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2019年:とっておきの3作品【100冊から厳選】

読んで残念だった3作品に引き続き、今日は100冊読んだ中からとっておきの3冊をご紹介。

100冊読んでも、心にグッと来るものはごくわずか。たとえば、食べ放題に行くといろんな種類の料理を食べるかと思います。お腹いっぱいになって「美味しかった」って思っても、思い浮かべるのは本当に自分が気に入った料理だけ。とっておきの本選びは、あの感覚に似ています。

さて、心にグッとくる作品を選ぶ基準は次の3つです。

・読了数ヶ月経っても、余韻が続くもの
・インパクトのある内容
・自分の人生と重ねて考えたくなるような、共感する作品

その基準を元に、とっておきの作品にした理由と本の感想を述べています。順位は特につけていません。

1.『ぼぎわんが、来る』 澤村伊智

「ホラー小説っぽいけど、『ぼぎわん』って何やねん!」、そう思って手に取った小説。ぼぎわんは霊というよりも、妖怪や怪物の印象。

この作品で、ホラー小説を再び読むキッカケになったのです。そういう意味で、私のとっておきになりました。比嘉姉妹のシリーズで、4作品あります。その中でも「ぼぎわん」が怖くて、おどろおどろしくて好き。

この本を読んで思ったのは、霊や呪いよりも恐ろしいのは生身の人間。

(Wikipediaからの引用)「"今まで正義だと思っていた人間が、角度を変えてみた時に全くの別人に変わる"という人間の怖さ」を描いている。第1章と2章で、田原のイメージが大きく変わる。ぼぎわん以上に、恐ろしい。

心の隙に付け入るのは人間だけじゃないです。霊や呪いは、人の醜い心が投影されて生まれたものなのかもしれません。読後数日は、ドアのノックや呼び鈴に怯えました。この気持ち、読んだ人ならわかってくれるはず。

作者の澤村伊智さんは、2015年に「澤村電磁」という名前で、第22回日本ホラー小説大賞に『ぼぎわん』を応募。それが見事、大賞に輝きました。この大賞をキッカケに、「澤村伊智」という名前で小説家デビューして、『ぼぎわん』は『ぼぎわんが、来る』に改題。

澤村さんは大のホラー好きなようで、どういう展開で読者を驚かせようかというホラー愛が伝わってきます。だからこそ、彼の作品は読んでいて楽しかったです。

地方に伝わる妖怪話には懐かしさを感じました。姥捨山などの話は小さい頃に聞かされたことがあります。私は田舎に住んでいて、家の裏が山だったから「見知らぬお婆ちゃんが捨てられてるのかな…」と怯えながら寝たことがあります。猫の発情期の声が、赤ちゃんの泣き声だと思っていた時代もありました。

あと『ぼぎわん』で大賞を受賞した澤村さんの話が描かれる、『恐怖小説キリカ』もオススメです。実話にフィクションを混ぜて描かれているから、現実味を帯びて恐怖が倍増。読後は感想を書くと、殺されるかもしれない…。その理由は、作品を読んでみて下さい。

2.『ひと』 小野寺史宜

「あなたにとって、本当に大切なものは何ですか?」そう問いかけられて、自分の答えを考える作品でした。絶望の中にも希望があって、優しいお話。あと、コロッケが無性に食べたくなりました。

主人公の聖輔はひとりなってしまったけど、ひとりじゃなかった。ひとりで生きる強さは必要かもしれないけど、頼れる人に頼る、甘える勇気だって必要。自分が辛い時こそ、誰かに優しくする。その小さな行いが、聖輔の「これから」を変えました。

「大切なのはものじゃない。形がない何かでもない。人だ。人材に代わりはいても、人に代わりはいない。」

お金はなくなれば、稼げばいい。物は壊れたら、買い換えればいいと考えることができます。でも「あなた」や「わたし」の代わりはどこにもいません。そう思うと、人や自分のことを無下にはできません。

人と信頼関係を築き、それを繋げていく。誰かに対して、善い行いをできる人間でありたいです。

人とのつながりは大事、友達も大事。だけどそれは、誰にでも良い顔をすることじゃないのです。心にとどめていけないのは、自分が大切にしたい人たちを大切にすること。誰かといても寂しさを感じたり、「ウラで陰口言われてんのやろうな〜」と思ったりしたら、人間関係を見直す目安にしていこうと思います。

「良い人は損をする」と言われるけれど、それは本当なのでしょうか?聖輔のような良い人は、損な役回りは多いかもしれません。逆にずるい人は、良い思いをすることは多いし、上手に世を渡っているようにも見えます。

でも、良い人は回り道をしているけれど最終的に幸せを掴むと思います。なぜなら、常に人より優位じゃないと嫌で、自分の利益ばかり考えている人が見えていない「幸せ」や、損得関係なく自分を思ってくれる「ひと」が周りにいるから。ずるい人は、お金や地位が「幸せ」だと感じるため、それがなくなったらひとりぼっちになる可能性は高いです。

この物語と自分の経験してきたことを重ね合わせて、聖輔の生き方や考え方に共感しました。今年の本屋大賞の作品の中で、個人的には「ひと」を大賞作にしたいくらい読んで良かった本です。


3.『人間失格』 太宰治

救いがなくて、こちらまで「人間失格」にさせられているような気分です。お見事!この作品を読んでから3ヶ月ほど経ちますが、まだ余韻に浸るほど印象深い内容。

人間は一つのたがが外れると、流れに乗ったままどん底まで落ちていくのみ。いくらでも軌道修正は可能だったのに、それをせず楽な方へ逃げて甘んじてしまった主人公。

彼が落ちるのに必要な出来事が次から次に揃ってしまい、まさに「人間失格」となってしまうのでした。でもそこが見どころでもありました。落ちる瞬間の出来事もよく分かり、「そっちに行ったらアカンって!」と呼び止めたくなりました。

人生の迷子、ってこの事?

人間が落ちていくのは意外に簡単で、立ち上がる方が難しい。どう選択するかは自分が決められるのに、この主人公は周りの人にも恵まれなかったのが残念。ダメンズの魅力は、儚さと自分への甘さなのかも。だからこそ、「助けたい(一緒に堕ちたい)」と思わせるのだろうな。

家族、友人、女性たちが彼のお尻を叩いて支えてあげられるような人たちなら、彼の人生はもう少し変わっていたかも。

でも読書好きの私の旦那さんは、「最後まで救いがないからこそ、名作になった。」とコメント。読む時の自分の気持ち、環境によっても感想は変わると思うので、数年後にまた読み返してみようと思います。


以上が、今年とっておきの3作品です。今年は読む本のジャンルが偏ってしまったので、来年は普段読まないファンタジーやSFにも挑戦してみようと思います。

サポートありがとうございます。