたしまだ眉描いてないみんな出ていって、今さらいいだろユキコ 左腕にカバーも巻いてないし、暑いのよこの部屋 汗が傷跡に染みる方が嫌よ、でもこの部屋 雷の匂いがよく似合ってるよね、そうね、キッテル 雲を裂くように髪の毛の隙間に差し込むこの匂い 私たちと、うんお姉ちゃん この部屋にぴったりだね、なんだこの兄弟気持ちわりいなそう思わねえかトタン?いこうぜサッポロ、えどこにだよ、お取り込みのところすまないキッテル ジュラルミンケース持ってきてくれたか、うんカプセル百錠でいいんだよねトタン、またキッテルを巻き込んだのか おい首かしげてんじゃねぇぞトタン、ユキコ キッテルの前で湯気を立てるなって なあサッポロ、そうだな蒸し暑くなるしな、トタンさんこれテーブルに置いとくね、おうありがとな 今度一緒に撞球やろうな、うんじゃあサッポロさんもまたね、おうまたな、ユキコまだ怒ってんのか湿疹がひどくなってるぞフルコートでも塗るか、ねえちょっとこっち来てトタン、はいはいわかったよってくっせえなんだこれ、気付け薬 昭和生まれなんだから知ってるでしょ、あ さっきの聞いてたのか、ああボンドの美学がどうのこうの言ってたわね あれどう思ったサッポロ、まああれは聞いてられなかったよ 中指で口を塞ぐかフロントガラスに鼻が付くまで顔面をへばりつけさせて すぐにでも黙らせてやりたかったよ、サッポロてめぇ、なんだよ野生に帰るのか籠の中で生きるのかも決められないハムスターみたいなハンチク者が、その辺にしときなサッポロ、いいんだよユキコこんなやつ置いてさっさとハネムーンに行こうぜ、あらそんな話聞いてないわよ ドアの取っ手も回ってくれないわよ、なんだか全員やかましいな気取ったこと言ってんじゃねぇぞ、おいトタンなんだよその黒いカバン、ねえサッポロあれなに 天井になにか浮いてるよ、あれは 小さな土鍋?香炉だよ香炉 宮殿から持ってきたんだよ、まさかトタンやめろそれだけは、嘘でしょ香炉を使う気なのやめてトタンお願い、浮かび上がらせてしまったらもう後戻りはできねえ 待ってもくれねえよあの香炉はケツが決まってるタレントみたいにここにいられる時間も限られてんだよ、ねえサッポロわたしたちどうすればいいのもう終わったも同然じゃない、ユキコ 手のひらを上に向けて雨に気づいたときの仕草をしろ、なにいってんのそれをしたらあなたは まさかひとりで死ぬ気なの?ダメサッポロあなたがそれをして、いいからお前だけでも助かれそしてキッテルに伝えろトタンが香炉を使ったと。



銭ズラ