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優しかった頃の父と私と手紙

最近は手紙に関する読み物をよく目にして、手紙には思い入れがあるなと考えた。

私は手紙を書くのが好きだ。

友達と交換日記をしたり、旦那さんに手紙を書いたりする。人に何かを渡すときも、一言だけでも手書きのメモを添える。

私はシャイで口下手だから、文字は私のコミュニケーションに必要なもの。「ありがとう」、「ごめん」、「あなたを大事に思っています」など、直接言いにくいことは手紙を通すと伝えやすい。

これは父親の影響なのかなと、ふと思った。

私の父は自営業をしていて、小学生の頃は父の手伝いをよくしていた。暴力的で支配的な父だが、商売がうまく行っていた頃は優しくて穏やかだった。

当時は今みたいにSNSがなく、父はお店の広告を出す時は、印刷屋さんでハガキを刷ってもらっていた。商品の写真とポップな文字が並んだハガキを、常連のお客さんに送るのだ。100枚以上あったように思う。父はお客さんの宛名を1枚ずつ手書きしていた。

小学生だった私は、パソコンで打ち込めば楽なのにと言った。お前は分かってないな、と父は首を振った。

「ええか。手で書くのは、相手に思いが伝わるんや。商売人っちゅうのは、お客さんがいて成り立つんや。相手の名前を書きながら、相手の顔を思い出す。そしたらな、文字を書くときも心がこもるねん。心がこもるということは、『ありがとう』の気持ちや。それが真心っちゅうもんや。めんどうでも、わしは一人一人のお客さんを思い浮かべながら、大事に書いていくんや。」

父は筆ペンをとり、宛名を書いていく。一文字一文字、真心込めて。キレイで存在感のある文字だった。

それでも小学生の私は、やっぱりパソコンの方が楽なのになと思った。でも後日、ハガキを持って訪れる人が「おっちゃんの文字見ると元気出るわ!」と言うのを見て、「ありがとう」の気持ちで書くのはいいなと思った。

気がつけば私は、何にでも手紙をつけていた。友達に借りたノート、好きな子へのバレンタインチョコと一緒に付箋メモを入れた。真心込めて。

大人になってもその習慣はそのまま。文字にして気持ちを残したい。言葉では伝わらない想いが、手紙には現れると思っている。

手紙をもらうのも好きで、全部宝物ボックスに保存。デジタルだと無機質な言葉が、手で書くと相手と自分の気持ちが見える。温かさ、優しさ、感謝の思い、愛情など。へんてこな字、誤字なんかも含めてその人らしさが出るのがおもしろい。

 手で書くことは真心

誰かに手紙を書く時は、父との数少ない良い思い出も蘇ってくる。反面教師でしかなかった父だけど、この思い出と教えは大事に引き継いでいこうと思う。

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