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「終活専門不動産」ディレクター末藤康宏さんに聞く、終活のホントの話(前編) 終活するなら暮らしの土台となる「住まい」を知り、考えることからスタートして

「終活」というと、何を思い浮かべますか?お墓や葬儀の準備をすること、遺言をつくること、家の整理をしておくこと。もちろん、これらは全て大事です。
しかし、高齢者の生活支援関連団体でたくさんの高齢者から相談を受けてきた経験を持つ末藤康宏さんは「まずは暮らしの土台である家について知り、今後の暮らしをイメージすることで安心感を得てほしい」と言います。「終活専門不動産」を立ち上げた末藤さんに、暮らしと住まいに関する終活の重要性について伺いました。

まずは末藤さんのお仕事について確認を……

「終活専門不動産」はどんなサービス?

終活専門不動産のサイトトップ

終活専門不動産は終活の観点から総合的なサポートを行っており、サービスの柱は2つあります。1つは住まいのサポート。家の売買や住み替え、リフォーム、空き家対策などについてお話を伺い、提案や不動産調査、施設の紹介などを行います。
もう1つは暮らしのサポート。介護、葬儀、お墓、相続、死後の手続きについて本人の希望を伺い、叶えられるように提案を行います。お困りの方には、身元保証団体のご紹介も行います。

終活専門不動産を立ち上げる前、私は高齢者サポートの大手事業者で10年間働いていました。そこはおひとりさまや家族がいても頼ることができない高齢者の支援を行う事業者で、葬儀など死後のことについて相談に乗ったり、入院時、施設入居時の保証人を引き受けたりしていました。
数年働いた後に「不動産部を立ち上げてほしい」と言われ、高齢期の住まいや暮らしの相談窓口を担当することに。その経験を活かし、仕事をするなかで感じていた「こんなサポートがあったら理想的だな」を叶えるため、2022年6月に終活専門不動産をスタートさせました。

「終の棲家」については高齢者本人の希望が置き去りにされがち

事業者の不動産部に籍を置いていた頃、住宅支援をするなかで最も気になったのが、ご自身の希望についてよく分かっている人はなかなかいないということでした。
年を取ると身体が弱り、判断能力も落ちてきて、どうしても周囲に判断を頼りがちになります。「もう、あなたに全て任せますから」と。そのような姿勢で不動産会社へ相談に行けば「家を売る」方向で話がどんどん進んでしまいますし、施設へ相談に行けば「入居する」方向で話がまとまります。
でも、ご本人はもしかしたらずっと自宅に住み続けたいのかもしれない。そんな自分の気持ちに気づくことすらできていないのではないか、ご本人の気持ちはどこに行ってしまったのだろうか。最初から関わっている場合は話を聴けますが、施設が決まってから関わるようなときは、「気持ちと違う方向に話が進んでしまっているのでは」と感じることが多々ありました。

もう施設に入るしかないとご本人が思い込んでいても、自宅とまわりの環境をよく精査すれば、自宅に住み続けることが可能かもしれない。もし「自宅に住めますよ」とお話ししたら、ご本人はどうされるだろう。ご本人の話をじっくり聴き、自宅について正しい情報を伝えるサービスが必要だと思いました。

また、不動産会社の中には、ご本人が自宅の価値を正しく知らないのをいいことに、不利な条件を提案するようなところもあります。10件の不動産会社に自宅買い取りのため見積もりを取れば、一番高いところと安いところでは1000万円もの開きがあるというのも、珍しい話ではありません。
1000万円あれば、その後のライフプランはかなり違ってきます。自宅について正しい価値を知らせてくれる場があれば。それも、終活不動産をつくった動機の1つです。

持ち家率8割のシニアが、住まいのことから終活をはじめた方がいい理由

65歳以上の日本人は、8割が持ち家といわれています。持ち家にずっと住み続けたいのか、家を手放して施設に移りたいのか。終活として考えたことがある人はいても、自宅の価値を正しく知ったうえで今後のライフプランを立てている人はなかなかいないのではないでしょうか。自宅の価値を知れば、今後の方向性が立てやすくなります。

例えば、自宅に住み続けたいのであればリフォーム代や修繕費など維持費を確保しておかなければなりません。身体が衰えたとき、介護サービスや地域のサポートを利用して一人暮らしを持続できるのか、環境を確認する必要があります。総合的に考えることで、住み続けられるのかどうかが初めて分かります。

自宅を手放すとしたら、いつ、どんなタイミングで施設を探し、家を売るのか。売却の希望額はいくらか。希望額で売れたときにかかる税金はいくらか。おひとりさまなら、施設に入居するときの保証人も探しておかなければなりません。

このように、暮らしの土台である家についてしっかり把握することから始めると、終活において必要なことが総合的に見えてきます。

住まいから始める終活の全体像

住まいから見直してみませんかという問いかけを軸として、生きている頃から亡くなった後までの支援をさせてもらった経験を元に、不動産に関わらず幅広くいろんなことをサポートできたらと思い、その方に寄り添った提案をしたいと日々考えています。

順番を間違えると怖い!ライフプランが崩れた例

老後のライフプランをハッキリ描いていても、自宅の価値を知らなかったがために、方針替えを余儀なくされたケースがあります。ある女性は、亡き夫から「自分が亡くなったら自宅を売り、施設に住み替えなさい」と言い遺され、言われたようにしようとしました。ところが、調査するとその家が接道義務に違反していることが分かったのです。

接道義務とは、建築基準法で定められている道路と敷地に関する規定で、敷地が法律に定められた道路に2メートル以上接していなければならないという決まりがあります。ところがその家の敷地は1メートル98センチしか道路に接していませんでした。すると建て替えができません。誰かがその家を買っても、建て替えができないのでリフォームしながら住み継ぐしかない。そのようなわけで価格が想定の半分になってしまい、入れる施設の選択肢がかなり狭まりました。

とくに古い家の中には、今の法律にそぐわない家がたくさんあります。接道義務については1回に限り免除される例外もありますが、境界線の問題などで頭を抱えるケースもみられます。相続手続きが終わっておらず、登記簿に先祖の名前が書いてある人も。売る、売らないは関係なく、早めに住まいの現状把握をしておけないと、いざというとき困るかもしれません。

編集部まとめ

家の売却に関して怖すぎる話を伺い、自宅の価値を正しく知ることの重要さが身にしみて分かりました。そして、終活は今の暮らしを見つめることからがスタートだということも。家から始める終活の重要性を踏まえ、後編では、終活を進める上で注意したい3つのポイントを教えていただきます。



末藤康宏(すえふじ・やすひろ)

身元保証や死後事務委任といった高齢者サポートの先駆け「特定非営利活動法人りすシステム」にて、高齢者の住まい・暮らしに関する様々な悩み・困りごとの相談を10年担当。全国の不動産の売買・賃貸をはじめ日常支援から介護支援・高齢者向け住宅・施設への住み替え、後見業務、お墓の改葬・葬儀、死後事務手続きなど暮らしに関わる終活サポート全般を経験してきた。2022年、THE BRIDGE株式会社の一事業として終活専門不動産を立ち上げる。


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