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権力なんて怖くない - MBA組織行動論

オハイオ州立大学MBAのOrganizational Behavior(組織行動論)のクラスが2024年3月に始まった。6回(1回3時間)のクラスで以下を順に学ぶ。組織には隠れたルール(Hidden rules)がある。ルールを正しく見極めて上手にプレーするための前提知識やテクニックを学ぶ。

  1. 組織内の複雑な人間関係の中でリーダーシップを発揮する

  2. 賢く意思決定する

  3. 説得力のあるインフルエンサーになる

  4. 組織内の衝突に対処する

  5. チームワークでシナジーを創出する

  6. クリティカルな問いかけで空気を動かす

1回目のクラスは事前にケースを読んで挑んだ。ケースを通して、「組織内の複雑な人間関係」を疑似体験する。


(1)Texcorpのケース

■ケースの概要
生地メーカーでオーナー企業の3社が合併しTextile Corporation (TexCorp)という会社が創立される。その後同社は業績が悪化し、コングロマリットの化学メーカー、National Chemical Company (National)に買収される。
(National(親会社) -> TexCorp(子会社)となる)
テキスタイル業界には良い人材(マネジメント候補)がいない。National のNon-chemical部門のヒックス部長(Texcorpを管轄する)は知り合いをたどりハーバードMBA卒のミッチという27歳の男性を雇用する。
ミッチはTexcorpのアボット社長のサポート役(アシスタント職)となる。(偉い人順で言うと、ヒックス部長 -> アボット社長 ->ミッチの順になる。)
ミッチはヒックス部長から「テキスタイル業界を勉強し、計画している同業種企業の買収に向けて準備してほしい」と言われるが入社後半年が経ち計画が立ち消えになる。
同時にTexcorpの業績は悪化の一途を辿る。業績改善のための施策をアボット社長に提案するものの真剣には受け止めてもらえない。ヒックス部長はミッチを信頼しているようだが、部長の忙しい時期と重なり接点は最小限。
ミッチは昔気質でワンマンなアボット社長に不信感を抱く。また曖昧な職位にも不満を持ち、入社から1年半が経過したときにTexcorpを辞めたいと本気で考える、というストーリー。

10ページの長尺のケースで、ミッチの心理的な葛藤がぎっしりと書かれている。今回のケースでは人がたくさん出てくるのでエクセルシートにまとめながら読み進めた。英語の名前を覚えるのは難しい。

クラスではケースの内容を簡単に振り返り、教授からの質問で議論がスタートした。
「ミッチはTexcorpをやめるべきか?」

ミッチの悩みのタネは以下のとおり。
①役割が不明慮で動きが取りづらい
②職位が低いのでやりたいことができない
③2人のボスがいて指示系統がはっきりしない
④よそ者扱いされて疎外感を感じる

以上はミッチの主観で捉えた悩み。ケースの中ではポジティブな状況もたくさんあり、教授はミッチの立場を見方を変えて因数分解する。

①役割がはっきりしないので、自由に動き回れる。
②職位が低いので、組織内のプレッシャーや脅威を感じる必要がない
③2人のボスがいるというが、実質的には権力が真空になっている(Power vacuum)。意思さえあれば目的のために行動を起こせる状態。
④外部者として上手く立ち回り、情報も集まり、自由に行動できる

確かにその通りだと思う。物事は全て捉えよう、というよりは、ミッチがあまりにも悲観的過ぎるように思う。ミッチは組織上の職位が低く、ワンマン社長とも上手くいっていないが、ミッチの雇用を決めたNationalのヒックス部長には信頼されているし、Texcorpの多くの同僚とも接点を持ち、必要な情報はミッチに共有されていた。
一方ミッチ本人はワンマン社長を前にお先真っ暗と感じてしまうのだ。
ミッチは組織内の自分の立ち位置を俯瞰できずに、自分の立場を悲観的に捉えていた。

(2)組織の権力基盤を分析

組織内で上手く立ち回るには、以下を心がけよう。

自分の権力基盤(Power base)を分析
- 自分の強みと弱み
- どのように権力基盤を構築できるか(スキルや情報等、自分のキーリソース、人脈を分析し、リソースの交換相手を探し交換方法を吟味する)

  • キーパーソンのキーリソースを理解する
    (何を最も重要に考えていて、何を与えると喜ぶのか、彼らのモチベーションを上手に聞き出す)

  • 組織体制の制約を感じたら組織の穴を探して具体的な対応策を練る。(Power Vacuums

また、組織やチーム内でやりにくさを感じたら組織構造を5つの要素に分解し、どこにギャップがあるか突き止める。そして、策を練る時に具体的なギャップに対処する。

  • 戦略 (Strategy):正しい目的地に向かっているか

  • 能力 (Capability):適切な運転手はいるか

  • 構造 (Structure):ちょうどいい車を持っているか

  • プロセス (Process):マップがあるか。適切なルートを確保できるか

  • 報酬システム (Incentives):目的地が行きたい場所か

解決困難で複雑な問題の前ではサジを投げてしまう人が多い。時には諦めることも必要だと思う。だけど諦める前に考え直すほうがいい。本当にそんなに難しいことなのか。

(3)失敗の原因、受け止め方は人それぞれ

心理学的な観点から、物事の因果関係を人がどのように感知するか考察した。
長期的にストレスを受け続けた人は「何をやっても無駄」というマインドセットができ、自発的な行動を起こせないという(学習性無力感)。
また、原因を他人のせいにするか、自分にあるとするかで人の行動特性は変わる(Locas of Control:自己解決型と他者依存型に分類)。
算数教育では、点数の低い子供に対する親の考え方にお国柄が出るという。アジアでは「努力が足りない」といい、欧米では「あなたには才能がないわね」と言う。環境が認知様式に影響を与えることもあり得る。

哲学者デイヴィット・ヒューム(1711-1776)は、当時伝統的に伝えられてきた物事の因果関係は事実でなく知覚的なものだと指摘した。つまり例えば「私はよそ者だから組織に溶け込めない」と思うのはミッチの知覚であり、事実かどうかは不明ということだ。

社会心理学者のバーナード・ワイナーは、目的達成における成功と失敗の因果関係について、コントロールの所在(内部or外部)と原因の変容性の二つの次元に分解し、以下の4つの要素に整理した。成功と失敗の要因を人が主観的にどう捉えるのかによって、次の行動に対するモチベーションも変わる。内的な事象(能力や戦略)や変化させやすい事柄(戦略や運)に要因を関連付ける人は、失敗を次の成功に変えるモチベーションを創り出しやすいタイプの人ということになる。
もっというと、「戦略」に失敗の原因があったと考えるクセを付ければ、困難な問題に直面してもフリーズすることなく、戦略を見直し行動するようになる。
そして、このような考え方はコーチング等で導くことができるという。失敗しても正しくチャレンジを続ける人が多くいるほうが組織は活性化する。

組織内の権力を主観的に認知して右往左往するという次元から抜け出し、やりにくさの根本原因を客観的に分析し、組織内で自分自身の権限基盤を実際に築き上げるという地道なタスクを胸を張ってこなせばいい。

教授は屈託のない笑顔でこれを教えてくれた。

ミッチは部門内での形式的な権力や地位にこだわっていたが、ミッチには仲間や情報、組織内の人脈、彼自身が受けている高い評判と実績等、非公式だけど十分な権力基盤を持っていた。

このケースには動画が附属されている。本物のミッチとNationalのヒックス部長が出演し、15年後に当時を振り返り対話している。ワンマンなアボット社長はその後すぐに退任。ミッチは会社に留まりヒックス部長の配下で複数の被買収企業のマネジメントを経験し、着実にキャリアを積み上げていた。

何だってやりようがある。
自分の感情は大切だけど、戦略を練る時は冷静になるべきです。
「冷静と情熱のあいだ」で行ったり来たりすればいい。
きっと人生は楽しくなる。


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