天皇杯とは何か!?

 6月12日(水)、天皇杯二回戦が開催されました。
 ここからは、J1・J2のクラブが登場し、Jクラブvs都道府県代表の大学・社会人クラブとの白熱した戦いが全国各地で行われ、J1の3クラブが格下相手に敗れる、いわゆるジャイアントキリングが起こりました。
 今回はそんな天皇杯について書いていきます。

プロとアマ真剣勝負の日本一決定戦。

 今回で104回目となる天皇杯は、1921年から開催されている日本で最も権威のあるサッカー大会です。この大会には、Jリーグクラブはもちろん、JFLや地域リーグに所属する企業チームや社会人クラブ、大学サッカー部など、日本中の1種(主に18歳以上で構成されるチーム)クラブが参加出来る大会で、プロであるJリーグクラブとアマチュアのクラブが戦うことが出来る唯一の公式です。
 私自身、大学時代には天皇杯でプロクラブと戦うことを目標に県予選に出場していました。私の大学が所属していた県には、JFLクラブとJを目指すクラブがあり、まずはその2つを倒すことは目下の目標でした。結果的に、県内でのジャイアントキリングを起こすことが出来ずに、天皇出場は叶いませんでしたが、数少ない各上クラブとの真剣勝負に仲間と共に、鼻息を荒くしていたことがとても良い思い出です。
 私達は本大会には手が届きませんでしたが、同じ時期には東京都代表として出場した明治大学がベスト16に進出したり、2007年と2019年にはJFLのHONDAがベスト8に進出したりと、アマチュアクラブの躍動は毎年話題となっています。

試合運営は都道府県協会が担当

 Jリーグとは異なる天皇杯のもう一つの大きな特徴は、都道府県協会によって試合が運営される点です。私はクラブスタッフの一員としてJリーグの運営、そして運営のサポートとして天皇杯の運営にも関わったことがありますが、両者には大きな違いがあります。
 Jリーグの場合にはクラブの運営担当者を中心にクラブスタッフと委託業者による運営が行われており、こちらは全てプロによって運営されていると言えます。一方、都道府県協会が運営を担う天皇杯の場合は、委託業者が同じでも指揮を執るのは協会スタッフです。そして、特に地方の協会の場合には専従スタッフは数人に限られており、基本的には別に本業を持つ役員の方々が、天皇杯の運営に当たります。つまり、天皇杯は、選手だけでなく運営スタッフもサッカーを愛するアマチュアの方々が担っているのです。
 特に今は2回戦以降は基本的に平日水曜日開催となっており、本業の傍ら運営に関わる方々には大変な負担となっています。もちろん、各都道府県の状況によってはJクラブが一手に運営を引き受けたり、協会内に十分な専従スタッフがいる場合もあるようですが、大変な合間を縫って天皇杯の開催に尽力している協会スタッフが全国各地に存在しているのです。

天皇杯でプロクラブが見せるべき姿勢とは。

 このように、ピッチ内外でプロではない選手やスタッフが大会に深く関わっている天皇杯。私は、プロアマが試合でも運営でも真剣に手を組み大会を盛り上げていくこの大会は、プロサッカークラブが日本トップの蹴球人として模範となる姿勢を全国各地のサッカー関係者に示す最高の機会であると考えています。
 対戦相手の学生やアマチュアクラブの選手にとって、プロ選手は当然憧れの存在です。特にプロ選手を目指す大学生にとっては、プロ選手がサッカーに向き合う姿勢は大切な見本となります。また、大学サッカー部にはチームを支える主務などの学生スタッフが多数おり、それらの学生にとってはプロクラブのスタッフが見本となります。また、大学生はプロクラブ側にとってはごく近い未来の即戦力であり、対戦を通じてクラブのイメージを上げることは選手の獲得においても、大きなメリットとなります。
 さらに天皇杯2回戦まで勝ち上がってくるレベルのチームは、プロクラブにとっては貴重な練習試合の相手でもあり、特に近隣県同士の対戦の場合には、地域のレベルアップとサッカーの普及という点で、重要な意味を持ちます。
 天皇杯の運営に関わる協会スタッフの中には、日頃は育成年代に関わっている方もいます。そのような方々にプロ選手のピッチ内外での素晴らしい姿勢を見せることで、子ども達にも伝わっていきますし、プロクラブのホーム開催の場合には、日頃から地域の先頭に立ってクラブを支援してくれている協会関係者にプレーや姿勢を通じて、感謝を示す絶好の機会でもあります。
 また、アマチュアクラブとの対戦であるため、普段はJリーグに接しない層の方々にクラブの情報が届くため、新たなファン拡大へと繋げていくことも可能です。
 このように、天皇杯はプロクラブ側はもちろん、対戦するアマチュアクラブや地域のサッカー全体にポジティブな影響を広げてることが出来る貴重な機会であり、プロクラブは、質の高いプレーやプロとしての一流の振る舞いで、プロたる姿を見せなければならないのです。

模範となる姿勢を示したスキッベ監督。

 天皇杯2回戦の各試合の監督コメントを読んでいると、サンフレッチェ広島のスキッベ監督のコメントが目に留まりました。
 中国リーグのFCバレイン下関と広島県福山市で対戦した広島は、J1上位の貫禄を見せつけて11-2で大勝します。大差のついた試合でありながらも、スキッベ監督はまず、自分たちのサッカーに挑戦した下関の姿勢を称え、彼らのゴールを賞賛します。そして、素晴らしい相手との対戦でプロとして結果を出した自クラブの選手も褒め称えると、最後に福山市という普段とは違う会場での天皇杯開催に感謝を示しました。
 同じ中国地方にあり、Jリーグを目指す下関が活躍することは中国地方全体のレベルアップに繋がります。このスキッベ監督のコメントで、下関の選手・スタッフはJFL紹介を目指すリーグにおいて、自信を深めることが出来たことでしょう。
 また、今回、天皇杯が開催された福山市は同じく中国リーグに所属しJリーグを目指す福山シティのホームタウンでもあり、ヨーロッパでの豊富な経験を持つ監督から運営を賞賛されたことは、福山のサッカー関係者にとって大きな自信となったのではないでしょうか。
 スキッベ監督の天皇杯に向かう姿勢は、地域のサッカーを引っ張るプロクラブのあるべき姿の模範と言える素晴らしい姿勢です。
 天皇杯を通じて、地域のプロクラブが、そして地域のサッカー全体の価値が高まっていくことを願っています。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?