物語 月、満ち欠け 10月28日(第二十一話-昔話)

前回までのあらすじ

王子さまとそうじ屋の娘。湖で出会い恋におちた二人。二人は湖で再会、家出。帰ると娘は捕らえられ、満月の夜に来る国の守り神「ヨル」に、二人は裁かれました。『愛が濁っている二人は永遠に逢うことはないであろう』と。長老は、新月の夜に「コスモ」に願いを叶えてもらえばまた会えるかもしれないと言いました。王子さまは修行の途中で隣の国へ旅へ行き、娘はそうじの仕事を再開しました。王子さまは女主から、娘は長老から、詩集を渡されました。


第二十一話-昔話

夜明け前。浅い宇宙色をベースに雲をぼんやりまあるく照らす半分のお月様は天頂にありました。

そうじ屋の娘は今日も早くからせっせとそうじの仕事をします。


日が昇り、小さな雲たちがもくもくと青空にお絵描きをはじめた頃。

隣の国にいる王子さまは朝早くの街を見てまわりました。



今日は晴れ。暖かくてとても清々しい日でした。



夕方。空の低いところが赤くそまりはじめて、星が光り出した頃。

そうじ屋の娘は仕事を終えて、長老を訪ねました。


一方。

王子さまは女主にお話しをできるよう、お願いをしました。



昨日は、詩集をどうもありがとうございました。

いえいえ。


その詩集の内容とは、湖の龍の伝説でした。最後の方には、こんな物語が記されていました。


『むかしむかし。

王子ヒカとそうじ屋の娘ムーンがいました。

二人は湖に浮かぶ三日月の舟で恋に落ちました。

かけおちした二人は湖の満月の夜、国の守り神の龍ヨルから裁きをうけました。

『愛が濁っている二人は永遠に逢うことはないであろう』

王子ヒカは旅へ出て世界を見てまわり、そうじ屋の娘ムーンはそうじの仕事を続けました。

新月の夜には龍コスモが願いを叶えてくれると知った二人は願いごとを考えました。

そして新月に龍コスモへ願いました。王子ヒカは王子の身分をやめたいと言い、そうじ屋の娘ムーンはそうじの仕事をやめたいと言いました。そして、身分を変えてほしいと願いました。

それ以来。

ヒカは政の都合で王家から退かれ、ムーンは富豪の養子になりました。

二人は永遠に逢うことはありませんでした。』


悲しい物語ですね。

悲しいですか?

はい。私も実は、越えられない身分について龍コスモにお願いをしようと思っておりました。それなのに永遠に逢うことはできないなんて。

ええ。

どうしたらいいのか……。

……。ですが、そこには書いてありませんけれども。その後にはこう続くのですよ。


『ヒカは湖の見張り役になり学問を極めて国の長老になりました。ムーンはオルゴールや詩集などの文化芸術を極めて一族の女主になりました。

長老ヒカには甥の息子リヒトがいます。女主ムーンには姪の娘ルナがいます。

二人は、お互いのことを懐かしく想いながらも、大変幸せに暮らしました。』


えっ。もしかして。

はい。それが、私たち、長老ヒカと女主ムーンの物語なのですよ。

!!


私も若い頃は、お二人のようだったのです。正しい答えについては。私にもわかりません。けれども、未来は未知、まだ決まっておりませんからね。お二人次第です。

はい。

私はお二人をかげながら応援しておりますよ。

ありがとうございます。


娘は長老にお礼をのべて、部屋をあとにしました。

王子さまは女主にお礼をのべて、部屋をあとにしました。



自分たちの境遇にそっくりな長老と女主の物語。そして、永遠に逢うことはできない結末と、幸せなエピローグ。

王子リヒトと娘ルナは、思い悩みました。果たして、自分の想いはあっていることなのかどうか、と。



夜空には美しい星の灯りました。まるで美しい物語に出てくるような眺めです。もしかしたらここは物語の中なのでしょうか、と不思議な感覚を覚えつつ眠りについたのでした。









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『物語 月、満ち欠け』

第二十二話はこちらです。


第一話はこちらです。



どうも、ありがとうございました。

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