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高校の探究学習に企業がコミットする意義 《後編》

高校教員時代の最後の10年間、探究学習に関してさまざまな企業の方にいろいろな形でご協力いただきました。

最近、元同僚の教員からメールをもらいました。そのメールの中で、企業側にとっての学生の探究活動に協力する意味に関する話題があり、これをきっかけに自分の考えを整理してみました。

「こんな意義を感じていただけていただけていたらありがたいなぁ」「そういう関係になれたらいいなぁ」という私の希望・期待を書いたものです。企業側にいらっしゃる方からご批判、ご指摘をいただければと考えています。


◾️そもそも高校での探究学習とは

これについて、前編で書かせていただきました。


◾️企業側にとっての意義があるとすればどんなことか。

① CSR(Corporate Social Responsibility・企業の社会的責任)の観点

CSR活動の範囲は、

環境に配慮した商品の開発や生産体制の構築、サプライチェーンにおける人権侵害の防止、法令順守や情報開示を通じた透明性の確保から、自然保護や社会貢献のための活動まで、ビジネスの内外における多岐に亘る活動

大和総研の用語解説サイトWORLD「企業の社会的責任(CSR)」
https://www.dir.co.jp/world/entry/csr

…と説明されるように広いですが、企業の学校への協力は、この中の「社会貢献活動」と位置付けられるでしょう。

そして、経産省は、CSRは信頼を得るための企業のあり方、と説明しています。

「企業の社会的責任」とは、企業が社会や環境と共存し、持続可能な成長を図るため、その活動の影響について責任をとる企業行動であり、企業を取り巻く様々なステークホルダーからの信頼を得るための企業のあり方を指します。

経済産業省「価値創造経営、開示・対話、企業会計、CSR(企業の社会的責任)について」https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/kigyoukaikei/index.html

実際のところ、協力いただいた企業への信頼感が増すことは確かです。

見学や調査に積極的に協力していただけると、参加した生徒たちの信頼感が増し一種のファンになる例を見てきました。また、生徒から話を聞く教員や保護者のイメージも良い方向へ動くことが十分予想できます。

企業の方は、ビジネス内での責任を果たす業務でお忙しい中を、時間を割いて協力いただいているわけですが、結果として社会からの信頼を高め、確実に応援団を増やしています。

ただ、探究活動に協力していただく意義はこれにとどまらないと考えています。

② CSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)経営の観点

それがこの観点です。

CSV経営は、次のように説明されます。

 CSVとはCreating Shared Value(共通価値の創造)の略で、企業が社会的な価値(社会課題の解決や社会への貢献)と経済的な価値・利益の両方を創出するという考え方のことを指し、ハーバード大学のマイケル・ポーター教授が提唱しました。CSVは、企業の利益よりも社会への貢献を優先するボランティア精神のようなものではありません。社会貢献と企業利益をトレードオフとして捉えるのではなく、これらを両立させることで企業の競争力に資することを目指します。

 CSVの実現には、三つのアプローチがあるとされています。一つ目が製品・サービスと市場の見直しであり、製品・サービスの提供を通じた社会課題の解決です。二つ目がバリューチェーンの生産性の改善であり、原材料の調達、製造、製品・サービスの販売といったバリューチェーン全体を見直し、サプライヤーや地域コミュニティにも価値をもたらすことです。三つ目が共通価値の創造に自社単体だけで取り組むのではなく、サプライヤーや関連企業などと産業クラスターを構築することで、ビジネス環境の改善に共に取り組んでいくことです。

 CSVへの積極的な取り組みが、企業の持続的な成長や中長期的な価値向上につながっていくと考えられます。

大和総研の用語解説サイトWORLD「共通価値の創造(CSV)」
https://www.dir.co.jp/world/entry/csv

3つのアプローチとして書かれているもののうち、特に1つ目の製品・サービスの提供を通じた社会課題の解決に、CSRにはない特徴があると言えます。


この、CSV経営という観点からも「探究活動は企業側にとって意義がある、あればいいなぁ」、と私は考えています。

前編でお伝えしたように、探究活動は現実の社会における問題から課題を発見し、多角的に検討を加えて、解決策を探る活動です。

その活動を進める上で、企業に現状を尋ねしたり、解決案へのコメントを求めたりします。

とすれば、

1) 学生ではあるが消費者であり地域住民である人が、自社に関係するどのような問題を課題と感じているのかを知り、自社の課題認識の正しさを確認したり、軌道修正をすることができます。→これにより自社のCSV的競争力の向上が期待できます。

2) 自社の取り組みを紹介することにより自社の価値創造活動への理解者を増やすことができます。→これにより意欲ある入社希望者の増加が期待できます。

3) 直接入社希望につながらなくとも、CSV活動の価値を理解する社会人の増加につながります。→これによりCSV活動に取り組む企業に対する社会的評価が向上することが期待できます。

これらの期待が現実のものになれば、企業の持続的な成長や中長期的な価値向上というSCV経営の目的に直結します。

ただし、
これに探究活動に取り組む生徒たちが真剣であることが前提です。

自分が将来進む道の「探求」と重ね合わせながら自分ごととして行う「探究」活動となっているならば、上で書いた企業側にとっての意義は十分期待できると考えますし、探究活動はそういうあり方となることが理想です。


責任投資原則や倫理的消費という概念が一定の存在感を持つようになり、企業も統合報告書を通じて非財務情報を公開して評価を受ける時代になっています。

共通価値の創造という点において、企業活動と学校での探究活動が重なる部分が生まれていると言えます。

探究活動が、共創のパートナーとして企業側にその意義を感じてもらえるものになることを期待しています。


【語注】
・責任投資原則・PRI

正式名称は「Principles for Responsible Investment」で、日本語では「責任投資原則」という。機関投資家が投資の意思決定プロセスや株主行動において、ESG課題(環境、社会、企業統治)を考慮することを求めた6つの投資原則とその前文から成るもので、2006年に国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI)と国連グローバル・コンパクト(UNGC)が策定。当時の国連事務総長であったコフィー・アナン氏が、世界の金融業界に向けて提唱した。

署名機関は専用のウェブサイトで様々な研究やキャンペーン、協働エンゲージメントなどの情報を利用することができ、より効果的、効率的な投資判断や行動ができる。ただし、ESG課題への取り組みについて報告書を原則毎年提出する義務があり、PRIによる評価が一定基準を満たさないと除名の対象となる。

野村證券 証券用語解説集「PRI」
https://www.nomura.co.jp/terms/english/other/A03332.html

・エシカル消費

消費者それぞれが各自にとっての社会的課題の解決を考慮したり、そうした課題に取り組む事業者を応援しながら消費活動を行うこと。

消費者庁「エシカル消費とは」
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_education/public_awareness/ethical/about/

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