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【第37話】暴力の中に愛情は存在しない

それまでの父の理不尽な言動と行動を許せていたのは、父が大好きだったから。

子供の頃は色んなところに連れて行ってくれて、子守唄を聞かせてくれて、たくさん遊んでくれて、頭も撫でてくれて、宝物のように扱われた記憶もある。

その優しい父こそが、”本当の父”だと思っていたのだ。でもそれは、違った。見たくないものを見ようとしなかっただけだった。

暴力の中に愛情なんて存在しない。私の大好きなお父さんは、あの日いなくなった。

*読む時のお願い*
このエッセイは「自分の経験・目線・記憶”のみ”」で構成されています。家族のことを恨むとか悲観するのではなく、私なりの情をもって、自分の中で区切りをつけるたに書いています。先にわかって欲しいのは、私は家族の誰も恨んでいないということ。だから、もしも辛いエピソードが出てきても、誰も責めないでください。私を可哀想と思わないでください。もし当人たちが誰か分かっても、流してほしいです。できれば”そういう読み物”として楽しんで読んでください。そうすれば私の体験全部、まるっと報われると思うんです。どうぞよろしくお願いします。

*読む時の注意*
このエッセイには、少々刺激が強かったり、R指定だったり、警察沙汰だったりする内容が含まれる可能性があります。ただし、本内容に、登場人物に責任を追求する意図は全くありません。事実に基づいてはいますが、作者の判断で公表が難しいと思われる事柄については脚色をしたりぼかして表現しています。また、予告なく変更・修正・削除する場合があります。ご了承ください。

記憶が曖昧だが、多分私が高校2年生くらいの時だったと思う。その頃、父親が物に当たり散らし、継母がヒステリックに喚くのを聞かない日はなくなっていた。

”お父さんがいなくなった”あの日も2階の自室にいると、階下で両親が罵り合う声が聞こえた。それが彼らなりの会話だと思い、私は気にも留めず、彼らの声をかき消すため音楽のボリュームを上げ、携帯を触っていたように思う。

ガッシャーン!ガタンッ

私は一瞬、動きを止めて耳をすます。また父が物でも割ったのだろう。気にせず携帯の画面に戻る。断片的にだが彼らの声が耳に入ってくる。

 「おまえって女は…」
 「なによ!あんたこそ…」
 「パパもママもやめて!」

ガッシャーン!!ドン…

泣き声に近い妹の声と、今まで聞いた中でも一番大きな物音。何か良くないことが起きていると確信した。走って階下のリビングに行くと、6歳の妹が立ちすくみ声を出さずに涙を流している。3歳の弟は妹の背中に隠れるようにして、怯えた目で両親を見ている。

両親に目をやる。ダイニングテーブルの横に倒れて肩を震わす継母。机の上の箸立てが倒れて、箸が床に散らばっている。父は拳を強く握りしめて継母を睨んでいる。息遣いがふーふーと荒い。

あ、殴ったんや。

私が状況を察している間にも、父は継母に罵声を浴びせ近づいていく。頭より先に体が動いて、叫んでいた。

 「何してんねん!やめろ!」
 「どけ。邪魔や。」
 「嫌や!私がどいたら、また殴るんやろ?!」
 「お前には関係ない!ガキは引っ込んどけや!」
 「そやったら私も殴ったらええやん。ほら、やれよ。」

反射的に継母の前に立ち塞がったものの、父が拳を振り上げたのを見て自分の言動を後悔した。殴られる!歯を食いしばり、ギュッと目を閉じた。でも拳は飛んでこなかった。フンと鼻を鳴らして、部屋から出ていった。そして妹と弟は、金縛りが解けたみたいに継母の元に走り寄って、泣いている。

私は立ったままそこから動けなかった。気を緩めれば、腰が抜けそうだった。そこで初めて自分の心臓の音がいつもよりも異常に早いことに気づいた。手も震えている。殺気立った大人の男性が迫ってくる恐怖。娘であろうと容赦しないという目つき。既に1人は餌食となった、怒りの塊のような拳。私の中の「本当の父の姿」と、目の前の憎悪に満ち溢れた父が重ならなくて、悲しさや怒りよりも先に混乱を覚えた。

妹、弟と継母がリビングから出ていくのを見て、ようやく我に返った。継母は弟と妹の部屋がある2階へ行ったから、後を追った。継母の目の周りと頬が赤く、生気のない目で遠くを見つめている。弟はベッドの上に蹲って「こわいよ…こわい…」と呟き、妹は表情の読み取れない顔で俯いている。

 もうアカンわ。うちの家族壊れていってる。

その後、私と兄が一緒に警察に行くように説得しても、継母は首を縦に振らなかった。(普段は彼も父と大差無い粗暴な人間なのだが、兄はこの時だけはまともだった)それが元で、結局この出来事はうやむやになってしまった。目の周りの腫れが消えても、父のやったことは私たちの心から無かったことにならないのに…みんなアホや。何も解決してないのに。そやけど何もできずに、唇を噛み締めてる私もアホ。

あれから、両親の喧嘩は減った。

というよりも、継母は逆らうのが怖くなり、よっぽどのことが無い限りは彼の言うことに従っていた。弟は1ヶ月ほど、父が手を上げる仕草を怖がっていて、近付こうともしなかった。でもこの一件で、父の支配欲が刺激されたのか、暴力は日常化していくことになった。継母が我慢すればするほど、悪化していったのだ。

怒らなければ、優しくて楽しくて、子供思いの父。休日には私たち子供の大好きなパンケーキを作ってくれたり、一緒に遊びに連れて行ってくれた。その時の彼は、私たちの喜ぶ顔を見て嬉しそうだったし、学校の話や友達の話もたくさん聞いてくれた。毎日こうだったらいいのにと思った。でも私の大好きだった優しい父はいなくなった。

どんな理由があっても、家族を殴ったり、罵ったりするのは愛情じゃない。暴力で与えられるのは、疑心と苦痛しかない。「お前のため」、「根性が足らへん」理由で殴られて、罵られて、殴られる側が大人しくなるのは、それ以上の苦痛が怖いから。早くこの苦痛から解放されたくて、黙ってた方が楽やから。その人のためになっているんじゃない。

本当に相手のことを思うなら、相手の苦しみ、悲しみも理解して受け止めて、それから一緒に解決方法を探すことやと思う。大切な人に笑顔でいてほしい。それが愛情なんじゃないやろうか。自分のわがままを押し通したい、人が自分の思い通りにならないから殴っていいなんて、駄々をこねる小さな子供みたい。家族はおもちゃじゃないし、ストレスのはけ口でもない。ストレス解消したいなら、人を傷つけ無い方法で自分の楽しめることをやって。

父は殴って言うことを聞かせるタイプだったから、私も兄弟を叩いて言うことを聞かせることもあった。でもそれは、心も体も痛みしか伴わない。

してほしいこと、不満、聞いてほしいことは、「こう思うから悲しい、辛い、ムカつく。でもこうしてくれると嬉しい」って理由と気持ちを言葉にするしかない。それで分かってくれなくて手をあげるような人なら離れることも考える。人はそんな簡単に変われないけど、自分の気持ちと行動を変えるのは今、この瞬間からでも本気になれば出来る。ううん。するしかない。

父の不安定な愛情について考えた時、将来私が結婚する相手は、言動と行動が一致する人と一緒になろうと決めた。人や機嫌によって態度を変える人、女性に敬意を払えない人には気をつける。自分が少しでも「何か違和感がある」と感じたなら、それを無視しないようにした。

ある小説に『本当の愛情は信頼と尊敬と尊重』と書いていた。身体的、精神的、性的、束縛などの「暴力」の中に愛情は存在しない。本当にその通りだと思う。

どんな人にも、それだけは覚えていてほしい。

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Mai🍁いとをかしな日常
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