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あの日の君に恋をした。第11話

大学の最寄り駅に向かう途中だ。
なごみに出会ったのだ。
良く思い返してみれば不思議でもない。
そう、なごみとは行く先行く先でよく会うことがある。
だからか余計運命があるならばと信じてしまう。
ただいつもと違うことがある。
それはなごみの隣に男がいるのだ。
「きっとこの人が前に行っていた彼氏さんか、」
ぼそっと声が漏れた。
ひでとは正反対で気の強そうな彼氏。
以前聞いていた彼氏像とは全く違う。
なんか裏切られた気持ちもする。
悲しい。嬉しい?
よくわからない感情だ。
好きな人間が幸せなのが一番の嬉しさでもある。
ただよくわからなかった。

その瞬間だ。
ひでの中で破壊神の人格が蘇ってきた。
この場で声かけてあたふたする姿を見てみたい。
鬼だ。破壊神というより、鬼である。
「やっほー、なごみ!久しぶりだね」
ひではいつも通り声をかけた。
偶然会った時いつもならこう声をかけていた。
「えぇ!久しぶり!こんな偶然何回目だろう」
いつもならこう帰ってくる。
ただ、今はもうそんな返事は帰ってこない。
ソンナの当り前だ。
「久しぶりです。」
他人行儀のなごみをみて彼氏は怒りを示している。
「お前、誰だよ。この前の真一ってやつか?」
かなり怒った表情でこちらを見ている。

ただ、ひでは思った。
「なんで真一をしってんの?」
ひでは素直に尋ねた。
食い気味でなごみの彼氏は答えた。
「この前、泣かせたからだよ」
ひではその状況を見て爆笑してしまったのだ。
彼氏さんはキレている。
それもそのはず、自分が強い立場であると思っていた。
それを笑われプライドに傷がついたのだろう。
ただそれに対して、残るのは弱い立場だ。
それに対してひでは真剣な表情で答えた。
「勘違いしてることに笑ったんだよ。」
めんどくさい。ひではそう思った。
続けてひでは伝えた。
「さよなら」
心の底からなごみへ向けた言葉を放った。

「行こう」
彼氏とひでを離すため、なごみが言った。

それからひでは自分の心がわからなくなった。
そして一時間くらいその場を動けなかった。

一時間後、ようやく我に返り、大学に向かった。
大学には真一が待っていた。
「遅かったな~来ないのかと思った。」
それもそのはず、予定より一時間も遅かったからだ。

「ごめん、なごみとたまたま出くわして、」
ひでは申し訳なさと、興味からなごみの話を出した。

「あ~、」
反応に困った真一をみて、申し訳なさを感じる。
しかし、真一は既に彼女がいた。
切り替えが早い男であった。
ただその恋愛はあまり楽しそうではなかった。
真一はネタにするかのように話し始めた。
「この前彼氏さんから電話かかって来て怖かったよ」
泣いたのかまで聞きたかったがやめておいた。

雰囲気を取り戻すために、ひでは彼女について聞いてみた。
「どんな子なの?」

「ひでの好みではないような子だよ。」
なにか悲しそう。
隕石が地球に落ちてきて自分だけ生き残ったような感じだった。
それだけ、なごみに未練があったんだと感じた。

「彼女は真一にべた惚れなんだろうな」
ひでは素直にほめた。
だってこんなに未練たらたらなのに好きでいてくれるなんて。
本当に罪深い男だ。
真一は自信家のホストと言うとしっくりくるかもしれない。
自信に満ち溢れている。そこは素直に羨ましい。

それに引き換えひでは未だになごみの事を引きずっている事をこの時
真一の表情をみて感じてしまった。
だんだん去年の今頃などひでと真一、なごみで仲良く話してた事を思い出す。
それでだんだん切なくなってきた。

正直、未練がたらたらなひでは誰よりもセンチメンタルだろう。

変わりたい
僕の心の中での会話は次のようであった。
僕は小説家だ。
いや、これから小説家になる人間だ。
小説の中でならパラレルワールドを見ることができるのがこの世界だけなんだ。
今のところは。
いつかパラレルワールドの向こうで付き合っている僕たちを見に行ってみたい。
「今の僕は幸せですか?」
そう問いかけたい。
「こっちの僕もそっちの僕も幸せだろ?同じひでなんだから。」
その余裕がある自分をみて、変われるのだと本気で信じてみたいんだ。


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