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星捕り

ある深夜に星を捕まえようと思い立ち、部屋の灯を消したまま(星を驚かすといけない)障子をそぉっと開けた。

窓越しに見えるのは薄曇りの夜空。今夜は駄目か……と障子を閉めて寝床へ戻った。


しかし、はたと思い立ち、もう一度そぉっと障子を開けて窓をそぉっと開けてみると、薄雲はポカリと夜空の穴を開けて、星を散らしていた。

秋の虫は静かに鳴いて、秋の夜の空気は深い香りがした。

サンダルを履きベランダへ出ると、天頂付近には半分より少しだけ太った月と、西の空には金色の星が光っていた。

ふむ。と思い、台所からワンカップの空き瓶を取り、水を入れた。酒にしなかった理由は、単にケチっただけだ。


再びベランダへそぉっと出て、気づかれぬよう、天頂の月にそぉっと近づき、ワンカップをハッと覆い被せて閉じ込めた。

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はじめは暴れていた月だったが、次第に落ち着いてきて、観念したかのようにワンカップの水の中で月の光を静かに光らせ始めた。

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そそくさと部屋へと戻る。さあて、捕まえた月を鑑賞するとしよう。


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ワンカップの底には、小さく怯える光がポツとある。うん? おかしい。すぐに分かった。これは月ではない! いつの間にか豆電球の光と入れ替わっている。逃げられたのだ!


しまった! ともう一度ベランダへ出たものの、月は天頂で煌々と何事もなかったかのように静かに輝いていた。

チキショウ! やはり水なんてケチらずに、酒で月を酔わせるべきであった! と悔やんだ。が、後の祭りである。

今夜はもう星捕りはやめだ。星々にばれてしまったに違いない。と、諦めて自分の寝床についた。


夜空の薄雲はすーと去っていき、輝く月と満天の星が勝ち誇った様子で、優雅に笑いはじめた。月と星を讃えるように、秋の虫の声が宇宙中に響き渡っていた。



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