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音楽で食べていきたいという彼氏がいた
20代前半から後半にかけて長いことつきあっていた彼がいました。
出会った頃、私は社会人1年生、彼はまだ大学生でした。
はじめて話したとき彼はバンドをやっていて、ボーカル&ギターを担当していると言い、その時私がドハマりしていたあるバンドを彼も好きで、その話題で盛り上がって、つき合ってからはよく一緒にライブにも行きました。
バンドマン、、こういう夢を追っかける系とつき合ったことはなかったのですが、私はお金を得られるものが仕事であると思っていて、彼がこの先も定職につかずにフリーターなどをしながらバンドの道を極めようとするなら、ずっと一緒にいるのは無理だなと思っていました。
だから今はそうやってやりたいことやっててもいいけど、大学を卒業するころにはバンドは趣味程度にして就職し、社会人としてちゃんとやっていってもらいたいと思っていました。
この私の考えを彼に伝えたことはないけれど、バンドに対して熱い思いを語る彼に若干ひいていました。
や、今はそれでもいいけどさ、、と。
でも気が合い、なにをしてても本当に楽しいし、結婚もそんなに真剣に考える年頃でもなかったので、気楽につきあっていました。
バンドの曲は作詞作曲全部彼がやっていてあちこちにデモテープを送っていました。
ある時たいして音楽に詳しくない私でも知ってるような音楽事務所からスタジオにきて演奏してみてくれないか?という連絡が入り、彼(&そのバンドメンバー)は大変な興奮っぷりでした。
彼が大学3年生のころでした。
結局、見習いのような形でその事務所に出入りできるようになって、スタジオを借りれたりボイスレッスンを受けれるようになったりしたのです。
そして地道にライブハウスでライブ実績を積んで、とにかく場数をこなしてうまくなれ、というような感じでした。
大学4年生になると、全員同じ年だったバンドメンバーにも就職したい組がでてくるようになりました。
しかも公務員希望。
バンド活動を終わりにしたい、と4人のうち2人が言いだしたのです。
ほんとにひどいけど、私は内心このバンド活動できなくなるかも問題を歓迎していました。
そうだよもう好きなことやってられる時期は終わりなんじゃないの?と。
私も社会人数年目、同級生や同期で結婚する子も出てきて、そんな歳になってきたんだと感じていました。
何度も話し合いを重ねた彼氏とバンドメンバーたちは、脱退希望を受け入れ、辞めたい奴は辞めてよし、でも俺たちは新たなメンバーを入れてこのバンドを存続させていく、という結論に至ったのです。
まじかよーーーーーー。
残った彼氏(ボーカル&ギター)ともう一人(ベース)は新しいメンバー(ギターとドラム)を募集し、あっさり次が見つかってまた活動再開。
だけど、少しの間お世話になっていた音楽事務所には切られたのです。
ここで、気づいてほしかった。
売れるならここでいけたんじゃないの?と。
よく対バンしていたバンドのデビューが決まったりなどがあると、次は自分たちだ!と思えるそのゆるぎない自信が、その頃仕事があまりうまくいっていなくてスランプ気味だった私にはうらやましくもあり、はー、、、何を根拠に言ってんだよいーかげんにしろよーーと、うんざりもしました。
でも結局、彼は就職することになったのです。
それもけっこうな大企業に。。
(大学もいいとこ通ってた)
彼のお父さんが、ある日改まって、お前このままでどうするんだ?とついに問い詰めてきたらしい。
お父さん、グッジョブ!!!!!
それで彼は音楽に大いに未練を残しつつも、バンド活動はできる限りやっていきたいと思いながら就職し、ものすごく忙しい日々を過ごしていき、バンドは空中分解していきました。
それからさらに数年経ち、私アラサー、彼20代後半に突入、私も彼も仕事でハードスケジュールの毎日、でも彼は全然仕事の話をしない人でした。
私はたまに彼に仕事の愚痴をこぼすこともあったので、「そういえばあなたは仕事の話ってあまりしないし愚痴ったりもないよね?」と聞いたところ
「あー、、別にずっと続けていく仕事と思ってないし、上司もずっと関わっていく人たちでもないと思ってるから、そこまでなにも感じないっていうか…。仕事に重き置いてないからかな…」
と言い出して、びっくりしたと同時に、も、もももももしかして、まだバンドやろうとしてる…!?と驚愕しました。
しかも仕事に対してその熱量…人それぞれではあるけれど、大丈夫なのか?色々と…と思いました。
私はもう就職した時点で、バンド活動は趣味と割り切ったものかと思っていて、もともとそんなに彼のバンド活動を応援していたわけでもないから、まあいい歳で諦めてくれてよかったな…と正直思っていたのです。(我ながらサイテーだと思うけど)
そしてそろそろ、私との結婚を考えてほしいと思っていました。
まぁ私も、自分の人生のことしか考えることができなかったのですね。
これはちゃんと話さないといけないかもと感じ、デートの日、二人でカフェに入った時に「将来のことってどう考えてる?私はもう20代後半で、将来子供を産みたいから、そろそろ結婚も考えている」とはっきり言ったのです。
そしたら彼氏が、
「そっか…。俺はまだ全然結婚とかは考えられないな。。俺さ、働いて少したって、やっぱり音楽で食べていきたいと改めて思ったんだよね」
でたーーーーーーーーーーーー。
「実はさ、最近またバンド活動はじめてたんだ。言えなかったんだけど。メンバーもゼロから集めて、曲も作ってさ。これからいろんなところにデモ送るつもりでいるし、やっぱり俺には音楽しかないって働いてみてはっきりわかったんだよね」
・・・。
・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
あの、、「メンバー」のイントネーションて、メ↓ン↑バー↑なんだ?
それって合ってる?
か↓れ↑し↑と同じでいいの?
メ↑ン↓バー↓じゃなくて?
おかしくない?どうなの?うん?
あ、いやいや、今はそこではなーい。
「今はほんと、俺の音楽のよさがわからないなんて可哀想なやつだなと思うもん。それくらい自信持ってやってて」
あー・・・、そのセリフ、BUMP OF CHICKENボーカルの藤くんがその昔、ロッキンジャパンの誌面で言ってたやつーーーーーー。
そんな他人の言葉を自分の言葉のように、それも自分に陶酔しきった表情で言うようなやつに爆売れするようなオリジナルソングが作れるかーーい。
この人窓の外見て遠い目しちゃってるよーー。
そのまま、視線は窓の外を見つめたまま、
「やっぱ、ギターとマイクがないと、自分を表現できないんだよな…。やっぱ、歌ってないとだめだわ」
きゃーーーーー!
聞いたーーーーーーー!?
こわーーーーーい。
なに言ってんのお前もうじきアラサーだろーがーーーー。
そしてフッ…と笑って
「自分でもこんな歳になって何言ってんだと思うよ。…フッ。でもやっとわかったんだ、俺には音楽だって」
うん。「俺には音楽」。いいと思うよ。
お前が今、18歳の高校生ならな。
だけどお前はもう28歳になろうかというところだろうが。
もう夢を見る時期は終わったんではないでしょうか?
今から売れる可能性ってあるんでしょうか?
ねえねえ、本気で言ってんの?
色々色々思いました。言わなかったけど。
「ごめんね、今まで言えなくて。でももう決めたんだ。近々会社を辞めて、ライブとかすぐに動けるような時間に融通のきくバイトを見つけてフリーターになるよ。今の仕事してたらやりたい時にライブができないからね」
彼の目はキラキラ輝いていました。
これから、本当にやりたいことをやるんだ!親に言われて渋々就職したけど、やっと辞めて、やりたいことができるんだ!という、希望に溢れた目をしていました。
「でも、まだまだ考えられないけど、結婚は絶対にお花ちゃん(私のことです)としたい。それは絶対。だからお花ちゃんのタイミングで結婚はしてあげられない。だから出産も。でも待っててもらえない?いつまでっていうのは言えないけど…。音楽は期限を決めないで、自分がもうここまでやってやりきったと思えるまでやりたいんだ。その結果デビューできて売れたら一番いいことだし」
「あと2年かもしれないし、もしかしたら10年かかるかもしれない。でも諦めずにとことんやりたいんだ。人生は一回だから後悔したくないんだ」
これはさ、もうフラレてるってことだよね??
結婚もしてあげられないし、今音楽に対してやる気に燃えてるし、俺のことは諦めて別れてねってことだよね???
私は何も言えませんでした。
ただ、この歳になるまでどうしてこの人と、この人のこういう面とちゃんと向き合わずにつきあってきちゃったんだろう?と激しく後悔していました。
長々つきあってきたのに、とても大事な人生の方向性について、なんの相談も話もなかった。
でもそうさせてたのは私なんだよな。
バンドの話なんて聞きたくないと思ってたし、バンド活動のことも、今度〇〇でライブでさ、とか始まったら「へぇ。そーなんだ(で?いつまでやるつもりなわけ?)」というしらけた空気をガンガン出していたと思うし。。
実際ライブに行ったのは数えるほどでした。
正直、彼の音楽のどこがいいのかさっぱりわからなかったのです。
ありふれた曲調、ちょっと言葉選びのダサめな歌詞。
ミスチルの桜井さんを超意識した歌い方。
固定ファンも全くいなかったと思います。
これ、芽はでないよね、たぶん…。
と、思っていました。ひどいけど。
彼が今必要とするなら、この夢を応援してくれて、結婚だのなんだの言わない人。
此れすなわち私ではない。
長いことつきあって、私ももうアラサーで今から一人になるのは怖いけど、別れるしかない。
だって待てないでしょ、普通に考えて。
10年かもっつった!?こいつ。
バカじゃないの、10年たったらアラフォーだろうが。
「バンドが売れるか、そうでなくてもやりきったと思えるかどっちかまで待てないなら、もう一緒にはいられないってことだよね?」
まったく涙はでてこなかったです。
「そんな風に言われちゃうと辛いんだけど…。別れたい訳じゃないんだ本当に。だけど俺はもう音楽で…どうのこうの…」
もう最後の方聞こえてこなかったです。
こんな結果が待ってたということが信じられなかったです。
音楽で食べていきたいと、こうも本気で言われるとは。
「あのさ、社会人をしながら、働きながらバンドをしていくっていう選択肢はないの?」
「うん、それはできない。100%音楽に時間を使いたいから。仕事してる時間がもったいない」
「え、じゃあ生活費とかどうするの?一人暮らしで家賃とか発生するじゃない?」
「うん、だから実家に戻ろうと思ってる。いちおう実家は関東圏内だからまあすぐに都内に出れるから。実家にいれば家賃とかかからないしさ」
う、うわーーー。
だめだこいつ…。
実家に出戻りほぼニート状態となって、親の脛をかじりながら売れるかどうかもわからない音楽活動をしていくってことですか。。。
てか、それ、親御さんどう思ってんの?
まさかオッケーしてんの?
思うこと色々あったけど、なんかもう怖くて聞けませんでした。
帰りました、とりあえず。
また改めて話し合おう(ってなにをこれ以上話し合うことがある?)と言われました。
その日の夜、ひとりマンションに戻り、お風呂で泣きに泣きました。
結局、本質的なところでは何も分かり合えない人だったのか。
今までの時間はなんだったのだろう。
でも彼の人生だから私がとやかく言えることではない。
と思う一方で、
なんの覚悟もないくせに、彼女がアラサーになるまでダラダラつきあい続けるなんて無責任だろ!
夢を追いたい、だから結婚はできないってことならさっさと別れてあげるのが最後の優しさだろうが!!
とも思って、悲しくて泣いてたけど怒りでも泣いていました。
怒りで泣いたのなんて大人になってからはじめて。
それからすぐ、彼は本当に仕事を辞めました。
さらにそれから少しして、ちょっとした用事で私のうちに彼が立ち寄ることになりました。
家で待っていたらピンポーンとインターホンがなって、玄関を開けたら大きなギターケースを片手に彼が立っていました。
前はファスナーで開け閉めする黒いソフトケースのものを使用していたはずだけど、金具でガチャンガチャンと開け閉めする立派なハードケースに変わっていました。
このグレードアップ感が彼の音楽に対する本気度を見せつけられているような気がして、うへぇ…となりました。
「今、スタジオ借りててその帰り!いい曲できそうなんだよね。新しいメンバーはけっこうみんな押しが強いやつらでさ。笑」
「俺をいかにして説得するかってみんなでかかってくるからね。まあその意見のやりとりもおもしろいんだけどさ」
「へえ~…、そうなんだ…」
聞きたくない。
聞きたくないよー、そんな話。泣
ねぇ、私さ、夢を追いかけてる人じゃなくて、ちゃんと社会人としてお仕事がんばってる人とつきあいたい。
だってもう大人でしょ?
私は考えが保守的だし、30手前で無職状態になってまで自分の好きなことをするなんて考えられないの。
30手前で無職状態を卒業して就職する、ならまだわかるけど、30手前でこれから期限なしの無職状態になるというのはどうしても考えられないよ。
もう別れるしかないよね?
寂しいけど、別れる以外ないよね?
だってその考え変えてくれないんでしょ?
「ボイストレーニングもはじめたんだよね。ちょっと料金高めなんだけどさ。(そのお金って誰が出してんの?ロクに働いてないのに。貯金から?まさか親?って思ったけど恐ろしくて聞けなかった)」
「ボイトレの先生から、ずいぶん喉を使った歌い方してんなーとか言われちゃってさ。笑」
「腹式呼吸、普段から意識してやんないとなー。笑」
笑。笑。笑。
うん、彼は夢に向かって動き出してる。
がんばろうとしている。
立ち去るのは私だ。
「そっか。がんばってるんだね。私も一人になってがんばってみることにする」
そう言って、遠回しにお別れをつげました。
彼は一瞬ぽかんとして、それからいきなり泣き出しました。
本当に申し訳ない、と。
俺があまりに勝手だし悪いのはわかってるけど、それでも待っていてくれるかもと思った、と。(いやそれはないだろ)
俺がこんなこというのはナンだけど、次は甲斐性ある男をつかまえて幸せになってほしい、と。(うるせー余計なお世話だ)
この会話を全部玄関先でして、部屋にはあげませんでした。
彼が出ていってからそっこーでメールアドレス(当時はLINEなんてなかった)と電話番号を削除し、一切連絡はとれないようにしました。
その後何回か、この彼らしき電話番号から電話がかかってきたけど、出ませんでした。
メールも携帯のアドレス帳に登録ありのアドレス以外は受信できないように設定していたので、送れなかったはずです。
私はアラサー時代をシュタタタターっと駆け足で走り抜けました。
仕事をものすごくしました。
新しい彼氏はできていませんでしたが、ひとりの時間を楽しんでいました。
同僚とあちこち飲みに出掛けたり、両親に旅行をプレゼントして一緒に楽しんだり、新たに資格を取ったりしてそれなりに満喫していました。
でも、恋人がいないのはさみしかったし、学生時代の友人はほとんどみんな結婚していきました。
自分だけが取り残されちゃった気持ち。
このまま歳を取っていくのかな?ひとりぼっちで?
漠然とした不安がありました。
そんなある日、小学校からの大親友A子が夜遅くに突然電話をかけてきたのです。
「ごめん、こんな夜遅くに!あのさ、今日、前の職場の同僚の結婚式に出席してたんだけどね!そんで今二次会の帰りなんだけどね!あんたの元カレの、あのバンドマンいたじゃん!?あいつが披露宴の途中で登場して、お祝いの曲をプレゼントっつって、アコギ一本で自作のウエディングソングを披露して去っていったんだけど!!!」
!?
A子とあの彼は、昔A子の彼氏も含めて何度か飲み会をしたことがあって、A子は彼の顔と名前を知っていました。
詳しく聞いてみてわかったのは、A子の元同僚である花嫁さんの結婚相手が彼のかつてのバンドメンバーで大学4年生のときに公務員になると言ってバンドを脱退した男の子だったのです。
披露宴の途中で司会者の人が言ったそうです。
「さて!ここで特別ゲストの登場です。新郎の学生時代のバンド仲間であり、苦楽を共にした唯一無二の親友、〇〇さんがお祝いに駆けつけてくれました!現在はソロで都内のライブハウスにて精力的な活動を続けていらっしゃいます。今日はお二人の為だけに作ったというお祝いのウエディングソングを披露してくださいます。では〇〇さんどうぞ!」
名前を聞いて、あ?と思ったそうですが、登場した彼を見てすぐに私の元カレだと気づいたそう。
GLAYみたいな歌をミスチルの桜井さんみたいな感じで歌っていたそうです。
で、歌い終わって帰っていったらしい。
A子と同じテーブルの子が、「唯一無二の親友なのに披露宴には歌を歌いに来ただけで席の用意はないんだ?」ときついこと言っていたらしい。まぁそれはいろんな事情もあるでしょうよ。。
ソロでやってるんだ・・・。
というか、まだやってたんだ音楽。
彼と共通の友達がいなかったので、近況は全く知りませんでした。
まさかの偶然にびっくりしつつも、本当に音楽やってるんだなーとなんだかしみじみしてしまいました。
バンドはどうした?ソロで弾き語りでもやってんのか?
でも詳しく知りたいという気持ちもありませんでした。
私は、もう〇〇歳なんだからこうでなくちゃ、という凝り固まった考えがあったし、夢のようなことに向かって真剣になれる人の気持ちを理解できなかったのです。
彼も夢を貫き通して勝手だったけど、私も勝手な偏った考えをしていたのですね。
やっぱり夢追い人を支えることができる人は、その人が好きなことをやっているその姿が好きなの!という強い気持ちがないと難しいと思いました。
そしてそれは自分には無理だったと。
かつての仲間の結婚式に、アコギをかついでお祝いソングを歌った彼の姿がなんとなく想像できました。
私はその後すぐに仕事で今の主人と出会い、交際1年ほどで結婚しました。
決して、夢を追いかけていた彼をけなしているわけではないのです。
苦い思いをしたあの彼のことは、なつかしいなつかしい思い出なのです。
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