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シビラのワンピースを着て、バーバパパのペンケースを持ってた彼女。

どうして文房具を買ってしまうんだろう。
でも世の中に、まだ使えるボールペンがあるから新しいのは買わない。
たとえ、機能やデザインが新しくなっても。っていう人っているんだろうか?

いた。
以前、ギャラリーのお客様で、クロスター・アルバイテンとかの先生をしてた女性がいて、その人のペンケースがバーバパパだった。

打ち合わせとかの時、彼女がそのペンケースをおしゃれなバックから出して、机の上に置くのを、なんとなく気になって見ていた。
おまけに、そのバーバパパの体を真っ二つにしながら、シャープペンシルを取り出すのだが、それは普通の半透明の薄緑色のシャープペンシルで、使い込まれた感満載の上に、先っちょが鉛筆の芯の色が移って黒くなってるような代物だった。

なぜかバーバママでも、バーバズーでもなくバーバパパが好きらしかった。

でも、彼女は別に他のところは普通で、シビラのワンピースとか、タニノ・クリスチーのブーツとかを身につけているような人。

ある日、彼女が真剣な顔で
「〇〇さん、これって治す事できます?」と、バーバーパパの上半身の部分、いわゆるペンケースでいうところの蓋の部分を持って、切なそうに聞いてきた。

ギャラリーでは作品に合わせて、フレームをデザインして作るので(フレームも作品の一部だと思っているから、自分で選んでつけたい。)彼女の作品も何点か額装してたから、それを見ていて出来るのでは?と思われたらしい。
「見せてみてください。」
確かにバーバパパの上半身に亀裂が入っていて、その分緩んでしまうから、下半身との接合がうまくいかないらしいことが判明した。

「そんなに・・・。」とは思ったけれど、
彼女の切なそうな目を見て
「あーとりあえず、樹脂系の接着剤で硬化させたら大丈夫だと思います。透明だから、見た目もおかしくならないと思うし。」
と言ったら、とても嬉しそうに、
「良かった!ありがとうございます!」と。

かくしてバーバーパパは大事をとって1日入院することに。

退院の日、気になって聞いてみた。
「随分、大切にしてるんですねー。」と。
「高校生の時、バーバパパが大好きで、このペンケースを見つけた時すごく嬉しかったんです。それにまだ使えるし。」と。
誰かからプレゼントしてもらったとか、そういう答えを予想していたけれど、別段そんなこともなく「大好きだから」とう理由でずーっと一緒にいるらしかった。

世の中にはそんな人もいるんだなあと、しょっちゅう文房具を買ってる自分には到底考えられない話だと思った。
私も買うときは「おっ、これいいじゃん」と気に入ったものを買っているはずなのに、愛情の深さが違うのかなあと思ったものだ。

「ちなみにそのシャープペンシルも気に入ってるんですか?」と聞いたら、
「いえ、これは就職した時、会社でもらったものを、壊れないから使い続けているだけです。」と言われた。ってことはゆうに10年以上は使ってるんだ。
なるほど、壊れるまで使うのか。
そうだよね、だから芯が入れ替えられるようになってるんだもんね。
しかし、どのくらい使ったら壊れるんだろう?
芯が出なくなるとか、プラ部分が割れるとかかなあ。
なんだかそれだと一生使えそうな気がする。と思った。

これを書いてても私のデスク周りに溢れかえった、ノートやペンが目に入ってくるが、文房具屋でも開くつもりか?っていうのは大袈裟としても、なかなかの在庫状態。
うーん。おまけにノートなんて、未使用。
あーーーー。

以前テレビで見たデザイナーは、デザインを始めてから今まで、ずっと同じタイプのモレスキンを使っていて、壁に取り付けた棚いっぱいに黒々と並べていた。
おーかっこいい!そうかあ、そうすればとっちらからなくていいんだなあ。
と思ったけれど、RHODIAも BALONFIGもmeadも捨て難いし、モレスキンだって「星の王子様」とか「ホビット」とか「ロード・オブ・ザ・リング」とか「ミニオン」とかのコラボ、次々出してくるでしょ?
ひどいよ、黒いのだけにしてよ。
昔は黒いのだけだったじゃん。

むっちゃ一部。
それに使う用と、とっておく用を買ってしまう。

おまけに、Hのノートとかも「これこれ、こういうのを買うとずーっと使えるんだよね。」と、買う時は思うのだけれど、また、新しいのを出してくるのよ。
丸められるのとか、デザイン違いとか、サイズ違いとか、イロチとか、革違いまで。

万年筆だってそうだ。
これ買ったら、もう買わないとか言いながら買うんだけど、なんのことはない、また出てるよ、シリアル番号入り。ってなる。

フィレンツェに行ったら、絶対、イルパピロに行っちゃうしな。
紙自体が好きなんだよね。紙っていいよね。手触りも匂いも。

でも、シンプルに大切に一冊のノートとペンとかを使っている人に本当は憧れる。
大好きなものを壊れるまで大切に使うなんて、本当に素敵だと思ってる。
がしかし、出来ない。
「もう買わない!ここにあるノート全部使い切るまで、買わない!」って1年に何回か反省して宣言する。1年は意外と長い。

おまけに私にはもっと悪い癖がある。たとえば、ペンにしても、色鉛筆にしても、色が色々出てるものは、全色揃えたくなる。
全部持ってないと気になってしょうがない。
おまけに、書きやすかったりすると、同じものを5ー10本買ってしまう。
同じものがなくなっちゃったら嫌だから。

だからといって、買っちゃったら安心してそんなに使い切れるわけもなく、そうしているうちに新しいものが出て、それも使いやすかったりするとまた同じことを繰り返す。
馬鹿だな、マジで。
文字にすることで自分の馬鹿さ加減が身に染みるってところも、noteのいいところのひとつだな。

その彼女とは10年近くお付き合いがあって、私にしては珍しく食事に行ったりするまでの仲になった。
でも、旦那さんが転勤族で遠くの町に引っ越していった。
元気かなあ?

引っ越す前のある日、彼女は先生をしてたわけだから生徒さん達がいるわけで、その生徒さん達からお誕生日のプレゼントをもらっていた。

素敵な革のペーンケースと、それとおそろいの革巻きのボールペン。
見てはいけないものを見た気がした。

生徒さん達も、おしゃれな先生のおしゃれじゃない(その生徒さん達にとっては)バーバパパと黒ずんだシャープペンシルが、実は気になっていたんだと思った。

彼女は本当のところどう思ったんだろう。
シャープペンシルはいいとしても、バーバパパの運命やいかに。

お引越し先に連れていってもらえることを切に願った。
きっと連れていってくれたよね。絶対。




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