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[映画感想文]│天才ガイ・リッチーの「アラジン」そして「ジェントルメン」

緻密な脚本とハイテンポな映像で、数々の群像劇を描いてきた映画監督ガイ・リッチー。そんな彼の「らしくない映画」と「らしい映画」を立て続けに鑑賞した。

アラジン

まさかのディズニー映画実写化。しかも私が幼少の頃に何度も劇場で鑑賞した「アラジン」ということで期待と不安が入り交じり、公開直後に劇場へ行こうと思っていた。が、結局不安の方が勝ってしまい行かず、Blu-rayも買ったけれど観ないままだった。

ところがDisney+で配信されているのを発見し、もういよいよ観ないわけにはいかなくなった。

結局Blu-rayは棚に戻る

恐る恐る観てみると、全体の雰囲気は思った以上に原作と近く、不安に感じていたジーニーの存在についても違和感なく纏められていた。くすんだ色調の薄汚れた路地裏みたいな映像が魅力でもあるガイ・リッチー作品だが、本作は非常にポップでインド映画のようにカラフルな場面が多い。そしてそれらも決していやらしくない。

主演のメナ・マスードは魅力的だしジーニーもウィル・スミスでなければハマれなかっただろう。私は原作を観ていた当時の感情を思い出したかったので吹き替え版を選んだが、ジーニーは当たり前のように山寺宏一だった。

懐かしい気持ちになると同時に、色褪せていた思い出に改めて鮮明な色が載ったような、幸せな気分で楽しむことができた。

ただ予想していなかった不満点も幾つかあった。まず歌詞の細かな部分が変更されている点が気になった。吹き替えの都合なのかも知れないが、序盤のアラジンが盗みをしながら逃走する場面。

生きるため 食うためさ 仕方がないだろ ベイビー

という部分が好きだったのだが、何故か「食うためさ」は「盗むのさ」に変更されていた。当時は子供ながらにアラジンの窮状を察することができた歌詞だったのに、これでは盗みを楽しんでいるかのように聞こえやしないだろうか。

この他にも幾つかお気に入りの歌詞が変更されており、それらがどうしても気になって集中できなかった。大筋とは関係のない部分なので気にする人は少ないのかも知れないけれど、そうであれば尚のこと変更しないでおいて欲しかった。

歌で言えば終盤のジャスミンソロシーンも蛇足に感じた。ジャスミンの気の強さとか自立心というのは序盤の市場単独潜入から始まって品定めされることへの嫌悪感を露わにする場面、適当にヨイショされることを拒絶するセリフなど随所に表れており、終盤の大事なシーンでわざわざ説明されるまでもない筈だ。どこからともなく現われた侍女の存在も含め、世に言うポリコレの気配を嫌でも感じてしまう。これがDisneyだ、と。

また、ジャファーが妙に若い点や国王が必要以上にポンコツな点も少し気になった。

色々なモヤモヤが単なる記憶違いなのか、それともやはり何か意図があってのものなのかをどうしても確認したくて、鑑賞後に続けて原作も観てしまったくらいだ。

結果的に自分の記憶が正しかったことは検証できたのだが、それならば変更された意図は何だったのか…それについては何とも言えない。

ジーニーが自由になって普通の人間になってしまったら、逆襲してきたジャファーをどうやって撃退するのだろうか。気になって夜しか眠れない。

色々言いながらも映画自体は面白いのだ。今度また字幕版で観てみよう。

ジェントルメン

打って変わって硬派で男くさいギャング映画。

大麻を扱った作品と言えば「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」を思い出すが、雰囲気も正にそんな感じで、こちらもまた懐かしい気分にさせてくれる作品だった。

冒頭からガイ・リッチーらしさ全開のクールでミステリアスなセリフとカメラワークが光り、麻薬王のミッキーがビールを飲むというだけのシーンなのに多くの情報をもたらしてくれる。そこから全てが煙になってゆくオープニングへと流れ込む。この時点で期待感はかなり高い。

そこからはミッキーの腹心と探偵との会話による回想シーンで構成されることになるが、これが本当に良い方向に作用していた。「シャーロック・ホームズ」や「コードネーム U.N.C.L.E.」の回想とは違い、比較的ゆったり目のカメラワークでジックリと状況が描写され、冒頭のシーンへと繋がる過去の出来事が少しずつ露わになってゆく。そこから会話に戻り、また回想へと移行する一連の流れが非常にスムーズで、その上シャレが利いている。

ガイ・リッチーの映画は会話自体がテンポの良い言葉のラリーとなっており、「パルプ・フィクション」でサミュエル・L・ジャクソンとジョン・トラボルタが見せた掛け合いのように緊張感とユーモアを孕んだ会話が全編に渡って展開される。だから内容自体は単に状況の説明をしているようなセリフであっても観ている側は退屈しないし、従って妙なカメラワークや演出に頼ることも必要無いのだ。悪く言いたくは無いけれど、このあたりの面白さが「シン・ウルトラマン」には感じられなかった。もしかしたら邦画全体の問題かも知れない。

しかし本作は、会話だけでなく映像にも隙が無いのだ。見せるべき部分はジックリ見せて、そうでない場合はザックリとカットする。そういったリズムの取り方が絶妙で、アクションシーンにしてもダラダラと格闘や銃撃が続かない。カッコイイ部分しか出てこない。とてもスタイリッシュだ。

段々と熱を増す会話と同時に広がりを見せる回想。そして回想を終えて尚広がり続け、全てを回収して爆発するクライマックス。相変わらずの緻密な脚本と、俳優陣の熱演ぶりによって冒頭に感じた期待は一切裏切られることなく、そして中だるみすることなく2時間弱の群像劇は幕を閉じるのであった。

俳優と言えば「スナッチ」において色々な意味で自由なジプシー役だったブラピ顔負けの怪しい”コーチ”役のコリン・ファレル。私の大好きな俳優である。「SWAT」や「リクルート」で見せたキレのある動きに老獪さが加わり、「キングスマン」のパブでの格闘シーンを上回る興奮をもたらしてくれた。脇役かと思えば終盤まで存在感を発揮し続け、目が離せないキャラクターに仕上がっていた。

主演のマシュー・マコノヒーは「インターステラー」の時とは随分と雰囲気が変わり、「ウルフオブウォールストリート」の時のようなギラギラ感を出しつつも上品。キレ者の麻薬王という設定に説得力を持たせていた。

探偵役のヒュー・グラントは「コードネーム U.N.C.L.E.」の時以上に怪しい雰囲気を纏い、危なっかしい役回りを見事に演じていたために観ている側もヒヤヒヤしてしまう。身に付けたジャケットはヨレヨレなのに、どこか気品漂うのも彼の魅力によるものだろう。

毎度お馴染みのエディ・マーサンは今回もとんでもない目に遭うイヤな奴だが、そんな役を演じ切るのは見事の一言に尽きる。差し出した手を無視される時の表情や絶妙な震えが、観る者の感情を抉るのだ。

世代交代というテーマが随所に散りばめられているように、若い俳優も多く登場した。ダンディなオジサマ方の中でも存分に存在感を発揮し、どの役も印象的で魅力的だ。エンドロールでミッチリ視聴可能なミュージックビデオも素晴らしい。

濃密ながらもあっと言う間の2時間弱であった。

観たいタイミングで観たいシーンが、欲しい情報が充分な量で、期待している盛り上がりは想像以上の規模でもたらされる、天才ガイ・リッチーの”らしさ”が詰まった贅沢なクライムアクション映画と言えよう。

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