物語 月、満ち欠け 10月26日(第十九話-いじわる)

前回までのあらすじ

王子さまとそうじ屋の娘。湖で出会い恋におちた二人。二人は湖で再会、家出。帰ると娘は捕らえられ、満月の夜に来る国の守り神「ヨル」に、二人は裁かれました。『愛が濁っている二人は永遠に逢うことはないであろう』と。長老は、新月の夜に「コスモ」に願いを叶えてもらえばまた会えるかもしれないと言いました。王子さまは長老のもとで修行、娘はそうじの仕事を再開。隣の国を通って「コスモ」に会えると聞き、王子さまは隣の国へ行き、オルゴール工場につきました。娘は王女さまにランチへ招待されました。

第十九話-いじわる

朝、雨から曇りになりました。

そうじ屋の娘ルナは、今朝は手早く屋敷のそうじを終えました。今日は王女さまからランチを招待されたからです。娘はやとい主の奥さまに、着てゆくものと礼儀作法をみっちりと確認してもらいました。



こちらは隣の国。オルゴール工場。旅の若造と思われてしまった王子リヒトは、朝早くからそうじをさせられています。中はまあまあ汚れかけていました。汚れをサッサととりますと、スッキリときれいになりました。少し気持ちが良いものです。

近くにいた職人さんが声をかけました。

おや。新入りさんかな? おっ、きれいになったね! ありがとうな。

いえ。こちらこそ。

王子さまは少し嬉しく思いました。



昼近くになり、晴れてきました。

娘は王女さまのいる別邸へ向かいます。

おや、きれいな花を見つけました。その花は、赤色でオレンジ色で黄色で緑色で、かわいらしいけれども不思議な花でした。

娘はその花をつんでゆきました。湖のあの日、王子リヒトが花をつんでいたように。


王女さまの別邸に着きました。通されたのは窓の大変明るい部屋でした。そこに、机と椅子が置いてありました。

王女さまがお見えになり、娘はあいさつをしました。王女さまはにっこりとほほえみました。娘はホッと安心をしました。

娘はやとい主の奥さまからの贈り物に、つんできた花を添えて献上しました。

王女さまは、奥さまによろしくお伝えくださいと言いました。そして、不思議な色の花にほほえみかけて、小さな花瓶に入れて机に置かれました。

ランチは、王女さまと娘の他におつきの女性も何人かいらっしゃいました。とても和やかなランチでした。

お花の花言葉や雲の形。おそうじのコツや湖の謎。隣の国や宇宙の話もしました。

美味しいサンドイッチのようなものや、かわいらしいブッセのようなお菓子、ホットティーなどを食べてはほほえみあいました。

ポカポカとした日射しは、雲がくるとさえぎられたり、また照らされたりしていました。風の少し出ているようで、少し色づいた木々の葉々はゆれ、雲はいそぎ足で形を変えつつ空を行きました。


楽しい時間も終わり、王女さまに礼をして帰ります。

前方から誰かが歩いてきました。それは、昨日娘へ嫌みをつぶやいていた、貴族の女性とおともの方々でした。

あの娘、どこかの道端からつんできた花を、食事の席に置いたらしいわよ。汚ならしいわねー! ま、お似合いかもしれませんわ。マナーだって、ひどいものだったでしょうから。オホホホ!

娘は頭を下げながら、道を譲りました。娘は、確かにその通りだったかもしれませんと思いました。花も花屋で買った方が良かったなと思いました。マナーは、王子さまから少しだけ習ったのと、やとい主の奥さまから昨日指導されたていどでしたから、恥ずかしく思いました。娘は少し複雑な気持ちで、家へ帰りました。



一方。こちらは隣の国。王子さまがオルゴール工場の周りを掃いています。見上げれば、工場の空は長四角で狭く思いました。自分の国の空は広かったなと思いました。

少ししっとりとした落ち葉は地面にくっついています。それで、しっとりとした落ち葉も美しいと思った王子さまは、少しきれいにして少し落ち葉を残して、外の道のそうじを完了しました。湖のあの日、娘ルナが美しい落ち葉を少し残したように。


昨日怒っていた男性がやってきました。男性は王子さまに怒鳴りました。

おい若造。ちょろまかしやがって。葉っぱが残ってんじゃねーかよ!

王子さまがびっくりしてあぜんとしていると、道の向こうから馬車がきました。馬車は近くで止まり、中から女主が出てきました。

おや。これはこれは。

女主は状況を察して言いました。

この方は私の知人です。一緒に連れてゆきます。あなたは引き続き仕事をするように。

男性がおどろいてあんぐりしている中、王子さまは女主の馬車へ乗り込まれました。



夜になりました。娘はこちらの国で、王子さまは隣の国で、星を眺めています。

今宵はとても美しい星空になりました。

夜にはふっくらと欠けた月が少しオレンジ色がかった色をして昇ります。娘は美味しいブッセのように思いました。王子さまは美しい落ち葉のように思いました。二人は月に見守られながら眠りにつきました。









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『物語 月、満ち欠け』

第二十話はこちらです。


第一話はこちらです。



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