理想の夫婦
実は、私が結婚を決意したのは、子供の頃から耐えしれず隠してきた欲望を満たすためでした。
結婚相手の智恵を好きになったのは事実でしたが、実は彼女の性格や相性よりも、自分自身の具体的な欲望に沿っていたからだったのです。
自分が求める理想である体型に近ったのです。身長が168cmと、背が高い女性でした。目を合わせると自分自身と同じ高さでした。
頭の大きさ、肩幅などは、ほとんど変わりありませんでした。腰回りの大きさと形状だけは、幾分ながら、どうしても男女の差を感じてしまう程度の違いでした。
私が智恵と交際を始めたのはきっかけはマッチングアプリではありませんでした。偶然、友達に紹介されたことからでした。
最初に彼女に出会った瞬間、最初に思ったことは、背の高さでした。
ハイヒールを履かずとも、普通のパンプスでさえ、目線が上に入ってきたのです。加えてプロポーションは素晴らしく、均整のとれた体の曲線の持ち主でした。
私の秘めた欲求を満たす最高の出会いかもしれないと思い始めました。
智恵は、私が自分の生き方、考え方を含め、全てを受け入れてくれた結果が、結婚と心から信じていました。
結婚式までの打ち合わせ、ウェディングドレスの好みなども、思いがけず積極的に協力的に感じたようでした。
それだけ、自分に配慮してくれる私の優しさから来る行為だと考えたようです。
私のドレスを見る眼差しなどは、本当の優しさに溢れているのだと彼女は思ったようです。
告白しますと、私が自分の性の嗜好性に気づいたのは、小学校の低学年でした。あるテレビドラマの中に出てきた女性の変幻に目を奪われてしまったのでした。
継母として入籍しようとする女性が、最初に美しい和服姿で現れます。やがて、夫から勧められるまま、前妻の華やかなフォーマルなロングドレスに着替えました。
気品があり凛とした和服姿から、しばらくして妖艶なロングドレスへの遷移が、幼心の瞼に焼き付いてしまいました。
私もこんな女性になりたいと、その瞬間に弾けたのです。
それが無理なら、理想とする完全な女性を仰ぎ見て足元にひれ伏してお使えしてみたいと願いました。
沸騰した脳は、普通の状態に収まるまでに1ヶ月要したことを今でも深く記憶しております。
それ以降、女性の興味というよりも、女性に変化する方法とは何かと、虐められるとは何かとネットを通じて調べ始めたのでした。
姉は自分が何に興味を持っていたのかを、検索履歴を偶然見つけたことで、小さい頃から私の性癖に気がついていたようでした。
姉の下着や洋服を密かに身につけていたこともです。
姉は、結婚に至った動機を、僕と智恵が交際を始めたころから半分疑っていたようでした。
二枚目で通っていた中高時代にも、私の秘めた思いを既に姉にはお見通しだったのです。
私が女性に抱く感情は、彼女自身に求めていたものではありません。
「自分が理想とする女性になりたい」という思いから出てくるものとは、彼女には露にも想像できなかっでしょう。
叶うなら、存在し得ない理想の女性の奴隷になりたいとい思いも同時に秘めていました。
現実にそんな思いを遂げることは不可能であることも承知していました。
そんな思いのまま、彼女とは着々と結婚式まで至り、優雅なハネムーンを終え、つづがない二人の結婚生活が始まりました。
双方の親は人並み以上に裕福でした。親の援助もあり、十分な広さのマンションに居を構えました。
二人とも有数企業に勤め、収入には申し分のない生活水準でした。新婚生活に何の問題もありませんでした。
セックスも相性がよく、比較的満足した性生活を送っていました。
ある金曜日の夜でした。
夕食後の飲み物を嗜んでいると、突然、智恵が言い出した内容に驚かされました。
「お姉さんから聞いたのだけど、女装の趣味があるそうね。」
これまで決して誰にも知られていないはずの隠し事でした。
あまりのストレートさに面くらい、急に恍けることもできずに動揺が表情に現れてしまいました。
つい指先が震えて、口にいていたグラスを思わず落としそうになりました。
「何をバカなことを・・・」と言いかけ、「上目遣いに智恵の表情を仰ぐと、すぐに察しました。全て無駄であることは一目瞭然でした。
「それだけではないでしょ。本当は虐められたいと思っているでしょう。」
「隠すことはないのよ。正直に言いなさい。」
智恵は、気持ち悪いほどに、なだめるように優しく伝えました。
もう隠し立てはできないと観念し、自分の幼い頃から思いと願いを時間をかけて告白しました。
そして、もうひとつの願いでもある理想の女性の下僕になりたいという願いも。
私は、結婚に至るまでに既に、もしかして智恵が生まれ持っての女王様ではないか、その可能性があることに薄々気がついていました。
まして、少しずつ告白することで、益々心の底からの喜びが沸き上がってくるのを持って確信しました。
もう喜びの泉を止めようがありません。完全にその中に浸り始めておりました。
智恵の知性、品の良さと妖しさを疑う隙は微塵もありません。生まれ持ってのものです。
無慈悲さ、冷酷さを滲ませていますが、発する言葉の一言一言があくまでも丁寧な言葉使いなのです。
立ち居振る舞いも優雅です。気品に満ち溢れています。一朝一夕で身につけられる所作でもありません。
生まれ持っての女王様なのです。
それ以来、二人の生活は一変しました。
二人に共に了解する暗号のような言葉を決め、それが一致すると女王様と奴隷の関係になります。
限界を越えることがないように、決まった別の合図のような言葉も用意しています。
皮やラテックスの素材の衣装をつけることなどありません。
優雅な装いであること、下品でないこと、フォーマルであること、清潔であることは言うまでもありません。
私と智恵の関係は、決まったフォーマリティーの中にあるのです。それを逸脱することはありません。
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