高校の探究学習に企業がコミットする意義 《後編》
高校教員時代の最後の10年間、探究学習に関してさまざまな企業の方にいろいろな形でご協力いただきました。
最近、元同僚の教員からメールをもらいました。そのメールの中で、企業側にとっての学生の探究活動に協力する意味に関する話題があり、これをきっかけに自分の考えを整理してみました。
「こんな意義を感じていただけていただけていたらありがたいなぁ」「そういう関係になれたらいいなぁ」という私の希望・期待を書いたものです。企業側にいらっしゃる方からご批判、ご指摘をいただければと考えています。
◾️そもそも高校での探究学習とは
これについて、前編で書かせていただきました。
◾️企業側にとっての意義があるとすればどんなことか。
① CSR(Corporate Social Responsibility・企業の社会的責任)の観点
CSR活動の範囲は、
…と説明されるように広いですが、企業の学校への協力は、この中の「社会貢献活動」と位置付けられるでしょう。
そして、経産省は、CSRは信頼を得るための企業のあり方、と説明しています。
実際のところ、協力いただいた企業への信頼感が増すことは確かです。
見学や調査に積極的に協力していただけると、参加した生徒たちの信頼感が増し一種のファンになる例を見てきました。また、生徒から話を聞く教員や保護者のイメージも良い方向へ動くことが十分予想できます。
企業の方は、ビジネス内での責任を果たす業務でお忙しい中を、時間を割いて協力いただいているわけですが、結果として社会からの信頼を高め、確実に応援団を増やしています。
ただ、探究活動に協力していただく意義はこれにとどまらないと考えています。
② CSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)経営の観点
それがこの観点です。
CSV経営は、次のように説明されます。
3つのアプローチとして書かれているもののうち、特に1つ目の製品・サービスの提供を通じた社会課題の解決に、CSRにはない特徴があると言えます。
この、CSV経営という観点からも「探究活動は企業側にとって意義がある、あればいいなぁ」、と私は考えています。
前編でお伝えしたように、探究活動は現実の社会における問題から課題を発見し、多角的に検討を加えて、解決策を探る活動です。
その活動を進める上で、企業に現状を尋ねしたり、解決案へのコメントを求めたりします。
とすれば、
1) 学生ではあるが消費者であり地域住民である人が、自社に関係するどのような問題を課題と感じているのかを知り、自社の課題認識の正しさを確認したり、軌道修正をすることができます。→これにより自社のCSV的競争力の向上が期待できます。
2) 自社の取り組みを紹介することにより自社の価値創造活動への理解者を増やすことができます。→これにより意欲ある入社希望者の増加が期待できます。
3) 直接入社希望につながらなくとも、CSV活動の価値を理解する社会人の増加につながります。→これによりCSV活動に取り組む企業に対する社会的評価が向上することが期待できます。
これらの期待が現実のものになれば、企業の持続的な成長や中長期的な価値向上というSCV経営の目的に直結します。
ただし、
これに探究活動に取り組む生徒たちが真剣であることが前提です。
自分が将来進む道の「探求」と重ね合わせながら自分ごととして行う「探究」活動となっているならば、上で書いた企業側にとっての意義は十分期待できると考えますし、探究活動はそういうあり方となることが理想です。
責任投資原則や倫理的消費という概念が一定の存在感を持つようになり、企業も統合報告書を通じて非財務情報を公開して評価を受ける時代になっています。
共通価値の創造という点において、企業活動と学校での探究活動が重なる部分が生まれていると言えます。
探究活動が、共創のパートナーとして企業側にその意義を感じてもらえるものになることを期待しています。
【語注】
・責任投資原則・PRI
・エシカル消費