物語 月、満ち欠け 10月30日(第二十三話-思い込みの恋)

前回までのあらすじ

王子さまとそうじ屋の娘。湖で出会い恋におちた二人。二人は湖で再会、家出。帰ると娘は捕らえられ、満月の夜に来る国の守り神「ヨル」に、二人は裁かれました。『愛が濁っている二人は永遠に逢うことはないであろう』と。長老は、新月の夜に「コスモ」に願いを叶えてもらえばまた会えるかもしれないと言いました。王子さまは修行の途中で隣の国へ旅へ行き、娘はそうじの仕事を再開しました。女主と長老の過去は二人にそっくりと聞きました。王子さまは旅を、娘は仕事を続けます。


第二十三話-思い込みの恋

今朝は青い空。白い月。ハタと顔を上げると鳥の群れが月をさえぎってゆきました。太陽が眩しい日でした。



王子さまは、旅で宇宙へつづく山を目指しています。町を歩いていきます。


そうじ屋の娘は、そうじの仕事をはやめに仕上げました。これから王女さまの別邸へ歩いていきます。



王子さまは歩きながら考えます。


娘は歩きながら考えます。



龍ヨルの裁きを思い出します。

『愛が濁っている二人は永遠に逢うことはないであろう』

龍コスモにどんなお願いをすれば、この裁きをくつがえせるのでしょうか。

このままでは、愛しい人に会えない気がしました。


きっとなにかが違う。

そう思い、いつかのことを思い返してみます。


三日月の舟の出会い。すべてはここからはじまりました。

仕事もうわのそらで、出会ったあの日の笑顔を思っては夢中になりました。

周りから叱られて、口うるさく思いました。

長老さまの言葉はなにか沁みました。

女主さまのほほ笑みに安心しました。

オルゴールに癒されたことを思いました。


はじめは。

一目惚れと思い込みの恋だったのかもしれません。

ひとりよがりで自分勝手な空想でした。

仕事そっちのけでうわのそら。

周りの気遣いも気づかなかった。

おそらくこの状態のままでは再び逢うことはできないでしょう。



思いにふけりながら歩いていると、小さなちょうちょがパタパタと遊んでいました。

かわいらしい姿にほほ笑んでしまいました。

ちょうちょはきれいな花や草の間で少し休むと、またパタパタと遊びました。


二人はそれぞれの場所で、ハッとしました。




午後。娘は王女さまの別邸に着きました。

王子リヒトの姉である王女さまは問います。

ルナさん。弟の王子リヒトがあなたに恋をしてしまったことについてですけれども。

ルナさんは。その、恋についてどう思うのかしら。


おそれながら。それはきっと思い込みの恋、と思います。

思い込み、ですか。

ええ。自分勝手な空想でございます。

自分勝手な空想、ですか。

はい。しかしながら、空想は大切なものでございます。

大切……ですか?

はい……。


あの。どうしてちょうちょは花や草の間で遊ぶのでしょうか。それは蜜や恋があると空想しているからです。

もしもちょうちょが恋も蜜も何も知らなければ、花や草の間で遊ぶことはありません。

もちろん。花や草や季節の咲いてこそ、ちょうちょは遊べるのでございますけれども。

ですから人にも、恋という空想は大切と思います。もちろん、周りの方々から優しさをうけとっていたからこそ、なのですけれども……。


そうですか。少し意味がわかりませんけれども。

王女さまは首をかしげました。そして、にっこりしました。

でも、おもしろい発想ですわ。

王女さまは、ますます笑顔をうかべます。

ルナさん。さては王子リヒトのことをしたっていますね? ふふふ。よい方向へ向かいますよう、祈りますわ。

ありがとうございます。




夕方。王子さまは町の宿に泊まります。女主さまの手紙を見せるとこころよく泊まらせてくれました。

町の酔っぱらいがやってきて、王子さまに問いました。

よう。若いの。ヒック。

若いのよぉ。恋ったぁ、なんだと思うね?


恋ですか。それはきっと思い込みの恋、と思います。

思い込みぃ?

ええ。自分勝手な空想ですね。

自分勝手な空想、ときたもんだ。

はい。しかしながら、空想は大切なものです。

大切……か?

はい……。


あの。どうしてちょうちょは花や草の間で遊ぶのでしょうか。それは蜜や恋があると空想しているからです。

もしもちょうちょが恋も蜜も何も知らなければ、花や草の間で遊ぶことはありません。

もちろん。花や草や季節の咲いてこそ、ちょうちょは遊べるのでございますけれども。

ですから人にも、恋という空想は大切と思います。もちろん、周りの方々から優しさをうけとっていたからこそ、なのですけれども……。


……なあに言ってるのか、ちっともわっからねえやなぁ~!

酔っぱらいは首をかしげました。そして、にっこりしました。

しっかし、おっもしろいこというなぁ、若いの。

酔っぱらいは、にたぁ~と笑います。

若いの。さては愛しい人がいるな? うむうむ。へへへ。しあわせになりなよな!

ありがとうございます。



夜。

星は美しく光ります。

二人はそれぞれの場所で、愛しい人を想いつつ、そっと眺めているのでした。








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『物語 月、満ち欠け』

第二十四話はこちらです。


第一話はこちらです。



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