物語 月、満ち欠け 10月23日(第十六話-反省)

前回までのあらすじ

王子さまとそうじ屋の娘。湖で出会い恋におちた二人。しかし、お互いの身分はあかせぬまま。上弦の月の翌日、二人は湖で再会、家出。帰ると娘は捕らえられ、満月の夜に来る国の守り神「ヨル」に、二人は裁かれました。『愛が濁っている二人は永遠に逢うことはないであろう』と。長老は、新月の夜に「コスモ」に願いを叶えてもらえばまた会えるかもしれないと言いました。王子さまは長老のもとで修行をすることになり、娘はそうじの仕事を再開しました。


第十六話-反省

明け方早くから、月が出ています。空に転がる月、雨上がりの道、秋の朝の空気。空の色は赤や青や黄色やグラデーションといいましょうか、今朝の秋の明け方の月を添えた色と呼べるような美しい朝でした。

月が見守るのは、朝早くから仕事の用意をはじめた娘でした。ふと月を見上げた娘は、なんて美しい月の明け方なのでしょうと思いました。そして、誰よりも早く、屋敷のそうじをはじめました。


家出をする前よりも大変汚れがひどくなっていたようでした。ごみくず。クモの巣。しみ汚れ。物も倒れているものもありました。

娘が家出をしている間、皆は心配をして、捜索を優先させていたため、そうじはあとまわしだったのです。

娘は、家出は皆を心配させてしまっていたことを実感して、自分の過ちだったとわかりました。

娘は反省して、ではどうすれば良いのでしょうかと考えました。とりあえず、そうじの仕事をがんばります。一生懸命そうじをしました。


もちろんそうじをしながら、王子のリヒトを思い出さないでいることができるはずもありませんでした。

しかし、そうじの仕事をがんばること、これは自分が決めたことですから。思いをふりはらってはふりはらって、仕事に打ち込みました。


ふと鏡を見ると、服のすそは曲がり、髪の毛は飛んでいて、汗を流し、少し猫背な娘が映っていました。それは、娘の自分自身の姿でした。

思いやりをもちなされ。長老の言葉を思い出します。食卓に花を飾って、美しく相手に心地よく感じさせていた、王子リヒトのマナーを思い出します。

娘は身なりを整えて、背筋をピッと正しました。鏡には、少しスッキリとした娘がほほえんで映っていました。

さあ。またそうじをがんばります。



朝の空には月が一個転がって、お城の柵からスルッと逃げました。転がる月、雨上がりの道、秋の朝の空気。空の色は青く高く、月の色は白く透き通っています。

朝の白い月とともにお城から出発したのは、長老のもとで修行することになった王子さまでした。なんて美しい月の朝なのだろうと、王子さまは思いました。そして、長老とともにお城を出ました。


今日は、長老とこの国を見て回ります。お城の周りに町。その周りに村があります。

町や村は、少々あれた雰囲気でした。けんかをしている者もいます。王子さまは長老に、いつもけんかが多いのですかとたずねました。長老は言いました。

おそれながら。お二人の家出の最中にこのようになりました。

王子さまがいなくなりまして、総出で捜索しました。国の人々にまで目が行き届かなくなっていたのです。

王子さまが家出をしている間、皆は心配をして、捜索を優先させていたため、国の人々のことはあとまわしだったのです。

王子さまは、家出は皆を心配させてしまっていたことを実感して、自分の過ちだったとわかりました。

王子さまは反省して、ではどうすれば良いのでしょうかと考えました。とりあえず、長老のもとで修行をがんばります。一生懸命国を見てまわりました。


もちろん国を見ながら、娘のルナを思い出さないでいることができるはずもありませんでした。

しかし、修行をがんばること、これは自分が決めたことですから。思いをふりはらってはふりはらって、修行に打ち込みました。


ふと窓の硝子を見ると、大層難しい顔をして無愛想に考え事をしながら歩いている王子の姿が映っていました。それは、王子の自分自身の姿でした。

思いやりをもちなされ。長老の言葉を思い出します。落ち葉を美しくそうじし、美しく相手に心地よく感じさせていた、娘ルナのそうじを思い出します。

王子さまは少しほほえんで、背筋をピッと正しました。窓には、少し優しい雰囲気になった王子がほほえんで映っていました。長老もほほえみます。

さあ。また修行をがんばります。



二人はそれぞれの場所で思いました。今まで自分は何も知らなかったと。しかし、周りの人々や愛しい人との出会いによって、思いやりというものを少しだけ実感できたような気がしたのでした。


少し寒くなってきた秋。空はスッキリとさわやかに青く青く光っていました。








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『物語 月、満ち欠け』

第十七話はこちらです。


第一話はこちらです。



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